インタビュー

属人性の排除が「オペレーター人事」を増やし、採用力の低下を招いている。【おっしーさんの日本の人事再構築論 vol.1】 


「いまの人事に足りていないのは”深掘り”。本当に採用したいって思っていたら、もっと深く質問するはずなのですが、出来ない人が多い。オペレーターになっている人事がどんどん増えていますね。」(採用モンスター CEO 鴛海 敬子さん)

採用に苦戦する企業が増えている。特にDXが叫ばれる昨今、エンジニアの採用倍率は18倍以上に跳ね上がり、まさに採用戦国時代に突入しています。そんな最中、救世主のごとく誕生した「株式会社採用モンスター」。エンジニアの平均採用単価が200万円に届こうかという中、採用単価3万9000円という脅威の実績を叩き出した同社に、採用支援オファーが殺到しています。

今回は採用モンスター・CEO鴛海さんに、「日本の人事を再構築する人」として企業の採用活動における傾向・課題についてお伺いしました。浮かび上がってきたポイントは2点、「人事のオペレーター化」と「スキルマッチ採用への偏重」。今回は「人事のオペレーター化」についてお届けします。

【備考】採用モンスターは、エンジニア採用以外も支援している採用のプロフェッショナル集団です。

(REBUILDERS編集部) 
 

 

成り行きで、副業人事のプラットフォームに 【設立の経緯とサービス概要】

 
採用モンスターを設立したのは2019年。実は、成り行きで出来た会社です。

「採用モンスター」というのは、前職ITベンチャー企業のメイプルシステムズで人事をやっていた時、社長のもっちーさんにつけられたあだ名です。市場のエンジニアの採用単価が100万円前後だった中、採用単価3万9725円で採用することに成功していたため、そう呼ばれるようになりました。

そのメイプルシステムズを退職すると決め、フリーでやっていくか、転職するか迷っていた時に「私を必要としてくれる会社さん、いらっしゃったら是非お声がけください―!」とTwitterで呼びかけてみたところ、ありがたいことに60社からオファーをいただきました。
 

大きな話題を呼んだ鴛海さんの退職エントリーツイート⇒note。60社からオファーが殺到した。(note:  https://note.com/recruit_monster/n/na06e2374e4f5 )

 
そのうちの1社に入社しようと思っていたのですが、ある方から「おっしーがその会社入ったら、残り59社助けられないじゃん。だったら、世の中の人事経験者のスキルをシェアするビジネスをはじめたら?」と、思ってもみない助言をいただきました。

たしかに、世の中には私以外にも優秀な人事の方がたくさんいる。でも実は、人事経験者の絶対数は少ない。営業が20名いる会社はあっても、人事が20名いる会社はありません。だいたい1社に2~3名、5名もいれば多いくらいです。その少ない人事経験者のスキルをシェアする仕組みを作ったほうが、多くの企業を助けることができる。その方の助言は理に適っていました。

さらに「副業で案件手伝ってくれる人事いないかつぶやいてみな。」と助言をいただき、つぶやいてみたところ、なんと一晩で50人の人事経験者から立候補いただくことができました。「あとはオファーいただいていた60社とマッチングさせれば事業になるよね」ということで会社を登記した、これが株式会社採用モンスター誕生までの経緯です。
 

2019年10月15日に設立された「株式会社採用モンスター」。従業員0人。副業でも活躍したい人事と企業のマッチングを行っている。

 
事業内容は「副業人事のマッチングプラットフォーム」ですが、もちろん根底には、私と同じような人事を増やしていきたいというマインドがあるため、案件には極力私がPMで入っています。

副業人事登録者は現在600名。企業に所属している人事とフリーランス人事、両方いらっしゃいます。企業でやられていてかつ副業で活動されようとしている方は、温度感が高く成果が出やすい傾向があります。フリーランスの方は稼働工数が取れます。企業の要望に柔軟に対応できることと、対人に強みを持つ私の経験が、採用モンスターの差別化要因です。

また、伝わりやすさから「採用コンサル」と名乗ることはありますが、実際は泥臭く、1つ1つしっかり伴走し成功体験を踏んでもらいながら学んでいってもらうことに重きを置いている点もほかの採用支援サービスにはない私たちの強みです。
 

「アンケート面接」になっている人事

泥臭く伴走しながら学んでもらうことに重きを置いているのは、ノウハウを伝えただけでは解消できない課題があるからです。

多くの企業に共通する課題として「人事のオペレーター化」があります。特に面接が「アンケート面接」になってしまっている。志望度が低いから落とした。フルリモート希望だから落とした。で、終わらせてしまう傾向が全体的に見受けられます。

つまり、面接官が、面接に来られた方を選別するだけの存在になってしまっている。「獲得する人」がいないのです。

少子高齢化が進む中、とくに採用難と言われているエンジニア市場において、アンケート面接で採用獲得を成功させることはできません。

よく経営者から「応募も来てるし、面接もしてるのに、なぜか採用できない」というご相談をいただくのですが、ネックになっているのはたいてい、深掘りができていないアンケート面接が原因です。
 

アンケート面接と獲得する面接の差は「深掘り」

たとえばアンケート面接の場合。求職者がフルリモート希望だったとしたら「弊社は一部リモートでして、週2日は出社になるのですが大丈夫ですか?」と質問し、NOと言われたり歯切れの悪い返事をされたら「採用お見送り」という結論を出して終わらせてしまいがちです。

ですが獲得する面接なら、まず、なぜフルリモート希望なのかを質問します。家庭の事情があるの?コロナで電車通勤とかだるい感じ?など「深掘り」します。すると求職者は「結婚したばかりなのでワークライフバランスを重視したいんです」といった事情を話してくれるようになります。

人と人のコミュニケーションがはじまるのはここからです。「あーめっちゃわかります!二人で住むと掃除しないといけないし料理も作らなきゃだし、早く帰らないとってなりますよね!旦那さんは大体何時ごろ帰宅されるんですか?」と自己開示を混ぜながら、さらに会話を深堀っていきます。

そのような会話を通じてようやく「週に2日、旦那さんと食事する時間があればいい」だけだったということが見えてきたりします。ワークライフバランスも人によって感覚はまったく違うものです。それなら一部リモートでも対応可能だし、週2日はリモートで働けるように会社と交渉してみるといったすり合わせもできるようになります。

このように、心を通わせるコミュニケーションは「深掘り」からはじまります。こちら側の「あなたを採用したい」という気持ちも伝わり、相手も「ちょっと考えてみよう」という気持ちの余裕が出てくるため、本音で話ができるようになるのです。

アンケート面接は、相手を人としてではなくただの要員として見ているので、相手に興味を持っていないことが透けて見えてしまいます。証拠に、アンケート面接をしている人事に「どんな人だった?」と聞くと口ごもってしまうことがよくあります。

この人事のオペレーター化現象は面接に限ったことではありません。スカウトメールの作成、日程調整などあらゆる場面に出ています。すべての要因は「深掘りができていないから」です。
 

「深掘り」を生む「踏み込み力」

「深掘り」はベテランだから出来るというものではありません。人事経験を何年積んでも、ノウハウを勉強しても、出来ない人は出来ない。逆に、経験を積んでいなくても出来る人は出来てしまったりします。

うまくいくケースとして多いのは、経営者が面接するパターン。経営者は面接を「仕事」としてこなしません。自分が面倒を見ていく人を採用するという視点で真剣に選びますし、この人はと思えば情熱をもって口説くため、自然と深掘りが出来てしまう人が多い傾向があります。

また、経営者はもともと相手に「踏み込む力」をお持ちであることが多い。

アンケート面接をしてしまう人事担当者に不足しているのはこの「踏み込む力」です。初対面で根掘り葉掘り聞くのは失礼なのではないか、という遠慮があり踏み込めない人が多いようです。
 

「踏み込み力」はアンケート面接では育たない

アンケート面接を何千回とこなしたところで「踏み込む力」は育ちません。

「踏み込む力」とは、まず相手の心に踏み込む勇気や、相手が不快にならないさじ加減・言葉のチョイス・どう踏み込めば良い深掘りができるかを考えるセンスなど「属人的な総合力」です。鍛錬を重ね身に付けていくしかありません。ビジネス本を数冊読んで身に付くモノではなく、真剣試合を何度も実践しなければ磨かれません。

今日の面接はもうちょっと踏み込んでも良かったな、なんであの話もっと踏み込んで深掘りしなかったんだろう、あそこは踏み込むとこじゃなかったなと、何百回、何千回と振り返る経験を繰り返し、はじめて踏み込む力が付いてくるわけです。

芸人さんと似ているかもしれません。何百、何千と舞台に人前に立ち、お客さんの空気を読んでどこまで踏み込んでいくか探り、適切な間と言葉で笑いを創り上げていくセンスを磨いていくのと同じです。

だから無難なアンケート面接を何度重ねても、相手に踏み込んでいなければなんの学びも得られません。むしろ、アンケート面接の回数を重ねるほど踏み込めなくなると言ってもいいかもしれません。
 

「深掘り」は本来楽しいこと

人事は「人が好きならできる仕事」「日本語が普通に話せればできる仕事」と思われる傾向がありますが、実はそうカンタンではないということです。「深掘るプロ」として、鍛錬が必要な仕事です。

実は私自身も人事1年目の頃、上司から「ぜんぜん深掘りできてないじゃん。そんなんじゃ合否つけられないよ。」と散々言われ続けていました。

上司に「内定出したいの?出したくないの?」と言われてもジャッジが出来ない。「この人はどういう人だったの?この人の価値観って?」と言われてもまったく言語化ができない。面接シートを埋めることは出来ているのに、相手をまったく見ていない自分に気づかされる日々に悶々としていました。

深掘りが出来るようになったのは、ある時、上司が私に対して「なんで人事の仕事をしているの?」と深掘りしてくれたことがきっかけでした。

「おっしーさんってなんで人事の仕事をしているの?」
「人が好きだからです」
「なんで人が好きなの?」
「…なんでだろう…」

しつこく何度も深掘りされていく中で、思い出したのが「父の存在」でした。
 

 
私の父は経営者なのですが、小さいころから教えられてきたことがあります。

「お父さんは、専門性が長けているわけでもなく優秀っていうわけでもない。周りの優秀な人に支えられてここまで来たんだよ。敬子も周りの人を大切にして、優秀な人たちに、この人と付き合いたいなって思ってもらえるような人になりなさい。」

この父の教えが私の原点となっていたのかもしれない。私の中に「仲間を作っていくことの大切さと楽しさ」を育んでいたのかもしれない。だから私は人に会うことが好きなんだ、と気づくことができたんです。

上司の深掘りのおかげで「人が好き」という一言で終わらせていた感情の中に、自分だけのルーツがあったことに気づくことができたわけです。

この時「深掘りされるってうれしいんだな」ということを知ることができ、そこから相手を深掘りすることが楽しくなっていきました。

つまり、私が深掘りができるようになったのは、深ぼることの重要さ・楽しさに気づかせてくれた上司がたまたまいたことが大きく、さらにさかのぼれば父親の存在がありました。

そう振り返るとわたしは幸運だったのかも知れません。彼らのおかげで人事という仕事を「仕事を超えて好きになることができたから」です。

この「深掘りする」楽しさをみんなに伝えていくことこそが、私の使命かもしれないと思っています。
 

「深掘り」は伴走でなければ伝承できない属人スキル

一方、深掘りが出来ない人事が増えている理由は、企業の風潮にも原因があります。

たとえば言葉使い。相手に失礼があってはいけない、敬語じゃなければいけない。コンプライアンスを重視する傾向が強くなるあまり「個人情報に触れてはいけない」と、知らず知らず行動が制限されてしまいがちです。

ですが、堅苦しい敬語で踏み込んで深掘りするのは難しい。普段生活してる時に使う言葉で話さなければ、相手と心を通わすことなんてなかなかできません。「丁寧なカジュアル」ぐらいがいいんです。「ぶっちゃけ、どうですか〜?」と言ってしまっていい。

相手が不快にならない、問題にならない程度のさじ加減を見極めて、言葉を崩していくセンスが必要なんです。「個人情報だから」と踏み込まず、アンケート面接を続けていては何もはじまりません。

だから第三者による伴走が必要なんです。まずは、深掘りができない人事担当者の行動を縛っている制限をほどいてあげなければいけない。実践を重ねながら「もっと言葉を崩しても大丈夫だよ」と背中をやさしく押してあげながら伝え、変えていくしかないんです。
 

コンサルというよりもお稽古、泥臭さを大切にしたい

伴走しながら教えているのは言葉づかいだけでなく、相槌や表情なども含めたすべて。細かいニュアンスを泥臭く伝承しています。

たとえば、面接の様子を動画で見ながら「”なるほど、はいはい” っていう相槌だけだと、相手からすると”この人何を思っているのだろう”と不安になってしまうので、”こういうことなんですねー” ”あーそのご経験はすばらしいですねー” と、感想を添えて確認してあげたほうがいいよね」など、1つ1つフィードバックしていったり。

「踏み込んではいけない」という思い込みをほどいてあげるために、ペアで10分間、お互い好きなことについてどんどん質問させるというグループワークをやらせ、自分が好きなことについてたくさん聞かれる経験をさせたり。「踏み込んでいろいろ聞かれることの楽しさ」を体感してもらうと変わることができます。

ここまで細かく教え育てていくということは、企業ではなかなかできないケースが多いですよね。教えられる人が中にいなかったり、時間がなかったりするので。

そこに採用モンスターの介在価値があると考えています。企業人事のオペレーター化という課題を解消していくには、私が培ってきた経験を丁寧に伝承していくことが必要。だから私がすべてのプロジェクトのPMとして入っているわけです。

正直、このやり方では採用モンスターを拡大させていくことは難しいかもしれません。ただこの属人性のある部分を丁寧に伝えていくことが私のやりたいことでもあります。

採用モンスターの事業内容を説明するとき、便宜上「採用コンサル」と名乗っていますが、実情はコンサルよりもはるかに泥臭い「お稽古」です。でも、効率性に偏重する世の中であるがゆえに失われつつある属人的能力の育成にこそ私たちの価値がある。そこを私たちが放棄してビジネスに走ってしまうことは、本末転倒なことだと考えています。
 

(次回は「日本の人事再構築」におけるもう一つの課題テーマ「カルチャーマッチの重要性」について、引き続きお話をお伺いします。)
 


 
人事のオペレーター化が進み「獲得する力」が低下していることがよくわかるお話でした。

お話をうかがっている中で思い出していたのが「暗黙知のビジネス化」の重要性を提唱する、野中郁次郎さんの著書『野生の経営』です。

暗黙知とは、1人の人間の主観の中で獲得される「言葉にできない」価値。感覚・センスなどもここに含まれますが、イノベーションとはこの暗黙知を他の人と共有し、共感を得ることができたものが1人の人間の主観ではなく普遍的で客観的な「形式知」となって広がっていったものであるということを、著者の中で提唱しています。このビジネスサイクルを「SECIモデル」と呼ぶのですが、実はこのSECIモデルがアジャイル・スクラム開発の原点になっています。

ですが現在、世の中はデータ・客観偏重。経験・主観軽視の流れが進み「属人性の排除」というキーワードが流通しています。これは大きな間違いです。経験・主観により生まれた仮説がまず先にあり(0⇒1)、仮説の結果をデータ・客観で改善していく(1⇒10) というのが正しく、経験・主観・属人性を排除してしまってはなにもはじまらない。

「アンケート面接」はまさに経験・主観を排除した形骸的なノウハウ化。心の通ったコミュニケーションがはじまらず、つまり、面接がはじまっていないという結果を引き起こしています。

さらに、生産性・労働効率が求められる中、十分な暗黙知が育たない現状。生産性を求めるあまり、農薬を使いすぎて土地が痩せ、最終的には作物が育たなくなってしまう現象と同じことが企業の人材育成にも起きているように思えます。

鴛海さんの膨大な面接経験の中で培われた感覚・センスは、まさにいま世の中の人事に枯渇している起点。希少な暗黙知なのではないでしょうか。
 

 
■ 会社概要 ■
会社名 : 株式会社採用モンスター
代表者 : 代表取締役 :鴛海 敬子
所在地 : 東京都港区南青山1-15-2 越山ビル5F
創業  : 2019年10月15日
URL  : https://recruitmonster.co.jp/
 
■ プロフィール ■
株式会社採用モンスター
代表取締役社長 鴛海 敬子(おしうみ けいこ)
人事歴15年、前職では年間68名のエンジニア採用を実現。一般的な採用単価100~150万円のところ、採用単価39,725円を実現。枠にはまらない採用手法で採用成功に導いた経験からついたあだ名は採用モンスター。その後、2019年7月に退社、独立。独立を宣言した記事は一晩で1万3000PVを超え、60社近い企業から問い合わせが殺到。2019年10月、HRのスキルシェアを推進する、副業人事と人事で困っている企業を繋ぐプラットフォーム事業を行う株式会社採用モンスターズを創業。フジテレビ「プライムニュース」、日テレ「お願いランキング」などメディア出演多数。「モチベーションアワード賞」「GOOD ACTION賞」などHR分野での受賞歴多数。2020年12月初めての著書「予算ゼロでも最高の人材が採れる まちがえない採用」を出版。
 

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