DXってなにがメリットなの?
目的がイメージできず頓挫してしまいがちなDXですが、一つ言えるのは「広告が強く、面白くなる」ということです。
海外ではすでに、テレビCMに代表されるマスメディア広告全盛の時代は終わっています。主役はPR活動。デジタルエンタープライズだからこそできる、ダイナミックでユニーク、かつユーザーが企業のファンになるようなPR活動の時代に突入しています。
次元が違うDX時代の広告・PR活動事例をまとめてみました。きっと、DXが「やらなきゃいけないモノ」から「やりたいモノ」に変わるはずです。
DX時代のPRとは?
DX時代の広告といっても、デジタルを使った広告ということではありません。
デジタル時代の人々の価値観に見合った広告、ということです。DXの本意が「デジタル化」ではなく「企業のありかたそのものの変革」にあるように、広告のありかたそのものが変わってきます。
結論からお話すると、CMではなく「企業の実行力」が広告になっていきます。
クチコミや裏情報がすぐに手に入る時代、もう小手先の広告表現は効きません。商品サービスもコモディティ化し、圧倒的な競合優位性を作るのもむずかしくなってきました。
そんな現代、ユーザーが企業に期待しているのは「本当に世の中を変えてくれる存在なのか」です。
政治は、なかなか世の中を変えてくれません。世の中を変えることが出来る可能性を持っているのは企業です。口だけでなく、実行力が高い企業に賛同が集まる時代です。
・市場のニーズ変化や社会問題へのすばやい反応
・思い切りのよい経営判断
・突破力
などを感じさせる企業の実行動こそが、DX時代の広告になります。
DXも「市場変化にすばやく反応できる企業体制をつくる」ことが目的の一つです。従来のような、市場調査を念入りに行い、サービス・商品を開発し、CMを作りこみ一方通行のメッセージを投げかけるというスピード感は、もはやDX時代の広告ではありません。それよりも、市場変化にすばやく反応し実行動を起こす。その実行動がすばらしければ、おもしろければ、広告になります。なぜなら、SNSが普及しているから。人々がどのくらい反応したか・ファン化したかなど、実行動の効果を数字データで確認することができるようになったからです。
実際の事例をもとにお話していきます。
The Female Company:タンポンブック
「ぜいたく品は19%・必需品は7%」というドイツの消費税。なぜかタンポンの税率が19%であることに対し、タンポンをサブスクで提供しているベンチャー企業が動きます。本の中にタンポンを入れることで、本の税率7%でタンポンを販売するという方法で対抗。結果、SNSで共感が共感を呼び、1日で完売したという事例です。
■DXポイント■
テクノロジーが絡んだ事例ではありませんが、企業が社会問題に対し率先して挑む姿勢が、ユーザーの琴線に触れ、SNSで多くの賛同を集めることに成功しています。タンポンブックには、税率に対する抗議文もついていたそうです。結果、政治家たちもシェアするようになった「イチ企業の実行力が世の中を動かした」事例です。
バーガーキング:マクドナルドで注文を
イギリス・フランスのバーガーキングが公式SNSで、マクドナルドでの商品購入を促すツイート。イギリス全土がコロナウィルスの影響により、2度目のロックダウンに投入したタイミングで「こんなお願いをすることになるとは思いませんでした」と、マクドナルドだけでなくケンタッキー・サブウェイ・ドミノピザなど大きな打撃を受けている飲食店をサポートしてほしいという呼びかけを行ったキャンペーンで、結果、他社も同業者を支援する試みが相次ぎました。
■DXポイント■
ロックダウンという社会問題に即反応しています。おそらく、ロックダウンを広告に利用しているという非難の声もあったかと思います。バーガーキングはそういったデメリットを「やらない理由」にせず、すべてをエンタメ化する姿勢を貫くことでバーガーキングファンのエンゲージメント向上を重視する決断をしています。(「バーガーキング マクドナルド煽り」で検索するとほかにもたくさん事例が出てきます。日本では信じられない事例のオンパレードです。)
ナイキ:Dream Cragy
人種差別に抗議して国歌斉唱に参加しなかったプロ フットボーラー コリン・キャパニックを、ナイキがブランド広告に起用。「信念を曲げるな」というナイキのブランディングメッセージの象徴として使ったところ、保守派からの攻撃を受けナイキの株価は一時大暴落。ですがその後、株価はみるみる回復し、最終的に史上最高高値を記録しました。
■DXポイント■
トランプ大統領も激怒したキャパニックの国歌斉唱不参加。SNS上でも賛否両論が分かれるこのネガティブな問題をわざわざ自社の広告で利用するという判断はもはや、合理性を越えています。ですが、トライ&エラーであらたな市場を作っていくということも命題であるDX時代の企業論理とは合致します。結果、ナイキはユーザーとさらに深いところでつながることに成功しました。
オレオ:終末貯蔵庫
2020年11月2日、地球に小惑星が接近するというニュースに反応し、オレオのファンが「小惑星がもし地球に到達しちゃったら、誰がオレオを救ってくれるの?」とツイート。即反応したオレオは、地球終末の日に備え世界中の種子が保管されているノルウェーの”世界種子貯蔵庫”のすぐ近くに、オレオの貯蔵庫を建設し、オレオやレシピを保管するというプロジェクトを決行。結果、1億回以上のインプレッションを獲得した。
■DXポイント■
オレオはユーザーのツイートを常にチェックしており、即反応しています。また、ユーザーの想定をはるかに超える実行力なくして、話題が生まれないことをオレオはよく理解しています。大きな企業でなければできない、予算をかけた全力のジョークをオレオファンは「オマケ」として期待しています。またこのような活動をメディアも大きく報じてくれるため、結果、広告に予算をつぎこむよりも大きな効果が得られることもオレオはよく理解しています。
国境なき記者団:検閲なき図書館
世界中のジャーナリストによる非政府組織「国境なき記者団」の、言論の自由を守るためのプロジェクト。世界にはいまだに、市民が情報に自由にアクセスすることを制限している国が多く存在します。ウェブサイトはブロックされ、国が発行する新聞以外認められず、報道機関は国家の管理下にあり、自分の意見をもたない大人が量産される。ですが、そんな国からでも世界最大級のコンピューターゲーム「マインクラフト」にはアクセスできてしまうことを利用し、マインクラフト上に図書館を作り、検閲がきびしい国の人たちも情報を自由に取得できるようにした取り組みです。
■DXポイント■
国の考え方に異論を唱え、切り込んでいっているとてつもない覚悟を感じる取り組みです。従来であれば、高い広告費を払いTVCMで「世界に言論の自由を」とメッセージを投げかけて終わり。ユーザーが行動を起こすかどうかは神のみぞ知る、という感じでしたが、この取り組みは実際に図書館を作るという解決策を実行し、行動するメリットを提示しています。これだけの実行動をメディアも報じないわけにはいきません。結果、団体の活動を賛同する人が増える流れが生まれています。
新聞社アン・ナハール:あたらしい国家
レバノンの新聞社 アン・ナハールによるプロジェクト。レバノンの女性を軽視する風潮に課題意識を置き、その象徴としてレバノンの国歌の歌詞に男性しか登場していない点に着目。アン・ナハールは、国歌の歌詞に女性を加え新聞一面に印刷し報道。大きな反響を集め、あたらしい国歌は革命の聖歌に。また、内閣の女性の数が400%も増加しました。
■DXポイント■
「女性差別するな」と新聞広告で訴えても、これほどの広がりは見せなかったはずです。国歌を作り変え、勝手に新聞に掲載するという既成事実を作ってしまうことで、放置できない状況を作る・多くの市民の共感を集めてしまう、というやり方がユニークであり、DX的です。つまり、一方通行のメッセージを投げかけるのではなく、双方向コミュニケーションをいかに作るかがDX時代の広告なのだと理解させてくれる事例です。
マスターカード:トゥルー・ネーム
マスターカードが、トランスジェンダー問題に切り込んだプロジェクト。トランスジェンダーの人がカードを使用する際、外見と、カードに書かれている氏名・性別が一致しないことから差別を受けてしまうという悲しい事例が多発。1/3の人がサービス拒否や嫌がらせを受けていました。こうした背景を踏まえ、マスターカードが率先してトランスジェンダーに対し「自分で選んだ名前を使えるカード」を発表。この取り組みは業界標準となり、競合他社も同様の商品を投入するきっかけになりました。
■DXポイント■
意外な切り口から、カード会社が、大きな社会問題に切り込んでいます。従来のマス広告を使って「トランスジェンダー差別をやめよう」と訴えても、マスターカードの本気度・実行力を示すことはできなかったでしょう。また、どの企業よりも早くやることで、業界標準モデルの先駆けになることができた。意思決定のスピードがカギとなった点もDXらしいポイントです。
覚悟なき企業が、消えていく時代に
社会問題に切り込んだモノから大がかりなおふざけモノまで様々でしたが「私たちもやってみたい!」と思える事例が多かったと思います。社会に大きな影響を与える活動ができる、ということが企業に所属する大きな醍醐味になっていくイメージが得られたのではないでしょうか。また、顧客ではなく、ファンを作るんだという目線で仕事することが出来、やりがいも格別なモノになります。
ただし、その根底に必要なのは「企業の覚悟」。なんの覚悟もない、社会問題に対峙する姿勢が感じられないPR活動は、ユーザーの心の琴線に触れません。そのため、なんの影響を及ぼすこともなく終わってしまい、やるだけムダになります。
おそらくこれからDXが進み、強いPR活動が出来る企業と出来ない企業の二分化がはじまり、そのタイミングで脱落する企業が急増するはずです。やはり、デジタル化だけでなく、スピーディーに覚悟をもって経営判断を下していける組織に変革することこそ、DXの本質がなんだなとあらためて感じます。
執筆者
リビルダーズ編集部