DXナレッジ

「データ」ってなんだか分からなかったので調べてみた②

 
日本は結構、データのことを誤解している。

前回、DXで必要なデータとは何かについてお話しました。( 前回記事「データ」ってなんだか分からなかったので調べてみた① )今回はその補足、日本にありがちな「データに関する勘違い」についてまとめてみました。

DXの推進が滞っているのは「データとはなんなのか、どう使うべきなのかの認識がそろっていないこと」に課題があるのではないかと感じる内容です。
 
 

無意味な日本のポイントカードアプリ

 
前回、DXにおけるデータとは「外部のリアルデータを取得すること」を意味しているというお話をしました。

・カメラやセンサーなどIoT機器を使い、これまで見えていなかったデータを取得
・アプリやオウンドメディアをリリースし、ユーザーの行動データを取得

IoTやWEBコンテンツは、ユーザーのリアルな行動データを取得するための手段であるということです。

ですが、日本のアプリはそれそのものを目的としてしまっているケースが目立ちます。

代表的な例は、ポイントカードのアプリ化です。
会員カードをアプリ化したところで、使うのは店舗に行った時だけです。つまり、毎日ユーザーが利用するものになっていないためリアルな行動データが取れない、ただ財布からポイントカードを1枚減らすことに貢献しているだけです。

もちろんお得なキャンペーン情報なども随時配信していると思いますが、そのお店に対するニーズが毎日発生しない限り毎回チェックしたりしません。それではやはり行動データの取得につながることはありません。

おそらくアプリを創った目的は「ユーザーの属性データを取得すること」ですが、後ほど詳しくお話しますが属性データはそれほど有効なデータではありません。必要なのは行動データです。

アプリもオウンドメディアもそうですが、真の目的はPV・ユーザー数の獲得ではなく、ユーザーの行動データを取得しニーズを特定すること。一人ひとりのニーズを把握することで、一人ひとりに的確なサービス提供を行うことです。そのために、ユーザーが日々利用するモノにならないと、ニーズを的確に読み取ることができず意味を成しません。

DXの基本は「デジタルで多くのユーザーとの接点を作り、成約率が高いユーザーとのリアル接点を増やしていく」ことです。ポイントカードのアプリ化は元々いたリアルユーザーをデジタルに転換しただけなので、ユーザーの接点を作る役割も果たせていません。
 

引用:『アフターデジタル』日経BP 著者:藤井 保文・尾原 和啓 (本文中の図を引用し、読者の解釈を助けるために情報を補足して作成)

 
「DXはデジタル化ではない」という真意が、もっともわかりやすく理解できる事象かもしれません。
 

数値データだけを集めても使い物にならない

 
上記でお話した通り、必要なのは数字データそのものよりも、行動データです。

たとえば「Aさんは年間60本の映画・ドラマを見ている」というデータからは、Aさんは映画・ドラマファンであるという情報しか得ることができません。 

ですが、Aさんの行動データを調べることで「Aさんは昨年まで月2本しか見ていなかった」「Aさんが見ているのは俳優Bが出ているドラマ・映画」「Aさんは今年〇月から俳優Bのファン化している」という情報が見え、Aさんは映画・ドラマ好きというよりも、俳優Bが好きなんだというデータを得ることができます。

前者によって導き出される施策は「新作映画の案内頻度を高める」など、Aさんにはまったく刺さらない有効性が低い情報になります。後者は「俳優Bが出ているバラエティや、俳優Bが好きな人が好む他の俳優の映画・ドラマを紹介する」といった施策になり、Aさんに有効性が高い情報になります。

数字データは重要ですが、人は、一人ひとりまったく違う人間であり、一人ひとりのニーズは行動データを追っていかないと見えてきません。その行動データを追える時代になったのだから、それをビジネスに活用しましょうと言っているのもDXです。

従来のビジネスはユーザーを「東京都在住・30歳男性」と属性データで大きくくくり、狙った属性ターゲットに大量に絞ったクリエイティブを乗せた広告を配信し1~2%の人が購入。その後継続利用してもらえるかどうかはわからない、という世界でした。それゆえに大量の廃棄ロスを産む結果にもつながっています。

一人ひとりに必要なものを届けられるようにすることもDXの重要テーマであり、数値データだけのバックリとした分析は旧時代のやり方として敬遠されていくでしょう。
 

「データは財産」という幻想

 
「データを売買してビジネスするというのは幻想。データはどのような企画で、どのような人に、どのようなベネフィットを提供するかをセットで考えソリューション化しないと売れない。」

と言っているのは、中国アリババ社のUXをけん引してきたポール博士。ユーザーデータそのものは、マーケティング・広告、信用スコアの策定の材料、国のインフラ整備の参照と活用方法が限られており、しかもそうとうな量のユーザーデータを持っていないと価値にならないそうです。

つまりユーザーデータも、それ以外のデータもほぼ売り物にはならないということです。ですが、日本では「データを貯めこんでおけば、どこかに高く売りさばくことができる」と考えている節があります。

実際、クラウド系のITベンダーも「いまは明確な使い道が思い浮かばなくても、とにかくデータをためておけば将来必ず役に立つ」と言っているそうです。結果、貯めたデータの多くは活用されず、維持・管理に余計なお金がかかってしまう。

利用方法を考える労を避け、ただデータを貯め、そのままそれを売るというのは幻想です。多くの企業がデータの活用方法を見出すことに四苦八苦してる中「データを売ってあげますから、活用方法はそちらで考えてください」などというビジネスが成立するわけがありません。活用方法がわからなければ、データの価値もわからず値の付けようがないからです。

また、複数社でデータを集め販売しようという動きもありますが、この場合、各社のデータを、膨大な時間とお金をかけて整え統合する役割をどこか一社が無償で担う必要が出てきます。どの会社もやりたがらないでしょう。

データは、自社のビジネスの効率化・進化させるために使うというのが正解です。

もちろん、例外はあります。

日本の代表的なDX事例であるコマツのLANDLOGは、建設現場にさまざまなIoTセンサーやドローンによって撮影されたデータを3D化し、デジタル上で建設現場のリアルタイムの状況を把握することができるプラットフォームです。

LANDLOGは、蓄積された3Dデータなどを同じく建築系アプリケーションを作るサードパーティー企業でも利用できるようAPIでオープンにし、APIで1コールいくらという従量課金方式で販売しています。(「API コール」とは、データ提供先ができる特定の操作のこと。データの追加・後進・削除などを行った場合1コールとしていくら発生するといった仕組み。) イメージは GoogleMAP。サイトにGoogleMAPを埋め込んで使用できるのは、Google がMAPデータのAPIを外部公開しているためです。

これにより、コマツ以外の企業による建設業界向けのさまざまなアプリサービス展開が広がっているそうです。この流れは、コマツのミッションである「ものづくりと技術の革新で新たな価値を創り、人、社会、地球が共に栄える未来を切り拓く」と合致しています。

コマツのDXが、いかにデータの有効活用方法を、頭をひねって考え抜いているかが良く分かります。
 

まとめ「データに対する考え方も後進国」

 
日本の、データの捉え方に関する誤解についてお話してきました。

●アプリなどデジタルコンテンツはそもそも「日々使われるモノ」を目指し、ユーザーの行動データを取ることが目的。日本のアプリは「リアルのデジタル化止まり」でそうなっていないパターンが多い。
●数値データも重要だが、もっと重要なのは行動データ。行動から読み取れる因果関係を見出さなければ意味がないという考え方が日本にはまだ浸透していない。
●日本は「データを蓄積することが財産になる」という考え方が一般的になりがち。データは自社の経営に役立てるものであり、それそのものが売れるわけではない。

日本は、DX後進国である前に、データに対する考え方からして後進国です。また、データに対する考え方が遅れている中で、模倣でデジタル化を急速に進めようとしているがゆえに起きているのが「データドリブンで属人化を排除せよ」という極端な論調です。

ビジネスは形式知と暗黙知、双方のバランスが重要であることは、どんなにDXが進もうと変わらぬ事実です。暗黙知が企業の競合優位性を作っており、どの企業でも模倣できてしまう形式知はいくら取り入れたところで競合優位性にはなりません。そして、デジタル化できるリアルは「形式知できるノウハウ」です。

データに関しても同じです。すべてデータの言う通りにすれば、他社と同じことをやることになり差別化できなくなります。データはこう言ってるけど、あえてこっちに行く、といったデータとの付き合い方を身に着けていかなければ日本の強みが発揮されることはないでしょう。
   

参考:
『アフターデジタル2』 発行:日経BP社 著者:藤井 保文
『DX CX SX 挑戦するすべての企業に爆発的な成長をもたらす経営の思考法』 発行:クロスメディア・パブリッシング 著者:八子知礼

 

執筆者
リビルダーズ編集部

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