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「ルールメイキング」が出来ない企業のパーパスはただの標語

 
パーパスが言葉で終わっている企業が多い。

パーパスを実態に変えるためには何が必要か?

デジタル技術?それもたしかに正解。

ですが、デジタル技術でどんなに画期的なサービスを開発したとしても、法律・ルール上NGであれば、そのサービスが世に生まれ出でることはありません。

以前ルールメイキングの話をしましたが、世の中の先頭を行く企業は法律・ルールを作り変える活動をおこない、パーパスという名の正義を正解に変えています。(参考記事『デジタルだけでは、あたらしいビジネスは創れない。』)

とつまり、デジタル技術とルールメイキングはDXの両輪。

今回は、ルールメイキングについてまとめてみました。
 

デジタル技術だけでは、あたらしい市場は創れない

DXは組織変革・あたらしいビジネスモデルの創造と言われますが、言い方を変えると、DXは「あたらしい市場を作り出す企業に変革していくこと」というも言えるのではないでしょうか。

あらゆる商品・サービスがコモディティ化している中、企業に求められているのは、ユーザーのインサイトに踏み入り、あたらしい市場を作り出していくこと。当たっている他社サービス・商品を模倣して追従利益を得るのではなく、あたらしい市場を開拓する力を持つ企業を増やしていくことが重要です。

DXとは、デジタル技術を活用して、あたらしい市場を作り出すことができる企業体に変革していくこととも言えます。

ですが一点、壁があります。それは、法律・ルールです。

現在の法律・ルールは、デジタル技術によって生み出される新しいビジネスを想定して創られていません

日進月歩で進化するデジタル技術のおかげで自動運転車はほぼ出来上がっています。デジタルシュミレーションでは必要十分量の走行テストを終えており、いつでも走れる状態です。しかし、まだまだ実用化には至っていないのは、法律・ルールが追いついていないから。法律・ルールが変わらなければ道路整備も進みません。

日本ではウーバーがウーバーイーツに留まっているのは、日本の法律・ルールではライドシェアが認められていないから。個人が所有する一般車で顧客を運ぶビジネスを行うことを禁止されているからです。

法律・ルールの話はどの国でも起きている課題ですが、特に日本は「ホワイトリスト方式」と呼ばれ「やっていいことを決め、それ以外はやってはいけない」管理体系です。法律・ルールが定めた「やっていいこと」以外は、試すことすら禁止されてしまいます。日本はイノベーションが起きないと言われる背景の一つです。

ですが、あたらしいテクノロジーが日々生まれ、それにより可能になるあたらしいビジネスが日々広がっている世の中。法律・ルールのせいで何もできないなどと手をこまねいている場合ではありません。

企業も法律・ルール作りに参加しなければいけない時代だということです。そのためにも、デジタルの知見だけでなく、ルールメイキングの知見も高めていく必要がありそうです。
 

意外に遠くないルール策定

ここからはルールメイキングについてのあれこれについてまとめていきます。

ルールメイキングというと、そもそも国がやること、企業で関与できると言えば上場企業や大企業だけ、と思われがちですが、そうではありません。必要なのは、抽象的な言葉になりますが「知識・情熱・行動」です。
 

ルールメイキングは大きく2種類

ルールは「民間が主導するスタンダード(標準)」「政府・国際機関が主導するレギュレーション(規制)」の2つにわかれます。

スタンダードは公的機関・業界団体・企業などが連携して策定したルール
たとえばISO。国際的な基準・規格ですが、実はこのISOというのはスイスに本部がある民間機関であり、組織名称です。民間組織が、国際間での取引に支障が出ないよう、モノやサービスの品質・安全性・機能性の標準基準を定めています。ほかにも、ヨーロッパ連合内での標準規格であるEN規格や、日本の標準規格であるJISなどありますが、これらは民間が主導して策定したルールです。また、Wi-Fi や Windows なども業界や企業が定めた規格と言えます。

レギュレーションは政府・国際機関が策定するルール
たとえばFTA・自由貿易協定。特定の国や地域の間で、モノの関税・貿易の障壁などを削減したり撤廃したりすることで自由な貿易を実現する協定ですが国家間で決めごとはもちろん、国の法律もレギュレーションです。

インパクトが強いのはもちろんレギュレーションになりますが、実は民間もレギュレーション策定に関与することができますそれがロビイング活動です。ロビイング活動とは民間から政府・国際機関に働きかけ、政策の提言・リサーチ・アドバイスなどをすること。日本国憲法では、国民1人1人国会議員に提案する権利が認められており、書類を作成して提出することができます。また経済団体に加盟し、提言活動を行っていく方法もスタンダードです。やり方は色々あります。

以前の記事でご紹介したルールメーカーズ企業は、代表が自ら強烈にロビー活動を行っています。「修理する権利」を世界に広めたiFixit社CEOカイル・ウィーンズさんは、議員のスマホを無料で修理して上げながら修理の必要性を訴え、電動キックボードのシェアリングを広めたLuup社のCEO岡井大輔さんは、自治体に働きかけ、マイクロモビリティ推進協議会を設立することで大ごと化していき、道路交通法を改正することに成功しています。

手法はあるとは言え、手法に則って遂行しダメだったら諦める、という世界ではなく、企業側からあの手この手と戦略を巡らせ風穴を空け、広げていくとてもアナログな活動です。コネクションがなくても、中小企業でも、情熱と戦略があれば取り組めます。
 

社会問題意識という追い風

以前よりもはるかにルールメイキングがしやすくなっているという側面もあります。

以前までは、たとえばねじの寸法を統一するなどがルール策定の目的でした。そのため、その業界で力を持つ大企業でなければ提言はむずかしい状況でした。

ですが今は、環境問題など社会問題の解決を加味した上でのルール変更が主流になってきています。社会にとって良いという正当性があり、共感が得られればルールとして認められる可能性が高くなっているわけです。

先に述べたiFixit社の「修理する権利」は、大量消費・使い捨てたゴミによる環境破壊を解消するためのものですし、電動キックボードは高齢化・人口減少を支える生活インフラ・新たなモビリティサービスとしてニーズがあるものだったからルール改定に成功しています。

逆を言えば、一社が儲かるだけのルールが通ることが少なくなったということでもあります。つまり、一社でロビイング活動をしていくのではなく、ほかの企業や団体を巻き込んで合意形成を進めていくことも重要になってきます。

以前の記事で、さまざまな企業が連携して一つの経済圏を創っていく「エコシステム」に触れましたが (ご参照『DX推進担当に、のび太くんを。』)、エコシステム全体でロビイング活動を行っていくことが今度増えてくるのではないでしょうか。

そこで重要になってくるのが、そのエコシステムの存在意義です。単にビジネス上の利害関係で構成されているエコシステムは存在意義を持たず、ルールメーカーにはなりえません。ビジネスだけでなく、同じ志を持つ企業が集まって出来たエコシステムでなければ、提言することも定まらずロビイング活動もままならないでしょう。

また、パーパス・志がない企業はエコシステムに参加することがむずかしくなるか、参加しても発言権がなくなりエコシステム内での下請け企業になっていくでしょう。こうした側面からもパーパス策定は非常に重要です。
 

トップダウンの代替になるパーパス

ルールメイキングの歴史を見ていくと、抜本的にルールを変更するときはやはりトップダウンが有効だったようです。

19世紀の産業革命で自動車が誕生し、抜本的なルール変更が必要になりました。

フランスは王室のトップダウンで一気にルールを変更。土や石でデコボコしていた道を当時新素材として登場したアスファルトを使い一気に整備することに成功しました。

対してイギリスはボトムアップで、議会による活発な議論の中ルールメイキングが行われ、結果、自動車と馬車の利害対立が起きてしまいました。結果、どちらの立場も考慮せざるを得なくなり、自動車を走らせる際は、赤旗を持った人に前を歩かせる、といったルールが策定されてしまい自動車普及が遅れてしまいました。

先ほど述べたエコシステムでも、ルールメイキングを進めるとなると各企業同士の議論が必要になってくるはずでボトムアップになってしまう傾向があると思います。もちろん内容によってはボトムアップでの合意形成のほうが良い場合もありますが、利害関係があるので放置するとイギリスのようなパターンに陥ってしまいがちです。

ではエコシステム内の特定企業がトップダウンで決めるのかというとそれも難しい。エコシステムは、ベースは各企業の自由意志で集まっているため、上下関係をハッキリさせてしまうことで崩壊してしまう可能性もあります。

ですが、同じパーパス・志の元集まって構成されているエコシステムであれば、合意形成は早いでしょう。パーパスに従いルールメイキングすれば良く、微調整で各企業の意見を反映させれば良いだけになります。

そもそもパーパスとは「神から与えられた存在意義」であり、その企業が神から与えられたミッションのことを指します。ビジネスを一番上に置くのではなく、社会的存在意義を一番上に置くことがあらゆる意味で重要性を増しているなと感じます。
 

まとめ「法律を拡大せよ」

 
DX時代、デジタル技術の導入と同様に重要になってくるルールメイキングについてまとめました。

●あたらしいテクノロジーで、あたらしいビジネスが創れても、法律があたらしくならないとなにも実現せず終わるため、ルールメイキングはDX企業にとって必要な活動。
●政府や国際機関が主導するルール策定、法律の策定などは民間企業も関与することができる。特に社会問題を踏まえたルール改定が必要なこのタイミングにおいて、どの企業も提言していくチャンスは広がっている。
●パーパスを基に集まった企業でエコシステムを形成し、団体でルールメイキング活動を行っていくことが今後おそらく増えていく。パーパスはますます重要になるはず。

パーパスにも触れましたが、つまり、世の中の法律・ルールを変えなければ成し遂げられないくらいのパーパスでなければパーパスとは言えないのかもしれません。

社会問題に向き合い、パーパスを掲げ、時代のルールを更新していく側になるのか。それとも従う側になるのか。このルールメイキングの話はプラットフォームうんぬんよりも、さらに上流の話なのかもしれません。

参考:
Forbes 2022.8号 「新しい市場創造」入門 特集『RULE MAKERS』
 

 

執筆者
リビルダーズ編集部

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