インタビュー

「辞めてほしくない人が辞めつづける企業」を量産してしまうスキルマッチ採用の悲劇。【おっしーさんの日本の人事再構築論 vol.2】


「スキルが高い人が、気に入らないことが起きたときネガティブキャンペーンを行い、大量の人が離職してしまうという事案があらゆる企業で起きています。スキルマッチ採用への偏重はそろそろ改める必要があると思います。」(採用モンスター CEO 鴛海 敬子さん)

前回「日本の人事を再構築する人」として採用モンスター・CEO鴛海さんに、人事のオペレーター化問題についてお話しいただきました。(前回記事「属人性の排除が「オペレーター人事」を増やし、採用力の低下を招いている。【おっしーさんの日本の人事再構築論 vol.1】」)

今回お伺いしたのは企業の問題点である「スキルマッチ採用偏重」について。

特にエンジニアのようなナレッジワーカーの場合、スキルを満たしているかどうかのみを選考基準として見てしまう傾向がありますが、ただでさえ少ないエンジニアの中から、さらに絞った採用活動を行わなければならない状況を引き起こしています。

スキルだけでなく、カルチャーマッチ目線での採用活動も強化していくべき。特にDXという文脈において、フラットな組織作りを目指すのであればカルチャーマッチ採用が重要だと警鐘を鳴らす鴛海さんにその意図についてくわしくお聞きしました。

【備考】採用モンスターは、エンジニア採用以外も支援している採用のプロフェッショナル集団です。

(REBUILDERS編集部) 
 

 

100%スキルマッチ採用振り切りが企業を滅ぼす

 
スキルマッチ採用かカルチャーマッチ採用か。結論、両方重要なのですが、スキルマッチ採用に振り切っている企業が年々増え、そのことが引き金となり同様の問題があらゆる企業で起きています。

欲しいポジションに対して、能力がある人を採用するのはもちろん大前提だと私も思いま す。一方で、求められていることをすべて出来ないといけないのか、ここは譲れない・ここは育成の範囲内として許容できる、という調整・設計・見極めこそ人事の仕事。そこを放棄し、経営層から求められるスペックの人材をそのまま探す人事が多い印象です。

結果、100%スキルマッチ目線で採用した人材が、カルチャーが合わないことで力が発揮できなくなっているという事象をよく見かけます。能力が100の人材を採用しても、カルチャーが合わなかったことで30~50の力しか発揮できてない。だったら最初からスキルは 30~50の採用基準で、残り50~70は育成する前提でカルチャーマッチ採用すれば良かったのではないでしょうか。
 

2020年12月に鴛海さんが執筆された「まちがえない採用」。こちらの本でもカルチャーマッチ採用の重要性について提言されています。

 
カルチャーマッチ採用とは「この会社のために頑張ろう!」と思ってくれる人を採用することです。こういう人は入社当初はスキル30~50でも、前向きな気持ちで頑張ろうと思えるモチベーションが伴うので、100に引きあがる可能性が十分あります。また会社の成長に貢献したいから仕事以外のこともやろうという気持ちがあり、会社の雰囲気をよくしてくれる人になります。
 

ほぼ起きる、ハイスキル人材のネガティブキャンペーン

逆にスキルマッチ採用に振り切りカルチャーマッチを見ず、100の人材ばかり集めていると起きてしまいがちなのが「ネガティブキャンペーン」です。

スキルが高い人はおのずと社内で発言権が高くなり、また意見を言いたい人が多い傾向があります。すると、なにか気に入らないことが起きたとき、会社にとってネガティブな意見を広げてしまい、周囲も「あの人が言うならウチの会社ってきっと変なんだね」と辞めてほしくない人まで辞めてしまうという事象が起きてしまう。この事象は本当に、今、あらゆる企業で起きています。

特にエンジニアは、スキルが高い人ほど「この技術がやりたい」というニーズが強い傾向があります。ですが、事業会社に入った場合、システム開発のフェーズが変われば技術も変わります。特に、DXにおける攻めのシステム開発は次々フェーズが変わるため、エンジニアがやりたい技術経験だけを提供し続けるのは不可能。すぐに転職してしまいます。

にもかかわらず、選考時に技術内容だけを訴求してしまう。すると環境が変わったタイミングで信頼関係が崩れ、採用したエンジニアがネガティブキャンペーンを引き起こしてしまうという結果につながってしまう傾向がある。やはり、事業内容やカルチャーでも訴求をしていく必要があるわけです。

スキルマッチ採用・カルチャーマッチ採用、両方大事です。ですが、長く働いてくれるのは明らかにカルチャーマッチで採用した人。「この会社・人が好きだから」という要素で入社してくれているからこそ、中長期的な目線で共にカルチャーを育んでいってくれる仲間になるんです。

そもそもスキル要員は業務委託で良かったりもします。自社の社員として迎え入れるべきはカルチャーを一緒に作っていく人。そう考えると、育成前提のカルチャーマッチ採用に力を入れるほうが重要と考えるべきです。
 

「去るもの追わず」が日本企業の価値を下げている

スキルマッチで採用した人が数年で転職していく事象について、経営者の皆さんはよく「去る者は追わない。仕方がない。」と言われます。退職は仕方ないと採用コストばかり気にされますが、この傾向を危うく感じています。

いま海外企業は「離職コスト」を重視しているという話をご存じでしょうか。採用コストももちろん見ていますが、離職コストの改善に重きを置く動きが一般化してきているのです。

離職コストとは、簡単に言うと「その人が働き続けていたら得られていた売上」のこと。想定売上から、その人が退職したことで必要になったあたらしい人の育成コストや、あたらしい人が採用できるまでの穴埋めで既存メンバーに発生する残業コストなどを差し引いて算出します。

なぜ海外では離職コストが重視されているのか。それは、プロダクトやサービスの魅力よりも「人的資本」を重視する投資家が増えてきているからです。
 

「採用コスト」を気にする日本  「離職コスト」を重視する海外

デジタル化が進み、イノベーションを創出する主体が、アイディアと実行力を持つ「人」に移り始めています。そのためイノベーション人材の獲得に投資家が注目しはじめ、2020年8月26日には米国証券取引委員会で「人的資本に関する情報開示を義務化・ルール化」が決議。2022年現在では、人的資本を含むいわゆる無形資産が米国での企業価値の9割を占めています。
 

「ISO 30414」のプロフェッショナル認証を受けている鴛海さん。ISO 30414 とは、2020年8月26日 米国証券取引委員会で決議された「人的資本に関する情報開示の義務化」のガイドライン。鴛海さんは、人的資本の概要と離職コストの考え方についての啓蒙活動も行っている。

 
そのため、人的資本の情報開示が一般化しており、その中の指標である「離職コスト」が重要視されています。

おそらく海外企業の雇用に関して「去る者は追わず」のドライな印象を持っている方は多いと思いますが、実際は、ドライではあるものの「辞めてほしくない人が辞めないような努力」はしているのが実情です。離職コストを計算し、改善のための投資に力を入れています。

ですが日本は真逆。人の定着にコストをかける企業が年々減ってきています。投資家は国境を越えて活動するため、早めに対応を進めておかなければ日本企業の世界的評価はさらに落ち続けていくでしょう。

すべての人に長くいてもらう努力をする必要はありません。個人のキャリアを重んじ、ある程度経験を積んだら次の会社にいくという流れ自体はあってしかるべきだと思います。ですが、辞めてほしくない人が辞めてしまう事象を少なくしていく努力は必要です。

「辞めてほしくない人」とは「ともに中長期的に会社を作っていきたい人」です。スキルが高い人ではありません。スキルは外部から借りることができます。仮にスキルが高い人に残り続けてほしかったとしても、カルチャーが明確でなければ長く働きたい理由なんて見つからないでしょう。まずはカルチャーマッチ採用によってカルチャー人材を育て上げ、企業カルチャーをデザインしていくことが重要です。
 

「合わない人の言語化」がカルチャーマッチを作る

カルチャーとは「自社らしさ」です。社員にインタビューをし、よく観察すれば「人が好きな人が集まっているよね」「仕事にコミットすることに誇りを持つ人が集まっているよね」「明確に指示されるより、ふわっとした指示を好む人が集まっているよね」など、どんな傾向の人が集まっているかが見えてきます。そこを言語化していければ自社らしい人材像が浮かんでいきます。

ただ、このらしさの言語化で一点落とし穴なのは、今いる社員かららしさを見つけるのではなく、勝手な想像で「欲しい人の言語化」をしてしまうことです。企業側のひとりよがりな欲しがり要件だけで言語化してしまうと「地頭が良い人」「ルックスが良い人」など、どの会社でも欲しがられるスター人材条件が並んでしまいがちになります。それでは自社独自のらしさがあぶり出されることはありません。理想的な人物像を言語化するのではなく、今いる社員の傾向を見て言語化をしてくことが重要です。

さらに有効なのは「合わない人の言語化」です。「御社に合わない人はどんな人ですか?」と尋ねるとモゴモゴしてしまう企業が多いのですが、合わない人を言語化することにより、自社と他社の違いが浮かび上がってくることがあります。
 

 
合わない人の言語化が有益なのは「スキルに眼が眩まなくなること」です。合わない人が明確になっていれば、どんなにハイスキルでも、こういう人はウチには合わないから採用を見送ろうという決断ができるようになります。まさにカルチャーマッチの採用基準として機能してくれます。

例えば、過去エステの会社の採用支援をした時のことです。以前は美容技術に長けている方が欲しいということでそういった人材をターゲットに採用をしていたのですが、すぐに辞めてしまう状態が続いていました。そこで、その会社の顔となっている社員を観察したところ「人に対する愛情が深い人」が活躍する傾向があることがわかりました。つまり、この会社に合わない人は「人に対する愛情が薄い人」。「技術が好きな人」ではなかったことが分かりました。

そこで面接では「人に対し愛情深く接したエピソードがあるか」を質問することにし、内容が薄い人はどんなにスキルが高くても採用しないという方針に。その後、離職は 0になり売上の安定化を図ることに成功しました。

採用コストがかかればかかるほどハイスキル人材を求めてしまいがちですが、そこをグッとこらえ、合わない人の言語化によるカルチャーマッチ採用を徹底することが企業カルチャーを作り上げていくはずです。
 

本音が言える組織でなければ、離職は続く

ただ、カルチャーマッチ採用したところで、組織自体が「本音を言える組織」になってなければ離職率が下がることはありません。

特にDXが目指すフラット型の組織は、本音が言いあえる環境になっていることが重要です。トップダウン型の企業であっても、DX時代の企業はトップとボトムの連携を求められるので、本音を言える組織への変革から逃げることはできません。

本音を言える組織になっていないと、優秀な人が辞めてしまいます。優秀な人ほど会社貢献意欲が高く、意見したい欲求も高くなります。本音が言えない組織のままでは、カルチャーマッチ採用したとしても、育成しスキルも十分になってきたところで転職されてしまう、という流れが続くことになります。
 

プラス実行がなければ、本音は消えていく

本音を言える組織を創っていくには、まず、意見を吸い上げる仕組みが必要です。社員満足度アンケートをやったり、アンケートを元にした1on1をやったりです。「みんなの意見が欲しいんだ」という姿勢を創ることが重要です。

次に、吸い上げた意見を実行に移すことが必要になるのですが、ここをやらないで失敗する企業がとても多いです。意見を聞いても実行しない、というのは、無視しているのと同じです。「意見を言ってもなにも変わらないので、もう特に意見はありません」となり社員が意見を言ってくれなくなってしまいます。実行しないのであれば意見の吸い上げもしない方がマシ。ですが、それではいつまで経っても「優秀な人が去っていく会社」からの脱却は図れません。

よくトップダウン型企業の経営者から「ウチは意見の吸い上げはしない。実行しないことで社員の不満が逆に溜まっていくから。」という意見もお聞きしますが、それは、優秀な人は不要と言っているのと同じです。もちろんそれもまた企業の一つの在り方なので良いと思いますが、そういう企業ほど「地頭が良い人」を求める傾向があり矛盾しています。地頭がよく、意欲も高い優秀な人は、意見を聞いてくれない企業に骨を埋めることなどありません。

また、トップダウンなのにトップダウンであることに気づいていない経営者もかなりいらっしゃいます。なぜウチの社員は自主的に動いてくれないんでしょうか?と悩んでいらっしゃるのですが、第三者から見ると明確にトップダウンであるというパターンです。「あなたがトップダウンのままだと、一生右向いて左向いてってやることになりますよ。」とアドバイスしたことがありますが、もはや第三者が啓蒙していかないと変わりません。

意見の吸い上げと実行を重ねつつ、評価制度も作り上げていく。自主的な動きを評価する仕組みを創っていく。こうして少しずつ改善していく、何年かかけて変革していくことが必要です。
 

あわせて「言葉の変革」も必要

本音を言える組織変革と同時に、「むやみにむずかしい言葉を使わない変革」も重要だと個人的に感じています。

むずかしい言葉を使って自分を偉く見せようとする風潮がありますが、それではフラットに意見を言い合える組織は作れません。

そもそも、コミュニケーションは「話すこと」ではなく「ちゃんと伝えること」が目的です。「ちゃんと伝える」ために、むずかしい言葉を使うことで伝わりづらくなる時は使わない。むずかしい言葉を使った方が理解度が増すなら使う、と使い分けるのが良いコミュニケー ションに繋がります。「それ俺のマターだから」ではなく「それ俺がやる」で良いんです。

私自身は、むやみにむずかしい言葉を使わず、誰とでもカジュアルに同じ目線で話すことが重要だと考えています。その方が圧倒的に人間関係がうまくいきます。

むずかしい言葉を使うことによる権威付けというのはトップダウン型の組織形態が主流だった頃には必要だったのかもしれません。ですが今、フラット型の組織形態への切り替えが求められている中で、コミュニケーションも変わっていかなければいけないタイミングが来ているのではないでしょうか。

また、上のポジションの人間がポジションにしがみつこうとするとむずかしい言葉による権威付けが横行するのかもしれません。私自身は社長という肩書にこだわりはなく、またどこかの企業の人事に戻ってもいいくらいに思っています。だから、同じ目線でカジュアルな言葉で話すことが出来ているのかもしれません。

良い組織を作るためには肩肘を張らず等身大でコミュニケーションを取っていくことが必要だと思います。微力ながら採用モンスターの活動を通して、クライアント様と伴走しながら採用支援する中で、余計なプライドを脱がせ、わかりやすい言葉で話す文化の伝承をしていき、最高の組織を作るお手伝いができたらと思っています。
 

2022年8月採用モンスターズオフィスにて。ありがとうございました!

 


 
離職コストの話、企業価値の9割が無形資産価値で図られている話など、世の中の流れが大きく「人間中心の世界への回帰」に動いていることが分かり、また、その流れにまだ気づいていない日本企業が多いことが分かるお話でした。

2019年7月1日~2日、資本主義を再構築する目的で、資本主義の父であるアダム・スミスの旧宅に各国の学者・官僚・企業家が集まり「株主最大化の否定」「顧客第一主義」「従業員の復権」「資本主義における道徳観・倫理観の重要視」が合意されています。

つまり、2019年には従業員が株主に資源として扱われてきたことに対する警鐘がすでに鳴らされており、従業員こそ価値を創造する主体であると再確認されていたということです。

従業員が主体的に活き活き働き続ける環境を創ることはもはや企業の責務。従来の企業組織とは根本的に異なる組織の在り方を追求しなくてはならず、そのために必要なことが鴛海さんがおっしゃられていた「カルチャーマッチというあたらしい採用方法」「本音を言える組織文化作り」「フラットで分かりやすいコミュニケーション」なのではないでしょうか。

ジョブ型雇用の時代だからとスキルマッチ採用偏重になり、ハイスキルかつ地頭の良い人をみんなで獲りあうという「地頭の悪い状況」から抜け出すこともまたDXの重要なテーマだと感じるお話でした。

2回に渡り「日本の人事再構築」というテーマで採用モンスター・CEO鴛海さんにお話いただきました。聞けば聞くほど、いわゆる「採用コンサル」という枠組みではとらえきれな い、本質から逃げない活動をされていることに感銘を受ける内容でした。ますますのご活躍を期待しております。ありがとうございました!!
 

>前回記事「「属人性の排除が「オペレーター人事」を増やし、採用力の低下を招いている。【おっしーさんの日本の人事再構築論 vol.1】


 

 
■ 会社概要 ■
会社名 : 株式会社採用モンスター
代表者 : 代表取締役 :鴛海 敬子
所在地 : 東京都港区南青山1-15-2 越山ビル5F
創業  : 2019年10月15日
URL  : https://recruitmonster.co.jp/
 
■ プロフィール ■
株式会社採用モンスター
代表取締役社長 鴛海 敬子(おしうみ けいこ)
人事歴15年、前職では年間68名のエンジニア採用を実現。一般的な採用単価100~150万円のところ、採用単価39,725円を実現。枠にはまらない採用手法で採用成功に導いた経験からついたあだ名は採用モンスター。その後、2019年7月に退社、独立。独立を宣言した記事は一晩で1万3000PVを超え、60社近い企業から問い合わせが殺到。2019年10月、HRのスキルシェアを推進する、副業人事と人事で困っている企業を繋ぐプラットフォーム事業を行う株式会社採用モンスターズを創業。フジテレビ「プライムニュース」、日テレ「お願いランキング」などメディア出演多数。「モチベーションアワード賞」「GOOD ACTION賞」などHR分野での受賞歴多数。2020年12月初めての著書「予算ゼロでも最高の人材が採れる まちがえない採用」を出版。
 

-インタビュー
-