インタビュー

日本企業は「〇〇」を変えられない。だからイノベーションが起きない。【『1人イノベ』竹林さんの日本のイノベーション体質再構築論 vol.1】


「その〇〇が今後も成長し続けるならそのままでもいいんです。でもその〇〇はもう腐りかけている。違う〇〇を見つけないとアカンわけです。」(『たった1人からはじめるイノベーション入門』著者 竹林 一さん)

日本はなぜこんなにもイノベーションが起きないのか。

『たった1人からはじめるイノベーション入門』の著者・竹林一さんにお話を伺いました。

竹林さんは現在、京都大学経営管理大学院客員教授、またオムロン株式会社イノベーション推進本部シニアアドバイザーとして、日本のイノベーション体質の再構築に取り組んでいらっしゃいます。

竹林さん曰く、イノベーションの決め手はたった1つ「〇〇」を変えること。「〇〇」を変えることで、自動改札ビジネスを180度転換させ新しいサービス生み出してきました。また赤字の工場を2年で黒字化してきた竹林さんのお話から、イノベーションの正体について語っていただきました。

(REBUILDERS編集部) 
 

 

イノベーションとは「幹 (みき)」を変えること

 
― 日本はイノベーション後進国とも言われています。DXもデジタル化で止まってしまい、イノベーションに至らない企業が多い。なぜなのかお伺いしていきたいのですが、まずそもそもイノベーションとは何なのか?竹林さんのお考えをお聞かせください。

(竹林さん) イノベーションというのはシンプルに「幹」を変えることなんです。

「幹」を変えることで「葉っぱ」である個々のアイディアが変わってくる。

ところが「幹」を変えないで、「葉っぱ」のアイディアばかり考えてしまう企業が多い。そうすると、イノベーションにならないんです。
 

 
僕が手掛けた「自動改札」のイノベーションの例でお話します。

自動改札は、1967年オムロンが世界で初めて開発したモノです。駅員さんを、切符切りという重労働から解放する画期的なシステムでした。

ですがその後、PASMOのような「非接触型ICカード」が登場し、切符の需要が減少。

そこで「自動改札機は『駅への入り口』で駅員さんに変わって切符を切るもの」という「幹」から、「自動改札機は『街への入口』である」と「幹」へと再定義しました。

『街への入り口』と定義された自動改札機は、切符切りを自動処理するシステムではなく、1to1マーケティングを実現する媒体へと変わります。

自動改札機を通ったときに定期券からお客さんの属性情報を入手することで、おいしいレストランのクーポンや暇つぶしスポットなど、一人ひとりのニーズに合った町の情報を携帯に配信するというあたらしいマーケティングビジネスがはじまるわけです。

この変化を「幹」と「葉」で整理すると、
 

 
幹が変わると、それに連なってあたらしいアイディアがいっぱい生まれるわけです。

その後「街への入口」という幹は、鉄道系の広告エージェンシーや大手広告代理店などを巻き込んだ一大プロジェクトになっていきました。時代が早すぎて1To1マーケティングのビジネスはやめましたが、その後さまざまな活用アイディアが検討され、子供が駅の改札を通過したタイミングを親に知らせる「子供の見守りサービス」はすでに実用化されています。

つまり、DXっていうのは、幹を変え、その幹をデジタルでビジネス化していくことなんです。
 

幹を変えるとは、延長線上から脱却すること

 
― 幹を変える重要性、明確に理解できました。ですが、抽象度が高いお話であるがゆえに「頭では理解できるけど分からない」方も多いかも知れないと思いました。
 

(竹林さん) 幹を変えるというのはつまり「いままでの延長線上から脱却すること」とも言えます。

自動改札機をいままでと同じ「切符の自動処理」という幹で見ていると、葉っぱのアイディアは「自動改札の処理速度を上げる」などしか産まれません。

その幹が今度も成長し続けるならそのままでもいいんです。でもその幹はもう腐りかけている。違う幹を見つけないとアカンわけです。そのままにしていたら、腐った葉っぱしか出てきません。アイディアを出しても出しても何にもならず、みんな疲弊していってしまうわけです。

すごくシンプルな話なんですが、このシンプルなことが重要視されていない。だからDXはデジタル化で止まってしまうわけです。
 

なぜ日本企業は「幹」を変えられないのか

 
― なぜ、日本の企業は「幹」が考えられないのでしょうか?それとも、考えないのでしょうか?

(竹林さん) そのお話は「起承転結」で考えると分かりやすいんです。

僕が書いた『1人イノベ』で提唱していることなんですが、イノベーションが起きる段階は「起承転結」に分けることができ、それぞれ得意な人がちがうんです。
 

引用:『たった1人からはじめるイノベーション入門』 著者:竹林一  出版:日本実業出版社 / 起承転結の図 (一部手を加えて)

 
くわしくはぜひ本書を読んでみてほしいんですが、カンタンに言うと

>起 アイディアを発想する人
>承 アイディアを俯瞰してあたらしい幹を発見し、言語化する人
>転 あたらしい幹を、計画に落とし込む人
>結 計画を実行する人

どれが良いということではありません。イノベーションを起こすには全タイプの人が必要です。ただ「起承」タイプは少ないんです。
 

日本企業の上司の大半は「転結」

あたらしい幹を作るのは「起承」タイプの人です。起承タイプは、物事を抽象的に俯瞰して見てアイディアを考え、言語化することに長けています。創業者はだいたい起承タイプですね。

ですが、日本企業は「転結」タイプが上に上がっていく。

創業期が終わりこの幹で勝てると分かったら、幹から生まれる枝や葉っぱをブラッシュアップしていくフェーズが中心になります。商品バリエーションを増やすとか、作業工数を下げるとかで勝っていけるのですが、これは「転結」タイプの人たちが得意とする領域です。

日本企業は長らく転結で成り立ってきてました。転結タイプが企業活動の主役であり、そのため上司の大半は転結タイプになるわけです。

転結タイプは論理で進めていく人たちなので、具体的です。起承タイプとは相容れないところがあります。

たとえば、あたらしい幹を考える会議に転結タイプが入ると「それで儲かるのか?」と、抽象イメージをつぶしてしまったりします。

この先も転結で勝って行けるなら、転結が主役・幹もこのままでいい。でも、昭和・平成の頃に出来た幹のまま勝てる企業なんてもうありません。起承タイプがビジネスをリードして、再編していかないとまずいんです。
 

竹林さんはたまたま「運」が良かった

 
― なぜ、日本の企業は「幹」が考えられないのでしょうか?それとも、考えないのでしょうか?

(竹林さん) いえいえ、「転結」タイプの方も多かったです。

オムロンは1933年から「イノベーションとは社会課題の解決だ」と言ってたような会社ですが、それでも既存ビジネスの成功とともに「起承タイプ」はだんだん減ってきます。

僕はたまたま運が良かった。

まず、自動改札の時の上司がたまたま「起承タイプ」でした。

その上司は、比喩で物事を説明するのが得意な人でした。比喩で説明できるっていうのは、具体的な事象を抽象化できるということです。

彼に毎週、自動改札のあたらしい活用アイディアを毎週提案書にまとめて持って行くんですが「それは葉っぱや。幹のアイディアを持ってこい。」と却下され続けました。

なんど持って行っても「そうじゃない、幹をもってこい」。もうなにが葉っぱでなにが幹なのかわからなくなっていく。

約6ヵ月間却下され続け、ようやくたどりついたのが「駅は街の入り口」という幹のアイディアでした。
 

 
この「幹を変える話」は、いまでこそ「リフレーミング」という言葉で学術的にも提唱されていますが、当時はそんな概念も、ビジネス本もありませんでした。

僕はたまたま、上司から実践を通じて「幹を考える」ということを教えてもらうことができたんです。

 
― その上司の方はなぜ「起承タイプ」であり、幹の重要性を理解されていたんでしょうか?

(竹林さん) その上司はいわゆる、主力事業部の営業などといった「王道」にいた人じゃないんです。

ややこしい場所を転々と回って立て直しをしてきた方。僕と同じです (笑)。

王道を渡ってきた人は他を知らないので、俯瞰的に物事を見れない傾向があります。いろいろ回ってる僕らのようなタイプのほうが俯瞰して、抽象的に物事が見れるのだと思います。

彼のような上司ははじめてだったので、まあやっぱり少ないんだと思います。
 

「幹」はどう作るのか

 
―  イノベーションとは「幹」を考え直すこと。あたらしい技術で何するかを考える前に、幹を考え直すことからはじめないとDXがデジタル化で終わってしまいそうですね。ただ、幹を考えるって相当難しいことなのではないかとお話伺いながら思ってしまいました。いかがでしょうか?

(竹林さん) ワークショップで教えてたりもしますが、皆さん結構「うんうん」うなってますね。僕も自動改札の時は6ヵ月かけてようやく幹を見つけた。やっぱりそう簡単ではないんですがポイントはあります。
 

手元にあるモノから「見つける」

「幹」っていうのは、ゼロから発想するモノではなく、見つけるモノです。

手元にあるモノの価値の本質を見つけるんです。

たとえば、自分ができること・持っているもの・知っていること・知っている人、仲間ができること・持っているもの・知っていること・知っている人…いろいろ人の意見やもの、事象、ヒントから多角的に考える。その中から、他が言ってないところで切れば、それが自分たちの幹になるんです。

なにか画期的なプロダクトやサービスがないといけないんじゃないかと考えてしまいがちですが、そんなことはありません。手元にあるモノから強みを探せばいいんです。

ちなみに僕は「起」の人ではなく、「承」の人です。
 

引用:『たった1人からはじめるイノベーション入門』 著者:竹林一  出版:日本実業出版社 / 起承転結の図 (一部手を加えて)

 
「起」はアイディアを発想する人とお話しましたが、つまり妄想する人です。

僕の周りにはこの妄想する「起」タイプが多いので、それを「承」である僕が「この妄想の本質はなんやろう」「どうするとビジネスに出来るやろう」と考えて、幹をこさえていくイメージです。自動改札を『街への入り口』と定義した時も、営業戦略も変わってくるのでそこまでリードしてました。

自分がアイディアを考えるのではなく、「起」のアイディアから本質的な価値を見つけ出している感じですね。
 

たくさん情報収集をする

幹を考えるのはアイディアを考えるのと違うので、机の上でうんうん唸っていても浮かんできません。

また、ビジネスとして機能する軸を考えることなので、ファクトと合ってないといけません。なので、現場ってなに困ってるのやろうとかひたすら情報収集することが必要です。

昔、スーパードライのキャッチコピーに「コクがあるのにキレがある」というのがありました。あれも製造方法や競合調査などさまざまなファクトを経て生まれた幹の言葉です。
 

上司が考えてはいけない

イノベーションは、人が起こすモノです。

実行する当事者が「よっしゃやってやるぞ」とならなければ、イノベーションは起きません。

そのため、上が考えた幹を下におろして「これで進めるように」という進め方は避けるべきです。

自動改札の時の上司は、僕に考えさせることを徹底していました。

何度提案書を持って行ってもボツにされていたある時「お前が言ってるのはつまりこういうことやろ?抽象度を上げるとこういうビジネスをしたいんやろ?」と、アイディアをまとめられてしまったことがありました。

ガッカリして次の週、上司に言われたことを提案書に整理して持って行ったところ「それは俺が言ったやつや。自分のアイディアを持ってこい。」とボツにされたんです。上司は、幹を上が考えてはいけないということを理解している人でした。
 

 
僕が、ソフトウェア会社の社長を任された時も同じことをしました。

そのソフトウェア会社は、リーマンショックの影響で徐々に受注が取れなくなっていました。お客さんに、なぜ僕らは切られてしまうのかお聞きしたところ「単価が高いから」と言われてしまいました。

安売りはできない。高くても選ばれるあたらしい幹が必要。これからは合い見積もり取られる案件は一切やらない。指名で選ばれる、そんな幹が必要でした。

その幹を僕は考えてはいけない。将来会社を背負っていく若いメンバーが自分たちで考えなければいけない。僕は6ヵ月の猶予をメンバーに与え、外部コンサルを付けてアシストし幹を考えさせました。

そうして出来上がったのが「知のエンジンを創造する」という幹でした。ソフトウェアのアーキテクチャを考えられるメンバーが多く在籍していた強みを、自分たちの新しい幹として再設定。リーマンにも関わらず売り上げも利益も大幅に増えました。
 

言葉は重要、だがバズワードではいけない

「駅は街への入り口」「知のエンジンを創造する」という言葉は、幹を最終的に言語化したものです。

文章や経営資料などで長々と論理的に説明されても、人は動きません。短く、その背景まで感じ取れるような言葉が有効です。コンサルの方からは、17文字以内で表現すると良いと言われました。ちなみにこれって俳句の5・7・5の17文字なんです。

また言語化は、みんなのイメージを集約するために必要です。

イメージは人それぞれ違うものです。「新規事業を立ち上げろ。なんでもいいからアイディア持ってこい。」と言われて持っていったら怒られた、という話を良く聞きます。これは上司とメンバーの新規事業に対するイメージがすり合ってないことが原因です。

おなじ「新規事業を立ち上げろ」でも、みんなイメージがちがうんです。

だから、誰が見てもイメージがぶれない言葉作りが重要なんです。

ですが、言葉から考えはじめてはいけません。手元にあるモノの本質を探り、情報収集を行い、できればメンバーに時間を与え考えさせイメージを固めていく。言語化はその後です。

言葉が先行すると本質ズレが起きます。「DX」はその典型です。バズワードが転がっているところにみんな走っていって”小学校のサッカー”のような状況を引き起こしてしまいます。

自分たちの幹をしっかり考え、その上で言葉を考える。

トレンドワードに惑わされず、自分たちの価値をしっかり見つめなおすタイミングに来ているということです。
 


 
これまで通りの幹でもビジネスが成り立つならこのままでもいい。でも悪化しているのであれば、幹を変えなければいけない。古くなった幹のままいくら社員が頑張って働いても、無駄になっていってしまう。幹を再考せず経営不振に陥っているのはすべて経営者の責任であるとお話されていた竹林さん。

DXがトレンドテーマになっている昨今「日本の生産性が悪化しているのはデジタル化が進んでいないからだ」とよく言われていますが、悪化の主要因は幹の再構築・コンセプトの再構築を先送りしていることなのかもしれません。あるいは、先送りしているという意識がないこと。

竹林さんのお知り合いの競輪チャンピオンのお話も印象深く。もう40代であるにも関わらず、なぜ筋肉・体力面で劣る若手に勝ち続けられるのか、その秘訣を聞いたところ「若い人はペダルに100%力を伝える術を知らないから」とおっしゃっていたそうです。

働く人たちがもつ力を100%日本の競争力に変換できない日本の企業体質。デジタル化でなんとかしようとしている間に、さらに世界との差が開いていくのではないかと感じるお話でした。
 

次回は、イノベーション実現のもう一つのカギ。「ロジック上司の攻略方法」についてお伺いしたお話をお届けします。「ロジック上司を説得するのはムリ」ときっぱりおっしゃられていた竹林さん。その意外な解決方法?について非常に興味深いお話が聞けました。お楽しみに!!
 

 
■ プロフィール ■
竹林 一(たけばやし はじめ)
京都大学経営管理大学院 客員教授/オムロン株式会社イノベーション推進本部シニアアドバイザー。「機械にできることは機械に任せ、人間はより創造的な分野での活動を楽しむべきである」との理念に感動して立石電機(現オムロン)に入社。以後、新規事業開発として鉄道カードシステム事業やモバイル事業、電子マネー事業等に携わった後、事業構造改革の推進、オムロンソフトウェア代表取締役社長、オムロン直方代表取締役社長、ドコモ・ヘルスケア代表取締役社長を経てオムロン株式会社イノベーション推進本部インキュベーションセンタ長を務めるとともに、京都大学経営管理大学客員教授として「100年続くベンチャーが生まれ育つ都」に向けた研究・実践を推進する。日本プロジェクトマネージメント協会特別賞受賞、同協会PMマイスター。その他、一般社団法人データ社会推進議会理事他、政府経済団体関連各種委員会の諮問委員を務める。著書に『たった1人からはじめるイノベーション入門』、『ここまできた!モバイルマーケティング進化論』(共著:日経BP企画)、『PMO構築事例・実践法』(共著:ソフト・リサーチ・センター)等がある。
 
■ 著書 ■
『たった1人からはじめるイノベーション入門』著者(日本実業出版社 / 2022年1月初版)
なぜ、「イノベーション」はいつもかけ声で終わるのか?専門用語をほぼ使わず、平易な日本語でイノベーションの正体について解き明かした快作です。
 
■ YouTube ■
【オモロい大人のヒストリー】竹林一の「し~ちゃんねる」
竹林さんがインタビュアーとなり、「おひとりさまブームの仕掛け人」「”竹”の会社を起こしがっちりマンデーに出演するまでに至った人」など知られざるすごい人たちのお話を余すところなくお届けしている濃厚なビジネス情報チャンネル。


 

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