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やはり、DXで一番変革しなければいけないのは社長で確定。

 

「DXは経営者のコミットが最重要」と言われています。が、正直なぜなのか、よくわからなくないですか?

ITにくわしい人をCDXOとして迎え入れ、その人に全権委譲すればいいだけの話なのでは?と思ったりしますが、先日某ビジネス誌で、セブン&アイホールディングスが外部からCDXOを迎え入れた結果「DXが崩壊した」という記事が話題になっていました。

なぜ経営者のコミットじゃないとダメなのか。その答えが意外なところに「赤裸々に」記されていました。

『恐れながら社長マーケティングの本当の話をします。』出版:宣伝会議 著:小霜和也

マーケティング領域に起きている課題について赤裸々に書かれている本ですが、内容はほぼDXの話でもあります。DXにおける組織変革の話を、DXという言葉をほぼ使わず、中学二年生でもわかる言葉で書かれています。(小霜さんはコピーライターです)

深い内容はぜひご購入いただくとして、この本から読み取れる「なぜDXは社長のコミットが必要なのか」について絞ってお話します。

 

企業変革は、社長変革 【本の概要】

組織変革に社長のコミットが必要な理由が「腑に落ちて」理解できる本です。

教科書的な差しさわりのない「わかったようでわからない言葉」は一切ありません。著者の小霜さんが、社長に手紙を書いているような体で組織変革について率直に意見を述べています。広告業界の裏事情なども赤裸々に書かれており、飽きの来ない内容です。

たとえばこんな感じ。著者がコピーライターなだけあって、とても歯切れが良いです。

「日本企業のDXの課題は、マーケティングって何?この問いに答えられる人はほぼいません。業界内で5%程度という現状です。(出典:小霜の肌感覚)。なぜならば、日本の広告業界では、「マーケティング」「ブランディング」などといった言葉の定義はきちんと共通化されることなく、部門長やエージェンシーなど、その人にとって都合の良いように使われてきたからです。勉強する気のない子どもをどうやってやる気にさせるかに似ている」

引用:『恐れながら社長マーケティングの本当の話をします。』出版:宣伝会議 著:小霜和也

実は、マーケティングの領域でもDXと同じことが起きています。マーケティングは企業の総力戦の時代になり、プロモーションだけで闘う時代は終わった。だから、全体をコントロールできる社長が見なければダメな時代になったんだという内容です。そもそも、DXはマーケティングとも直結してくる話しなので、この本の内容はDXの話だと思って差し支えないはずです。

補足として、日本ではマーケティングと言えば「Promotion」のことだとイメージされています。ですが、マーケティングとは本来「Product (商品戦略)・Price (価格戦略)・Place (流通戦略)・Promotion (コミュニケーション戦略)」の4Pを駆使して、世の中にあたらしい価値観をつくっていくこと。そのため、一部署で包括するのは本来不可能。マーケティング部は「宣伝部」に戻して、マーケティングは社長が主幹でやっていきましょうという大胆な提案からこの本は始まります。

この話、「DXはデジタル化ではない」と誤解を解くところからスタートする点も、似ています。では本書で語られていた、社長がコミットしなければいけない理由についてポイントをお話していきます。

 

本当に失敗を許容する組織をつくれるのは、社長

形式にこだわりすぎて、物事の進みが非常におそい。

「アジャイル開発によるPDCA」はDXの基本ですが、PDCAは失敗することも前提としたサイクル。失敗を許容できる企業でなければPDCAは回せません。そして、失敗を許容できる企業を作ることができるのは社長をおいて他にいません。

実情としては、本当に失敗を許容できている企業は日本には少ないようです。本書では、日本の企業は「PDPD」であると述べています。

ナショナルクライアントと呼ばれる大広告主・大企業でも、マーケティングの成果をデータとして残しておらず、エージェンシー(広告代理店)数社にコンペさせ (P)、その中で良さげなモノを選んで実行し (D)、成果が出ようが出まいが時間がたったらまたコンペ (P) というサイクルを繰り返しているのが実情だそうです。

ただし、PDCAであれPDSAであれ、それを根付かせるためには企業の「減点主義」から変える必要があります。ちょっと話が飛びますが、企業は、と言うより日本は、ローマ帝国のやり方から学ぶもの非常に多いと思ってます。多様性とか税制とか現代の社会問題に繋がる知恵をいっぱい持ってるんですよ。その一つとして失敗を評価するというものがあります。将軍が戦争に負けると罰するどころか「何かを学んだに違いない」ということで、必ず次の戦いに起用するんです。そして二回目は勝つ。すごく合理的な考え方じゃないですか?

引用:『恐れながら社長マーケティングの本当の話をします。』出版:宣伝会議 著:小霜和也

ローマ帝国と日本企業のあいだには、相当な距離があるように感じます。「失敗したら責任を取る」が日本のベーシックな価値観です。ドラマでも、ビジネスで失敗して、地方に左遷されたり解雇されたりするシーンを多く見かけます。(共感される・実際に起きているからこういうシーンが取り上げられるということです) 実際、広告がコケたら、担当者はエージェンシーのせいにしてトカゲのしっぽ切りをしているという話も少なからずあるようです。

社長が、失敗を許容するという日本企業離れした文化を醸成しない限り、日本のDXは成功しないということです。

 

上を見ない組織をつくれるのも、社長

「さまざまなデータを集め、分析し、次の手を即座に打っていく」これもDXです。
ですが今から心配なのは、日本企業は「大多数を占めるデータを元に決断」してしまう可能性が高いことです。

商品開発の調査をしていて疲労感を覚えるのは「上を通す」ための調査に陥っている時です(よくある話です)。被験者の中の大多数が評価をしたら役員会で通るんですよ。でもそんなもの売れやしなくて、スコアの高いものほどすぐ棚落ちするんです。少数の被験者が熱狂的に支持するものの方がLTVも高いしヒットにも繋がりやすく競合にも真似されにくいのですが、日の目を見ることは少ないです。こういうのを変えられるのもトップなんですよね。

引用:『恐れながら社長マーケティングの本当の話をします。』出版:宣伝会議 著:小霜和也

デジタルエンタープライズビジネスの一つの型である「サブスク」は、LTV (ライフタイムバリューの略。顧客が取引を開始し、終了に至るまでの時間。) をいかに長くするかが勝負になってきます。現状のデータを参照した、現状のニーズを充たすだけのサービスは短命に終わるため、LTVは短くなります。

ですが小霜さんがおっしゃる通り、日本の企業の多くは、役員会に通すために現状のニーズに合わせた安パイな決断をしてしまいがちであることは想像できます。その要因は「顧客を見ず、上を見て仕事しているから」です。

「上を見ない」という企業文化を作るのも、やはり社長にしか出来ません。そのためにはまず、側近から、自分の言うことを素直に聞いて出世してきた人を外していくということからはじめる必要がありそうです。

 

現場に無理をさせる風潮を変えることができるのも、社長

「市場の変化に即座に反応する」DXは、現場が現場の判断でワークしていくことも必要になってきます。
そのために、現場が活き活き働き続けられる配慮は必須。

ですが日本企業の多くは「現場や下に無理をさせるヤツが偉い風潮」があり、広告主はエージェンシーに、エージェンシーは制作会社に、制作会社はスタッフに無理をさせ、その指示を誠実に受け止めがんばっていた人がとつぜん鬱になって消えてしまうのだと説明しています。

柱になる人材がリタイアしていくようでは生産性も何もありませんので。ちなみにニューギニアで石器生活を送っている部族に鬱病はありません。

引用:『日本のDX最前線』出版:インターナショナル新書 著:酒井真弓

以前、課長職に上がったエンジニアが、上司から「おめでとう。これからは無理をさせる立場だね。」と言われたと聞いたことがあります。出世=下の人間に無理をさせ、自分はラクに稼げるようになること、という考え・風潮を撲滅し、健全な現場判断でワークしていけるデジタルエンタープライズを作ることができるのもやはり社長です。

 

DXに必要なのは、健全なトップダウン

日本は「現場主義」という言葉を使う企業が多いそうです。聞こえは良いですが、実情は社長の全体マネジメントの放棄、ひいては、組織をセクショナリズムの温床にしてしまう引き金になっていた、という側面もありそうです。

本書の最後のほうで「中国は現在テクノロジー天国と化しており、BAT (バイドゥ・阿里巴巴集団・テンセント) がいずれ、GAFAを追い越すだろう」という話をしています。GAFAは拠点を民主主義国家に置いているため、せっかくあたらしいテクノロジーやサービスを開発しても、アクシデントが起きればクレームが上がり廃止に追い込まれたりします。ですがBATの拠点、中国は「国がやる」といったらそのまま突き進みます。そのため民衆の声にさえぎられることなく、どんどんあたらしいテクノロジー・サービスの開発を進めていける環境です。実際、中国では「信用スコアによって受けられる医療サービスのレベルが変わる施策」など先進的な試みがどんどん実現されているなど、国単位でDXが進んでいます。

つまりDX推進のカギは、セクショナリズムに翻弄されず、断固トップダウンで組織変革を行っていけるかどうかに尽きる、ということなのではないでしょうか。

本書は340Pあり、ここでご紹介させていただいた話の数十倍、これでもかというほどたっぷりと、組織変革を成し遂げるために社長がコミットしなければならない理由について書かれています。ぜひ、ご一読ください。

参照:
『恐れながら社長マーケティングの本当の話をします。 著者:小霜和也 出版社:宣伝会議』

執筆者
リビルダーズ編集部

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