DX時事ニュース

旭化成 全社員を巻き込むDX戦略を発表

情報発信元:https://www.asahi-kasei.com/jp/ir/library/business/pdf/221213.pdf
(別サイト「旭化成 IRニュース」を別ウィンドゥを開きます。)

2022年12月13日、旭化成株式会社はDX戦略説明会を実施し、中期経営計画におけるDX戦略を発表しました。

旭化成は2024年に向けて中期経営計画を3か年単位で策定しています。「Be a Trailblazer」というキャッチコピーを設け、挑戦的な投資とキャッシュ創出の2つを基本指針として推し進めます。また経営基盤強化のために、グリーントラストフォーメーション、デジタルフォーメーション、人材のトランスフォーメーション、無形資産の最大活用という4つのテーマを設定しており、DX戦略の重要性が高まっている状況です。

同社はデジタル変革を行うために、2016年から2020年までをデジタル導入期、2022年までをデジタル展開期、2024年までをデジタル創造期、以降をデジタルノーマル期と定めています。現在はデジタル創造期にあたり、DXによる経営革新を実現するフェーズです。このデジタル創造期というフェーズの中で、

・デジタル基盤強化
・経営の高度化
・ビジネス変革

の3つに取り組みます。本発表ではこの「3つの柱」の内容を説明するものとなっています。

【デジタル基盤強化】

デジタル創造期の3つの柱のうちの1つ目として、デジタル基盤強化に取り組むにあたり、3つの重点施策を設けています。

①デジタル人材育成

1つ目の施策として、デジタル人材の育成を掲げています。まず全従業員をデジタル活用ができる人材とすべく、DXオープンバッジを受講させます。社内のeラーニングシステムに学習コンテンツを公開し自己学習を進めます。テストを合格することでオープンバッジ、つまりスキル証明書を付与する制度です。これにより、デジタルリテラシー向上、共通言語の浸透を図ります。またデジタルプロ人材の育成にも注力します。データサイエンティストやマテリアルズ・インフォマティクス人材、つまりプロセス系の製造業の設計にデジタルを活用できる人材を、デジタルノーマル期までに全従業員の10%ほどの人数まで引き上げることで、産業のプロセスにデジタルを活用できる土壌を作ります。

②アジャイルの浸透

事業革新やDX推進のため、デザイン思考を持ちアジャイル開発を実行できるチームを立ち上げます。デザイン思考とは、いわば顧客視点の考え方のことであり、相手にどんな喜びを生むのかを重要視した考え方です。そこにアジャイル開発を組み込むことで、まずやってみてリリースして試して改善していくというスピード感をもった顧客目線でのプロジェクト推進を行います。それらを浸透させるため、ワークショップができる場所をオープンさせるなど、環境提供も行います。

③データ活用促進

グループ全体のデータ資産を、だれでも簡単に探せる、連携できる、活用できる状態を目指します。データマネジメント基盤「DEEP」を稼働させ、グループの各事業や現場、工場から得られたデータを管理します。またそれらのデータを集約しデータ分析に繋げるため、デジタルプラットフォームを活用します。データを活用するため、現場メンバーがプログラミングスキルを習得したり、BIツール教育を行うなど、データを活用する環境と風土、スキルの定着活動を行います。

【経営の高度化】

2つ目の柱として、経営の高度化を掲げています。高度化において重点テーマを複数設定していますが、そのうちの一つがデータに基づく経営です。経営ダッシュボードというプラットフォームを導入し、情報の可視化や多角的な視点における情報分析が行えるものです。またスマートファクトリー化も重点テーマとして挙げており、マニュアルやプロセスデータをデジタルツインによって仮想的に表現をし、現場の最適化、オペレーションの負担軽減を実現させます。

【ビジネス変革】

3つ目の柱としてビジネス変革を掲げており、次の成長を牽引するための10の事業を成長させます。DXの観点で、脱炭素やデジタル化、健康といった社会課題にアプローチする事業を展開することで、営業利益の拡大を目指します。流通における偽装防止プラットフォームをブロックチェーンにより実現した「Akliteia」や、共創エコシステム「BLUE Plastics」などが例に挙げられます。

上記のようなDX戦略を推進する中で、旭化成はDX Vision 2030を掲げ、「すこやかなくらし」と「笑顔のあふれる地球の未来」をデジタルの力で創っていきます。

【執筆者コメント】
今回は旭化成株式会社のDX戦略をピックアップしました。他の企業同様、旭化成においてもDXを進めるため綿密な計画が立てられていますが、DX推進、デジタル活用のための「土台作り」に注力している点に着目します。本発表において、DX推進の土台、環境を提供するための施策の1つのとして、DXオープンバッジがあります。

そもそもオープンバッジとは、可視化された「学習歴」です。昨今リスキリングという言葉が多く飛び交うようになりましたが、学習方法や得たスキルは豊富に種類があるため、どのようなことを学んだかを一般的に名前付けすることが難しい状況です。オープンバッジは世界的な技術標準規格である「IMS Global Learning Consortium」に準拠し、学習歴を可視化するためのデジタル証明・デジタル認証です。旭化成株式会社は一般財団法人であるオープンバッジ・ネットワークの会員であり、国際標準規格のオープンバッジ発行プラットフォームを活用できる状態です。

旭化成のオープンバッジは5つのレベルに分けられており、新人向けから高度専門職認定レベルのものがあります。全従業員には2024年のノーマル期までにレベル3の取得を求めており、目安時間の記載によれば約5時間程度で受講が完了するものになります。

スキルとしては、wordやExcel等を用いて業務効率化の実施ができるレベルですので、そこまで高い技術力が必要なレベルではないと考えます。ただ重要なのは、「全社員の気持ちの一致」です。先日、データ活用のソリューションを持っている企業の担当者と話した際に、ソリューションを導入する際に一番困難な場面を聞いてみました。

「もちろんビジネスモデルや業務内容を分析してどの場面でソリューションを導入するか、どのように業務フローに組み込むか検討する段階も骨が折れるけれど、一番難しいのは実際に社員に使ってもらうこと。」

アナログな現場でデータ活用を行うことが馴染んでいない従業員にとっては、今までと業務フローが変わるのは負担であることは間違いありません。会社全体としてデジタル活用をすると決めても、従業員にその意識が無いと成功しないでしょう。

そのような意味合いにおいて、多くの時間をかける受講スタイルではなく、ただ認定証といったリスキリングの証が手に入るオープンバッジ制度は、社内のデジタルリテラシーを向上させるにあたり一定の効果があると考えられます。

またDXオープンバッジ制度以外にも、現場の従業員に向けてプログラミングやBIツール活用の教育などを行っており、目先ではなく2024年以降に向けての投資が目立つ戦略となっています。2024年以降、旭化成の「デジタルノーマル期」においてどのような変化が起こるか注目です。

執筆者/
リビルダーズ編集部 橋爪 勝万

-DX時事ニュース