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ニトリホールディングス 経費精算フロー改革によりSAP Concur部門を受賞

情報発信元:https://www.sapjp.com/blog/archives/47523
(別サイト「パイオニア株式会社 プレスリリース」を開きます。)

2023年2月14日、SAPジャパン株式会社は「SAP Japan Customer Award 2022」の受賞企業を決定し、SAP Concur部門はニトリホールディングスが受賞したことを発表しました。

同賞は、­­DXに取り組んでいる顧客を表彰し、認知拡大をすることで、さらなるDXの促進と他の企業のDX促進を目的とするものです。SAP Concur部門、Japan Industry 4.0部門、Transformation部門、Japan Society部門、Innovation/Sustainability部門、Cloud Adoption部門、Experience Management部門、Mid-Market部門の8つの部門に分かれています。今回ニトリホールディングスが受賞したSAP Concur部門は、「SAP Concur」を活用し、間接業務のDXを行うことでビジネス変革につなげているクラウド活用事例を受賞対象とするものです。

ニトリホールディングスは大手小売企業として規模を拡大しており、株式会社島忠などを子会社にもちます。ニトリは中長期ビジョンとして「2023年3000店舗」という目標を設定しており、グローバル化と事業領域の拡大に取り組んできました。積極的に海外へ展開し、M&Aによって事業規模を拡大する方針です。

ニトリでは2014年に経費精算システムを導入しました。このシステムでは、経費精算を手入力し、申請内容を経理や上長が目で見て確認・承認する必要がありました。また不正防止の観点から様々な申請ルールがあり、申請作業が複雑化するとともに、手入力による人為的なミスも多発することで、10%を超える差し戻し率となっていました。また同システムは横展開ができず、島忠など新たにグループに入った企業に導入できないものでした。これらの背景から、Concur Expenseの導入を決めました。

Concur Expenseのメリットは様々ありますが、ニトリの財務経理部によれば最大の魅力は交通系ICカードやコーポレートカード、アプリとの連携が可能であることです。交通費は経費については現金ではなく交通系ICやコーポレートカードで支払うことを義務付け、自動で正確な情報だけが登録されるようになりました。これにより人為的な手入力のミスがなくなり、差し戻しの業務が必要無くなりました。

またConcur Expenseの導入によって社内の複雑化したルールをConcur Expenseに合わせる必要があるため、大幅に簡素化したことも結果大きなメリットになりました。もともと2800パターン以上に細分化されていた出張時の日当のルールを19パターンに絞り込むなど、大幅な変化を行い、Concur Expenseの導入に備えました。その結果経費精算にかかる時間を大幅に削減することができたとのことです。

システム側に業務を寄せていったことで、導入までの要件定義の工数は最低限に抑えられ、オンスケジュールで導入プロジェクトが進んでいきました。このような導入のメリットによって、申請する側の作業時間も削減され、チェックする側の手間も大幅に省けました。これにより社員が本来の業務に集中でき、成果を出すための行動に時間を多く割けるようになったといいます。今後は海外のグループ企業に導入する考えです。

【執筆者コメント】
今回はニトリホールディングスがSAP Japan Customer Award 2022を受賞したニュースに注目しました。システムに業務を寄せる方法で効果を出した事例です。

ニトリホールディングスは2020年、島忠をTOB(株式公開買い付け)により経営統合し傘下に迎えるなど、「2022年1,000店舗、2032年3,000店舗」という中長期ビジョンに向かって事業拡大を行っています。その中で差し戻し率が10%を超える申請業務は確実に改善するべきポイントであるといえるでしょう。

今回ニトリホールディングスが導入したSAP Concurのホームページには、以下のような情報が紹介されています。「1人が経費精算に費やす平均時間は1月あたり48分」、「1人が経費精算に費やす平均日数は一生で52日」、「1人が経費精算に費やす総人件費は一生で144万」。このような数字を目の当たりにすれば、旧来型の手入力の申請は非常に勿体ない時間の使い方のように思われます。

SAP Concurは経費精算システムと、コーポレートカード、外部のアプリケーションを連携することで、経費精算の自動化を実現します。ペーパーレス、キャッシュレス。承認レス、入力レス、運用レスという「5つのレス」を掲げています。これによりDXのきっかけにすることができるとのことです。

昨今DXの潮流の中で「システムの内製化」が謳われ、外に丸投げしていたシステムを社内でスクラッチ開発する動きも多くなっています。ただ今回の事例から、社内の業務改善やビジネス変革を行う中で、「システムに合わせた業務改善」という選択肢も持っておく必要があるといえるでしょう。

スクラッチ開発のメリットはカスタマイズ性の高さです。自由に設計ができ、自社のフローに合わせたシステム開発ができます。今回のニトリホールディングスを例にとれば、従来の細かいルールをそのままシステムに落とし込むのであればスクラッチ開発が必要になるでしょう。

またライセンス料がかからない点や、システム提供ベンダーの動向に左右されない点もメリットに挙げられます。一方で初期費用が高く、要求、要件定義に時間がかかるなど、システムを導入するハードルは非常に高いです。

一方でSaaSやパッケージ型のシステムは別のメリット、デメリットがあります。SaaSは比較的安価にサブスクリプション制で導入することができます。クラウド提供がなされているものを用いるため、導入するための時間がスクラッチ開発より圧倒的に短くて済みます。しかしカスタマイズ性が低い点はデメリットと言えます。またSaaS提供企業のサービスが終了する可能性もはらんでいます。パッケージシステムは既存のソースコードを流用して開発するため短い期間で導入ができ、購入時の初期費用が安い点がメリットです。一方でこちらもSaaSと同じようにカスタマイズ性が低く、パッケージベンダーのサポートが終了する可能性もあるというデメリットもあります。

今回のニトリホールディングスは、結果SaaSの導入を行いましたが、SAPのシステムに業務フローを合わせるという選択を行いました。企業のサービスに関わるシステムは、他企業との差別化を行う必要があるため「独自性」が必要です。そういった独自性を重視したいシステムについては、SaaSやパッケージではなくスクラッチ開発を行うメリットが大きいと言えます。一方で経費精算や人事・勤怠系のシステムは、他社と差別化を行う必要が比較的低いものである場合が多いでしょう。企業の独自ルールを撤廃することにデメリットが少ないのであれば、シンプルな業務フローに合わせてシステムを導入することはメリットが大きいと言えます。

今回取り上げたニトリホールディングスは、製造から物流、販売まですべての工程を自社でコントロールするというビジネスモデル「製造物流小売業」を確立しています。そのための自社システムはフルスクラッチで開発をしており、現在もエンジニアの採用活動に積極的です。自社の独自性を出したい部分はスクラッチ開発、効率性や他社との差別化を図る必要が無いときはSaaS導入。このような柔軟な考え方によるIT活用がこれからの時代において重要になるといえるでしょう。

執筆者/
リビルダーズ編集部 橋爪 勝万

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