DXナレッジ

「ジャーニー」を知ると、DXがやけにわかりやすくなる件② ~ データサイエンティスト不足は言いわけかも ~

 

やっと、DXが具体的にイメージできるようになってきました。

前回に引き続き「ジャーニー」という概念でDX理解を深めようというテーマの記事です。(前回記事「「ジャーニー」を知ると、DXがやけにわかりやすくなる件① ~ どのくらいビジネスを変革すればいいかわかった ~」)

本記事では、仕事イメージをより具体的につかんでいただくため、前回の内容をさらにブレイクダウンします。従来とは異なる考え方をしなければ企画できないことがよくわかります。

UXグロースモデル アフターデジタルを生き抜く実践方法論 日経BP 著者:藤井 保文・小城 崇・佐藤 駿

こちらの本、まさに「『アフターデジタル』を通じてUXの重要性は理解したものの、何を勉強したら良いのか分からない」という読者からの反響に応モノやサービスを「点」で提供していたこれまでから、点をつないで「線」をつくりユーザーに寄り添って自己実現をサポートするビジネスモデルへの変革。ユーザーの人生という旅に伴走する「ジャーニー」という考え方は、DX理解を明確にしてくれる優れたフレームワークです。

 

データサイエンティストは不要?【前回のおさらいと今回の概要】

 
モノやサービスを「点」で提供しているだけでは、ユーザーの自己実現は無しえない。

健康のためにランニングシューズを提供したとしても、ユーザーが三日坊主で終われば健康を提供することはできなくなります。

そのため、ランニングシューズだけでなく、ランニングを持続させる機能を搭載したアプリを提供するなど、ユーザーの自己実現をサポートし続ける「線」のビジネスを作っていく。

この「線」のビジネスを「ジャーニー」と呼び、DXというのはジャーニーへのビジネスモデル変革のことを指す。

ジャーニーを創っていく流れとして、まずトップダウンチームとボトムアップチームに分ける。それぞれが上下ではなくフラットに情報連携し、ジャーニーを刷新していく。

というところまでが前回のお話でした。
 

引用:『アフターデジタル』日経BP 著者:藤井 保文・尾原 和啓 (本文中の図を引用し、読者の解釈を助けるために情報を補足して作成)

 
この「トップダウン」「ボトムアップ」をさらに分解し運用していく、というのが今回のお話です。特に大手企業は事業部が多く、トップとボトムの2分類だけで整理するのはむずかしいため、以下の5分類のチームに分けていきます。

「トップダウン」チーム
→①トップダウン / 全社変革を推進するチーム
→②トップダウン / 事業変革を推進するチーム

「ボトムアップ」チーム
→❶ボトムアップ / 抜本的改善チーム
→❷ボトムアップ / 高速改善チーム
→❸ボトムアップ / データサイエンスチーム
 

引用:『アフターデジタル』日経BP 著者:藤井 保文・尾原 和啓 (本文中の図を引用し、読者の解釈を助けるために情報を補足して作成)

 
ユニークなのは ❸ボトムアップ / データサイエンスチーム です。

DXというと「データサイエンティストが不足しており、DXが進まない」という話が出てきますが、このジャーニーのフレームワークにおいてデータサイエンスチームは、ボトムのイチ・チーム。「データサイエンティストが採用できるなら、あると尚良い」という位置づけです。

データサイエンティストは、データが潤沢に集まってから威力を発揮するため、DX走りはじめはそこまで重要なポジションではありません。さらに、ユーザー体験の企画は定性的に考えることができることも多く「データサイエンティストがいないとはじまらない」ということはありません。
 

データサイエンティストは定性調査の時間を省く存在

 
データサイエンティストは、ツイッター・Facebookの成長を支えた存在として、デジタルビジネスにおける重要ポジションとして認知されています。

データサイエンティストはユーザーの行動データを解析し、ユーザー体験を企画する際のヒントになるインサイトを見つけ出す存在です。定性調査などでもインサイトを推測することができますが、行動データから見つけ出すほうがスピーディーかつ正確です。

ただしデータサイエンティストは希少かつ高収入人材であることから、自社雇用で活用できる企業は限られてきます。

ですが、データサイエンティストでなくても、ある程度はインサイトを読み取ることはできますし、「やってみなはれ」でどんどんトライしていくスタンスに切り替えていくことで、データを基にした正確な推測に頼る必要性もなくなります。

では、各チームの仕事の進め方についてお話していきます。
 

ボトムアップチームの仕事イメージ

 
まずボトムアップチームのお話になります。

トップダウンチームは、下記が役割でした。
①ジャーニー全体構想の設計
②ジャーニーを実現する新サービスの開発 (新組織の立ち上げ)
③新サービスを軌道に乗せる

ボトムアップチームは、トップダウンチームが軌道に乗せたサービスを運用し、改善を重ねつつ発展させていく役割です。その中でも下記2チームが存在します。(❸データサイエンスチームは省略)

❶ボトムアップ / 抜本的改善チーム
❷ボトムアップ / 高速改善チーム

「❶ボトムアップ / 抜本的改善チーム」は、トップダウンチームから託されたサービスをさらに抜本的に進化させる企画立案・実行部隊です。各フェーズにこんな機能が追加されたらいいのでは?を考えていきます。

「❷ボトムアップ / 高速改善チーム」は、トップダウンから託されたサービスを運用改善で磨き上げていく部隊です。具体的には、メルマガの送付、ユーザーとのやりとり、デジタルコンテンツの制作、アプリのUI改善などでユーザーの行動フローを活性化させていきます。
 

❶ボトムアップ / 抜本的改善チーム

トップダウンチームから託されたサービスを改めて検討していきます。

たとえば、トップダウンチームから、ジャーニーの一機能を担う「不動産検索アプリ」を託されたとします。抜本的改善チームはこの不動産アプリを、ユーザーの課題を解決する「画期的なアプリ」に進化させていけないか検討します。

なぜボトムアップがサービスを進化させていくのか。トップダウンチームは全体を見ているため、一機能ごとにじっくり思索することができません。そのため、抜本改善チームが微に入り細に入り差別化が図れているサービスに仕上げていく必要があるということです。

取り組む順番は以下です。(不動産アプリを例として)

①ユーザーの行動フロー洗い出し
> 検索→条件入力→絞り込み→選定→不動産と相談→内見→契約
 
②各フローごとの「ペインポイント」を分析
ペインポイントとは、不満や違和感です。
> 検索:住みたいエリアが決まっていないと探しづらい
> 条件入力:希望条件通りの物件該当数が少ないと「このアプリは情報が網羅されていないかも」と不安になる
 など、各行動フローごとに生じているユーザーのペインポイントをインタビューなどを通じて特定していきます。
 
③「ペインポイント」がなぜ発生するのかユーザーの心象をイメージする
ペインポイントを眺め、ユーザーの心象をイメージします。たとえば「情報を見ていくのが疲れるからペインポイントを感じているのではないか」と推測。ユーザーに憑依して、心象を非言語的に理解することで、差別化が図れる企画が考えられるようになります。
 
④ ③を解消する改善企画を考える
たとえば「待ってるだけで希望条件に合う物件を見つけてもらえる」ようになれば、③が改善されると仮定。
具体的なサービス企画に落とし込むと
>希望条件を〇〇%以上満たす物件が出たら即通知してくれる機能 (〇〇%は設定できる)
>カスタマーサクセスが希望条件に合う物件を代行で探してくれる機能
という風に案をたくさん考えていきます。
 
⑤ ④で考えた改善企画の選別
④のサービス企画案から選別していきます。
 
⑥ ⑤で選別した改善企画を統合しジャーニーに組み込む
⑤で選別されたサービス企画案を統合し、実際にどのような流れでユーザーに提供していくかイメージを作ります。
下記のようにUI画面にイメージを書いていくとわかりやすくまとまります。
 

引用:『アフターデジタル』日経BP 著者:藤井 保文・尾原 和啓 (本文中の図を引用し、読者の解釈を助けるために情報を補足して作成)

 
実際はもっといろいろと注意点があります。たとえば「写真の写りが悪いから、実際の物件のクオリティがわからない」など、そのサービスに対する意見は取り入れない、など。

詳細は本書をご参照いただければと思いますが、つまり、ユーザーヒアリングなど定性調査などを参考に「心象を想像して仮説を作っていく」というところがポイントです。

「数字をもとにロジックを組み立てていく」という方法とはちがいますが、「なぜこういった行動をとるのか」を「なぜなぜ」を繰り返すことで理詰めで特定していくイメージです。

そのため「ブレストは多用せず、個人作業で」が基本。ブレストは右脳的にアイディアを生んでいく手法ですが、この企画立案は実は右脳作業ではありません。

ロジックという言葉を使うと、ロジカル=数字=データサイエンスティストがいないとできない、というイメージになりがちですが実はそうではなく「考える訓練」を積むことで誰にでもできるようになります。
 

❷ボトムアップ / 高速改善チーム

抜本的改善チームは「あたらしい機能・ユーザー体験」を考えることが役割でした。

高速改善チームは「いまある機能・ユーザー体験」を改善していくことが役割。具体的には、メルマガの効果、ユーザーとのコミュニケーション、アプリのUIなどの改善です。

まず、なにを改善するかを決めます。
たとえば「メルマガからECに来た人が購入に至る率を改善」をするとします。

ここで重要なのは「シーケンス分析」で検証するということ。シーケンス分析とは「行動フロー(シーケンス) のデータ分析」のことです。

数字データでは
・お昼の時間に配信されたメルマガが、一定の開封率・クリック率だった
という情報が得られたとしたら「メルマガ配信をお昼の時間に集中させる」という結論になりがちです。

ですがシーケンス分析で
・購入に至っているユーザーは夜のおそい時間が多かった
・購入しているものはベビー用品だった
という別の情報が得られたとしたら「購入に至るユーザーは子育て中のお母さん。メルマガの配信時間は19時以降が適切。」という結論になります。

こちらは実例で、売上が300%向上したそうです。
 

「シーケンス分析」の重要性

このような改善企画にありがちなのが「PV・CVR・アクティブユーザー・継続率」などの定量データを見てしまう点です。ですが、定量データは「問題の解像度を上げるだけ」で「問題の要因分析」には適していません。

たとえば「ページの成果改善」。定量データで「PVはいいけど、CVRは悪い」という結果が出たとすると「CVRを向上させる情報を追加」という結論で終わってしまいがちです。

ですがシーケンス分析によって行動フローをたどると「ページ内のこの情報でフローが止まってるから、ここを直せばいい」「そもそもページに来てる人のタイプがあってない、PV減ってもいいからリーチする人を変えたほうがいい」など見えてきます。

定量データ分析とシーケンス分析は、西洋医学と東洋医学にも似ています。点で判断せず、全体を見る。病気を見る前に、なぜ病気になったのか体全体をみる。

定量データ分析で、短期的な目線で点を分析して手っ取り早く解消していくというのは、根本解決には至っておらず、ユーザー目線ではなく企業目線です。DXの大テーマは「顧客視点への回帰」ですが、分析方法一つとっても変革が必要なんだということがわかります。
 

トップダウンチームの仕事イメージ

 
トップダウンチームは「ジャーニー全体構想の設計」「ジャーニーを実現する新サービスの開発 (新組織の立ち上げ)」「新サービスを軌道に乗せる」が役割。軌道に乗せた新サービスはボトムアップチームに渡していきます。

チームは2種類、
①トップダウン / 全社変革を推進するチーム
②トップダウン / 事業変革を推進するチーム
 

引用:『アフターデジタル』日経BP 著者:藤井 保文・尾原 和啓 (本文中の図を引用し、読者の解釈を助けるために情報を補足して作成)

 
大企業の場合、さまざまな事業部が存在します。「プロダクト起点で設立された事業部」「サービス起点で設立された事業部」と、起点と目的がバラバラです。

すると、事業部ごとに企画を立ち上げてしまい「おなじユーザーの自己実現を伴走するジャーニー」が作れなくなります。そのため、各事業部ごとにどんなジャーニー企画を担ってもらうかの再設計が必要です。

「①全社変革を推進するチーム」が全体の再設計をし、再設計され割り振られたジャーニー要素を「②事業変革を推進するチーム」が企画開発していきます。企画開発の考え方はボトムアップと同じです。
 

全社ジャーニーコンセプトは複数案考え検討していく

重要なのは「①全社変革を推進するチーム」はジャーニーコンセプトをたくさん考える必要があるということ。また、会社のミッションに立ち戻って考えるということです。

基本的に「一企業一ジャーニー」が原則です。一企業がいくつものジャーニーコンセプトを持っていると、なんの会社なのか分かりづらくなりますし、投入する資源が分散することでジャーニーが弱くなります。

DXは「利益追求型の組織から、社会課題解決型の組織への転換」でもあります。儲かるからといって、一企業がさまざまな事業を展開すればするほど、会社の存在意義が薄くなっていき、ユーザーが離れていきます。

ジャーニーは、いわゆるミッションの具体化です。ミッションという想い・概念・言葉を、具体的に実現していくプランがジャーニーです。ジャーニーをいくつも持つ企業とは、つまりミッションをいくつも持つ企業ということです。

そのため、ジャーニー案をたくさん考え、ジャーニーごとに「獲得できる市場規模」「競合」「自社の強みが活かせる度合い」などを検討し決定する必要があります。
 

「相互循環」文化を作っていく

何度かお話させていただいていますが、トップダウンとボトムアップが相互循環していく流れを創ることが重要です。

ボトムアップで圧倒的に成長しはじめた事業があれば、それを全体のジャーニーコンセプトに組み込み書き換えていく。この流れを作ることで、VUCAの時代に合わせてどんどん変化していく企業体を創ることができます。(VUCA / Volatility (変動性)・Uncertainty (不確実性)・Complexity (複雑性)・Ambiguity (曖昧性) の頭文字を取った造語。「未来予測が難しい時代」という意味)

トップが決めたことを変えないとか、ボトムに任せてしまうとかではなく、双方がバランスを取り合い会社を作っていく構図です。トップ・ボトムという言葉から「上下関係」をイメージしてしまいますが、実際は横並び。前輪と後輪のような関係性かもしれません。

DXは、これまでのビジネスと地続きの変革ではなく、まったく違うモノにトランスフォームしていくことです。
 

まとめ「データサイエンティストを待たない

 
以上、前回に引き続き、ジャーニー企画の作り方ポイントについてお伝えしてきました。

●ジャーニー企画はユーザーの心象を憑依させ、理屈を組み立てていくことで作る
●データサイエンティストがいればスピーディーに正確に企画を作っていけるが、いなくても、推察と「やってみなはれ」で高速改善を重ねていくことで作っていける
●原則、一企業一ジャーニー ジャーニーはミッションの具現化

DXの具体的なイメージ像であるジャーニーの作り方をつぶさに見ていくと「DXはデータサイエンティストがいないと成立しない」というイメージはズレていることが明確にわかります。必要なのは、各担当者がユーザー視点に立って頭をひねって考えていく習慣をつけることでした。

これまで、モノやサービスを点で提供していたバリューチェーン (ビジネスの一連の流れ。これまでのビジネスは材料調達→製造→出荷→販売→サービスという流れだった。) では

モノを作る→マーケティングで作ったモノをユーザー視点に立ってベネフィット化

という流れが基本でした。

そのためこれまでは、マーケティング系の担当者だけがユーザー視点を重視し、他担当者は「与えられた範囲の仕事のクオリティを上げていくこと」だけを考えればよいという構図になっていました。この状況を変革していくこともDXの命題の一つです。

データサイエンティストの不在やトップの改革推進力不足を言い訳にせず「全社員顧客視点への回帰」をテーマに、どんどんDXを推進していきましょう。

 

参考:UXグロースモデル アフターデジタルを生き抜く実践方法論 日経BP 著者:藤井 保文・小城 崇・佐藤 駿

 

執筆者
リビルダーズ編集部

-DXナレッジ
-,