DXナレッジ マネージメント

日本はIT後進国、というよりまだまだ絶賛鎖国中

 

なんの不自由もなく暮らせているせい、なのでしょうか。
日本はIT後進国なんだ、デジタルディスラプターに備えなければいけないんだと警鐘をいくら鳴らされても、DXは一向に進みません。

ここはもはや、危機感をあおってもDXは進まないという事実を一旦受け入れ、もっとほかの動機を見出すべきなのではないか。そう考えていた際、出会った一冊です。

『日本のDX最前線』出版:インターナショナル新書 著:酒井真弓

著者が取材を丹念に重ね、日本のDXのリアルについてつづったルポルタージュ (現地報道) です。
よくあるDXナレッジの体系本とはちがい、身近で、解像度が高い「参考になるDX情報」がたくさん書かれている快作ですが、同時に見えてくるのは、日本企業の情けない姿勢。

「ザ・日本企業から脱却したい」という動機は、一つDXを推進するきっかけになりうるかも知れません。本書のポイントを絞ってご紹介します。

 

わかっていたが、ここまでとは 【本の概要】

AIやIoTの話が入ってくると「自分たちの組織とは関係ない話」に思えてしまいがちですが、本書で取り上げられている事例はリアルで現実的です。

北海道全域でスーパー、宅配、物流、食品製造、電力、葬祭など多角的に事業展開する組織「コープさっぽろ」にはじまり、「いかセンター」「声優プロダクション」などアナログイメージが強い企業のDX活動について書かれており、参考になる情報が非常に多いです。

ですが、本書に登場する、国内外でサイバー攻撃演習を実施している鎌田敬介さんいわく

「日本企業のDXの課題は、勉強する気のない子どもをどうやってやる気にさせるかに似ている」

引用:『日本のDX最前線』出版:インターナショナル新書 著:酒井真弓

海外、特にASEANの人々のレベルは格段に上がっているそうで、英語で活発に議論し、演習後も質問が飛び交い、人脈づくりも積極的。対する日本企業の参加者は「会社に言われて参加しました」レベルで主体性に乏しいそうです。

近年、新卒が3年経たず転職してしまうケースが多くなっていると聞きますが、原因はこの日本企業の姿勢にあるのではないでしょうか。この違和感、デジタルネイティブな若い世代は、それ以降の世代よりもクッキリと感じ取ってしまっているはずです。

くわしくは本書を読んでいただくとして、日本企業の「わかっていたけど、ここまでとは」という危機的なスタンスについてお話します。

 

やはり足かせだった、鉄球のように重い形式主義

形式にこだわりすぎて、物事の進みが非常におそい。

多くの人が共感する日本企業の特長ですが「これが組織で働くということだ。我慢できないなら起業しろ。」と当たり前化されてきました。ですが、DX時代になり、この形式主義が一変「足かせ」として敵視されるようになってきています。

日本企業は、外部サービスを利用するとき
①担当営業を呼ぶ
②見積もりを出させる
③稟議を上げる
④役員会で検討し、承認

細かくは、与信調査や法務による契約書内容のすり合わせなども入ってくるため、サービス利用開始まで1ヶ月以上かかるということが往々にしてあります。

ですが、ある大手企業が海外のクラウドサービスの利用を検討した際のこと。クラウドサービスが「営業担当はいない」「見積もり作成はしない」「試しに使ってみてもらって、よければ買って」というスタンスだったことから、大手企業はサービスが使えないという状況になったというエピソードが紹介されています。

結局、その大手はどうしたか。

しかしその企業には、そんなふうにサービスを買う習慣がなく、旧来の商習慣を踏襲するために、別のIT商社に見積もりを作らせて、毎月1500円で済むサービスに何倍ものお金を払ってようやく使えるようにしていたんです。

引用:『日本のDX最前線』出版:インターナショナル新書 著:酒井真弓

ちょっとした怪談のような話ですが、これよりもっとひどい話を知っているという方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

 

たしかに、サービス内容はサイトに書かれているので営業担当は不要です。料金もサイトに書かれているので見積書だって必要ありません。

しかし日本企業においては、営業と対面で会って信用できる相手かどうか確かめておくことも、見積もりをエビデンスとして取っておくことも形式上必要なことになってしまいます。「なにか問題が起きたらどうする。形式を守るから対応できるんじゃないか。」と、異論をはさんではいけないくらい当たり前なこととして認識させられています。

この当たり前だと思っていたことを疑い、撤回しなければ、DXははじまりません。

日本のスローな形式主義とDXは水と油です。DXとは、市場のニーズ変化に即座に対応することであり、トライ&エラーを前提とすることです。スピーディーな実質主義に企業を変革することです。

未だに、仕事のやり取りは会社のメールか電話でしか認めない会社もあるようです。Slack、LINEですらおそいと、インスタでやり取りしている若い世代からすると不条理極まりない世界に見えるでしょう。

形式・スロー重視を取るか、実質・スピード重視を取るか。日本のDX成否の分岐点は、DXの第一段階と言われるデジタル化よりはるか手前にあります。

 

本当だった、やる前につぶす事なかれ主義

日本は失敗を許さない国であるとよく聞きます。

事実その通りであることを裏付けるのが「渋滞学」の第一人者、東京大学先端科学技術研究センター 西成活裕さんのお話です。

最良の渋滞解消方法は、休暇を分散することと言われており、ドイツやフランスでも採用されているそうです。そこで西成さんは国土交通省に「関東と関西でゴールデンウィークをずらしましょう」と提案。非難ごうごう、採用されなかったそうです。西成さん曰く、

日本では、「失敗したらどうするんだ」と言われて、私の提案は十中八九潰されていますから (笑)。例えば、オランダは、「やってみてだめだったらそのとき考えよう」というスタンスで、やってから会議するんですよ。日本はやる前に会議で潰すんですよね。この違いは大きい。

引用:『日本のDX最前線』出版:インターナショナル新書 著:酒井真弓

 

ずっと日本企業で働いてきた人は「会議で提案を潰されるなんて当たり前、その提案が会議の意見材料になれば御の字」という感覚の方は多いと思います。ですが「とりあえずやってみて、その後会議をする」という国が世界にはある。

たまたまオランダがそういう国なのでしょうか?いえ、日本がマイノリティーである可能性が充分あります。
「とりあえず試す」が前提となるPDCAというコンセプトですが、実は日本発のもので世界では使われていないと聞いたことがあります。皮肉めいた考え方ですが、つまり日本は元来事なかれ主義が強く「とりあえず試す」がむずかしいことから、コンセプト化して強く意識しないとPDCAが回っていかない世界唯一の国なのかも知れません。

 

消えることのない、お城文化

メンターシップ型雇用からジョブ型雇用への移行もDXの命題の一つ。専門スキル・知見を持つ人材、特にITの知見がある人材がいないとDXは成立しないからです。

ですが、ジョブ型雇用の話がいまだ課題として出てくるのが不思議です。30年前から「終身雇用の時代は終わった」と言われ「転職」も一般化してきています。ジョブ型雇用・専門スキルを持つ人材の採用・育成なんてもはや当たり前のことになっているはずです。しかし、たしかに周りを見渡せば新卒をジェネラリストとして育てる風潮は顕在です。

前述の鎌田敬介さん曰く

「社員にスキルをつけさせたら転職しちゃうじゃないか」なんてことを言う役員もいますよね。

引用:『日本のDX最前線』出版:インターナショナル新書 著:酒井真弓

企業はこれほど意図的に専門スキル人材の育成を避けていたのかと驚く発言です。CIOに任命された人が「なんの専門性もないのにこの仕事任されてしまったんだよね」とあっけらかんと話していたというエピソードも並記されていました。

しかし、転職されてしまうことを回避するためだけに専門スキルを付けさせない、というのは不思議な話です。何もできない・何も学ばない人たちが社内に居座り続ければ、企業の力はどんどん落ちていくはずです。

日本は「下に無理をさせる人が偉い」という価値観が根底にあると聞いたことがあります。たしかに、スキルがなくても無理をさせさることさえできれば、外部にスキルを持つパートナーがたくさんいるため効率的。ラクに成果を上げることが出来てしまいます。

その影響か、日本のシステムインテグレーション業界は世界で類を見ないほど巨大化しています。ユーザー企業は一次請け企業に無理をさせ、そのしわ寄せを引き受けるのは開発スキルを持つ零細下請け企業です。つまり、スキルはないけど無理はさせる人が上流にたくさんいるがゆえに下請け企業がどんどん増え、世界一の巨大業界が出来上がったのではないでしょうか。

上にあがってしまえばラクが出来る。上にあがるためにいい大学に入る努力をしたのだから当然の報いだ。こうして連面と続く日本企業のお城文化も見直さなければDXは成立しません。が、お城文化を支える学歴社会、出世するために受験勉強がんばってきた人たちのサンクスコストは消えません。やはり日本のDXはハードルが高いのかも知れません。

 

DXという黒船

日本はまだまだ鎖国していたのかもしれない。そう感じてしまう衝撃的な内容のオンパレードでした。
鎖国していた頃の日本人は、日本の文化は普通であり、世界も同様だと思っていたはずです。ですが、開国してみたら、文化はおろか考え方もぜんぜん違っていた。

上記①②③で取り上げて来た内容もまさに「ビジネスってそんなもんだよな」「組織ってそんなもんだよな」と、不満は抱えつつも仕方がないこととして受け入れていた、ということだと思います。

 

参照:
『日本のDX最前線』出版:インターナショナル新書 著:酒井真弓

執筆者
リビルダーズ編集部

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