インタビュー

外製と内製、双方を知るセブン銀行が語る「内製によってなくすことができたもの、生み出すことができたもの」。 


「結局、内製化の一番のメリットは ”モチベーションが高まること” だと感じています。抽象的ですが、モチベーションは重要です。頭の働き方が変わり、仕事が変わってきます。」(セブン銀行 デジタルバンキング部 副部長 紙中 加代子さん)

突き抜けたユーザー志向を競合優位性とした、独自のビジネスモデルを切り開くセブン銀行。内製化・アジャイル開発手法の導入にも成功し「Myセブン銀行」アプリ の開発 を鋭意推進している、まさにDXのお手本となる企業の一社です。

そんなセブン銀行の「Myセブン銀行」アプリを担当されているお三方に「内製によってなくすことができたもの、生み出すことができたもの」についてお聞きしました。

紙中 加代子 (かみなか かよこ) さん セブン銀行 デジタルバンキング部 副部長
斉藤 大明 (さいとう ひろあき) さん セブン銀行 デジタルバンキング部 調査役
山下 利花 (やました りか) さん セブン銀行 バンキング統括部

(REBUILDERS編集部) 
 

 

「ユーザー志向」は設立当初からできあがっていた

 
(デジタルバンキング部 副部長 紙中さん)
まず前提として、セブン銀行はそもそもユーザー志向から誕生した企業であることからお話させてください。

セブン銀行が設立されたのは2001年。「セブン‐イレブンにATMがあったらいいのに」というユーザーの声をきっかけとして設立されました。

つまり、DXの一つのテーマである「顧客志向への回帰」が設立当初から出来ていたからこそ、内製化・アジャイル開発導入も比較的スムーズに進めることができたと言えます。

また、中期経営計画では「企業変革」を柱の一つとしていますが、テクノロジーは企業変革の重要な要素と捉えており、内製によって社内で密に連携を取りながら進めていくべきという方針もありました。
 
 

「ユーザー志向」が競合優位性の銀行

セブン銀行は、ほぼすべてのセブン‐イレブンの店舗に設置されているということだけでなく、ユーザビリティにとことんこだわることによって「ユーザーにとって最も近くて便利な銀行」を目指すことで競合優位性を確立しています。
 

紙中 加代子 (かみなか かよこ) さん セブン銀行 デジタルバンキング部 副部長

 
たとえば、マイナンバーカードか運転免許証があれば最短でたった10分で口座開設できるようにしたり。ATMでマイナンバーカードが使えるようにしたのはセブン銀行が初です。

最近では、TORANOTEC株式会社が提供する「おつりで投資 トラノコ」 とのアプリ内での連携機能を提供するなど、ユニークな試みも行っています。

こうしたユーザー体験の開発に力を入れユーザビリティを向上させていくことで、ユーザーにとって銀行をもっと身近な存在に再構築しているとも言えます。

現在、コンビニATMで最も設置台数が多いのはセブン銀行のATMです。2万6千台設置され、1日250万人に活用される社会インフラへと成長することができています。
 

20年目の2021年、さらにユーザー志向企業へ

2021年4月、セブン銀行は創業20年を迎え、パーパスの策定 を行いました。
 

エントランスに大きく掲げられているパーパス。社員一人ひとりがパーパス実現にまっすぐに取り組んでいる。

 
”お客さまの「あったらいいな」を超えて、日常の未来を生みだし続ける。”
 

デジタル化が進み、お客さまの生活も大きく変わり、私たちの事業にも大きな変化が求められる中で、創業時から大切にしてきた価値観であり原点でもある“お客さまの「あったらいいな」”の想いを超え続けていこう、という意図です。

ATMというリソースとグループ企業とのシナジーを活かした、新しい顧客体験や独自性のあるサービスを開発していくことで、パーパスを実現していきたいと考えています。
 

ユーザーインサイト起点で開発を進める「Myセブン銀行」アプリ

(バンキング統括部 プロダクトオーナー 山下さん)
そんなセブン銀行のユーザー接点を担っているのが、私たちが手掛けている「Myセブン銀行」アプリです。新しくセブン銀行を開設されるお客さまの大多数が、このアプリで口座を開設されるため、非常に重要なチャネルとなっています。

そんな「Myセブン銀行」アプリのコンセプトは「あなたの日常に、いる(居る/要る) アプリ 」。お金に関するあらゆることの起点となりつつ、必要な時以外も開きたくなるアプリ。従来の通帳アプリとは一線を画す存在を目指しています。
 

山下 利花 (やました りか) さん セブン銀行 バンキング統括部 Myセブン銀行アプリ プロダクトオーナー

 
このコンセプトをどのように実現しようとしているのか。たとえば、明細画面での体験を良化させ、アプリへのエンゲージメントを高める取り組みでは、ユーザーが「日常の中で明細を必要とするシーンや気持ち」を構造化し、UI/UXとして洗練させることに挑戦しています。

ユーザーリサーチをかけ、インサイトを探求する中で、本件では「支払いすぎた事実への嫌悪」と「予算内での収支管理をしたい」というユーザーインサイトを見つけたので、明細を楽しく確認できる日常を提供するための機能を作りこんでいる、という状態です。

こうしたユーザーインサイトに立脚した「言語化しにくい領域」の企画は、ユーザー接点を持つ私たちのチームにしかできません。経営戦略を踏まえたビジネスニーズと、ユーザーニーズをすり合わせなければ、企画からユーザー志向が失われてしまいます。「ユーザーととことん向き合う」という役割を、我々がやらずして誰がやるという気持ちで取り組んでいます。

このような取り組みを継続し改善活動を行ってきた結果、「Myセブン銀行」アプリのアプリストアユーザーレビューでも高評価を獲得することができるようになりました。
  

想定以上に有効だった内製化

 
(デジタルバンキング部 副部長 紙中さん)
セブン銀行では現在、内製・外製両方利用してシステム開発を進めています。

仕様が決まっており変更の可能性がないものは外製で、「Myセブン銀行」アプリのように変化 していくことを前提とするプロダクトは内製で、という風にすみ分けしています。

「Myセブン銀行」アプリのようにユーザーインサイトを起点としたプロダクト開発には、仮説・実行・検証・改善を軸にした「探り当てていく」アプローチが基本になります。このような新しいものを生み出すための開発プロセスは、迅速に市場に出しフィードバックをもらい改善し続けていく必要があり、内製の方が適しています。
 

チャットで話がまとまり2週間で開発

外製の場合、要件定義・見積もり・社内稟議・契約という流れを踏むため、小規模な案件でも開発まで数か月かかります。かつ開発メンバーを揃えるために、さらに1ヵ月以上かかることもあります。

ですが内製はとても早い。頭の中にある仮説・アイディアを実装に落とし込むまでのスピードがまったく異なります。

仮説・アイディアが2週間で開発につながった事例もあります。

どんな流れだったかお話すると…アプリチームの雑談チャットの中で、プロダクトオーナー山下が「アプリのスプラッシュ画面に、もっとセブン銀行のパーパス をユーザーが感じ取れるエッセンスを込められないか」と思い立ち、すぐにチャットでデザイナーに「何パターンか作ってみてほしい」と依頼。その日のうちに数パターン出来上がり、エンジニアにも見てもらい実現可能性とユーザビリティの観点で意見を募り次の日にはデザイン案が決定していた、というスピード感でした。

各ステークホルダーが提案・相談し合いながら企画を固めていくことができるため、早くなるわけです。

もちろん外製でも、担当の頑張り次第でスピード対応していくことは可能だとは思います。ですが、ドキュメントベースのコミュニケーションが基本となるため、外製はどうしても回転数が落ち、インサイトにフィットしたプロダクトが出来上がるまでのスピードは落ちます。

外製だと発注が必要となるため、ちょ っとしたUI変更でも都度ドキュメントをまとめ稟議を通す過程が必要になります。そのため、「Myセブン銀行」アプリは内製が適していると考えました。
 

「実現可能性がすぐわかる」以上の価値も

エンジニアがその場にいることで、アイディア段階で実現可能性がすぐに分かるのも内製の大きなメリットでした。

そのアイディアを実装する難易度は、どうしてもエンジニアでなければ正確にはわかりません。それほどむずかしくなさそうなことでも、エンジニアの眼から見ると、処理が重くなる、データベースが複雑になるといった問題が潜んでいたり。アイディア段階で問題に気づければ、それでもやるか、代案はないかなどすぐにジャッジすることができますが、開発完了後に気づくと大幅な手戻りが発生してしまいます。

また、エンジニアの意見がユーザビリティの更なる向上につながることも多いです。

たとえば「Myセブン銀行」アプリには明細確認機能があるのですが、表示される明細の期間を伸ばすアイディアをエンジニアに持ちかけた際「データ通信に時間がかかるようになるため、『データを取得 しております』などとテキストを入れておいたほうがいいのでは?」という提案をもらいました。こういったエンジニアでなければ見えないアイディアも非常に多く、より微細なユーザビリティ向上にもつながります。
 

「モチベーションの醸成」こそ内製化最大のメリット

そもそもセブン銀行が内製をはじめた目的は、環境変化への対応力を獲得することでした。FinTech、キャッシュレスなど世の中やユーザーニーズの変化に対応していく必要がある中で、計画的に進める外製という手法だけではなく、 内製によるスピードと柔軟性の獲得が必要でした。

ですが実際内製に取り組んでみて、スピードや柔軟性の獲得以上の価値があったと感じているのが「モチベーションの醸成」です。

企画・デザイナー・エンジニアがワンチームで働くことで、全員「プロダクトをグロースさせていくこと」に焦点が定まり、一人一人自分で考え、提案・相談し合いながらプロダクトを成長させていく自発的なスタイルに変わりました。これこそ、内製・アジャイル最大の価値だと感じています。

請負で外製開発となった場合、「作り終える」ことがゴールとなってしまい、弊社側とプロダクトをグロースさせるという目線を合わせて、モチベーション高く開発することがむずかしくなると感じています。

特にこのケースにおいては、顧客が「本当にほしいものが何か」エンジニアは不明確なまま開発を進めることがあると思います。 仕様書に欲しい機能要件は書かれているものの、「なぜ必要なのか」コンテキストまで含め細かく書かれているケースは少ないです。「なぜ必要なのか」が分からないと、要件のどれが重要なのかが分からず、工夫の余地がなくなります。

すると「要件定義書に書かれていることを正しく作る 」ことが目的化してしまいます。仕様書にダウンロード機能と書かれていたらそのまま機能実装し、ダウンロードにかかる時間は考慮していない、何十分もかかるシステムができあがるかもしれません。

顧客からすると「ダウンロード時間は短いほうがいいなんて当然すぎて、仕様書には書くレベルではない常識。これはベンダーの職務怠慢だ。」と、要件定義力が低ければなってしまうかもしれません。対してベンダーからすれば仕様書に書かれている以上のことをすればするほど、コストもバグ発生のリスクも高まるので、仕様書以外の仕事をするインセンティブは低くなります。
 

成果を求めるにはエンジニアのモチベーションの最大化が重要

内製でエンジニアを迎え入れるのであれば「書かれていることだけ作ればいい」存在にはしないことが必須です。「いっしょにプロダクトをグロースさせていくブレーン」として迎え入れる。そういった働き方を希望するエンジニアに来てもらう。エンジニアを「自社内で指示通り作る人」にしてしまうならば内製化する意味がありません 。

さきほど「Myセブン銀行」アプリ開発ではユーザーインタビューも都度行っているとお話しましたが、エンジニアにも参加してもらっています。開発・運用が領域であるエンジニアに、ユーザーインタビューへの参加を要求するのは無駄なタスクを押し付けているように感じるかもしれませんが、実は非常に重要です。

なぜなら、一人一人がプロダクトの目的を認識し、考える材料を平等に持つことではじめて、全員が当事者意識を持って意見を述べあえるチームになっていくからです。結果として自律的なチームになっていき、世の中の変化に対しスピード感をもって柔軟に対応できるアジャイルな状態になっていくと考えています。

ものづくりが好きなエンジニアであれば「作るべきものは自分で考えたい」と思っているのではないでしょうか。弊社エンジニアの斉藤も元々金融系SIer出身ですが、「顧客との距離が遠く、成果が見えづらい」と弊社に転職してきています。
 

進化を続けるセブン銀行ATM

 
実は私自身、モチベーションを持つこと の重要さをセブン銀行に来てはじめて理解した人間です。以前は「自分のタスクをこなすことが仕事であり、担当業務の外側のことはよくわからない」と思っていました。

ですがセブン銀行は、社員に対しても、いま経営がどこに向かい、何を課題と感じているのかを明確に共有いただけるので「経営課題に対し、自分が役に立てることは何か」を自然と考えるようになりました。感じたのは、与えられた仕事をこなすのではなく、自分で考えた仕事を遂行するほうが、発想力もチャレンジ意欲も大きく向上するということ。モチベーションとはこういうことかと、ここに来て初めて理解しました。

エンジニアとフラットな関係で内製に取り組んでみて、弊社社員もエンジニア自身もモチベーション高く、積極的に意見をかわしあいながらプロダクト品質を向上させていく様子を見ていると、成果を求めるためには、エンジニアのモチベーションの最大化は重要な目線だと感じます。
 

(次回は、セブン銀行はどのように内製に切り替えていったのかについて、引き続きお話をお伺いします)
 


 
内製によるメリットが具体的にどのようなモノなのかよく分かるお話でした。

また「内製による、モチベーション醸成の重要性」については考えさせられるものがあります。そもそも資本主義とは、分業制の導入によって「考える人」と「実行する人」を分け、実行する側に回った人のモチベーションを搾取する仕組みともいえます。今回のお話はまさにそのあたりのお話をされていました。

セブン銀行では、内製によって考える人・実行する人の垣根をなくし、全員が考え実行するチームにすることによって、一般組織とは一線を画す存在になっていることがよく分かり、この良い循環がMyセブン銀行アプリの差別化を作っていると感じました。
 
  

 
■ 会社概要 ■
会社名 : 株式会社セブン銀行 (英名:Seven Bank, Ltd.)
代表者 : 代表取締役会長 :舟竹 泰昭
      代表取締役社長 :松橋 正明
所在地 :東京都千代田区丸の内1-6-1
創業  :2001年4月10日
URL  : https://www.sevenbank.co.jp/
 
■ プロフィール ■
紙中 加代子 (かみなか かよこ)
セブン銀行 デジタルバンキング部 副部長
「Myセブン銀行」アプリをはじめとする金融サービス事業のシステム開発

斉藤 大明 (さいとう ひろあき)
セブン銀行 デジタルバンキング部 調査役
BtoB向けWebサービスのエンジニア、ローコードプラットフォームの推進、内製開発推進
 
山下 利花 (やました りか)
セブン銀行 バンキング統括部
「Myセブン銀行」アプリのプロダクトオーナー
 

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