DX時事ニュース

NECのAI技術により交通量調査が無人化、今後の普及には住民からの理解が必須

情報発信元:https://www.fnn.jp/articles/-/369562
(※外部サイト「FNNプライムオンライン」を別ウィンドウで開きます)

杉並区はNECと共同で道路灯に設置してあるカメラとAIの技術を組み合わせて「交通量調査(※)」を分析する実証実験を実施した。実施期間は2022年2月14日~4月28日で、5月にその実験結果を発表した。

(※)交通量調査とは・・・道路の交通量や通行量を調査し、道路建設や維持修繕などの管理をするための資料とするために実施するものです。主に国や自治体、道路会社などが専門の調査会社などに発注するケースがほとんどです。みなさんは道路の脇にパイプ椅子に座って何やらカチカチしている人を見たことはないだろうか?その人たちはその調査会社のスタッフです。
【参考ページ】交通量調査とは何をしているのか?

実験は成功し、従来の人手による交通量調査と比較して所要時間の9割削減に成功したということだ。今回使用したNECのAI分析技術によって、人手による計測では難しい「車種」や「速度」、さらに「移動方向」「車線はみ出し」などのデータを常時収集することが可能となった。

NECの担当者からの話によると、撮影した映像はNECの分析エンジンを用いることで、「物体を検知」→「種別を判別」→「動きを追跡」という3ステップで処理を実行している。AIの分析エンジンにはあらかじめ計測する対象となる「人」「車種の種別」を学習させておき、物体を検知した際には学習したものの中からどれに一番近いかを判断している。

種別を判断したらカメラの画角内に対象物が写っている限りは追跡し、画角内に引いた仮想的な線をどう跨いだのかを計測することで、数をカウントしたり進行方向を記録することが可能だ。カメラの映像は暗号化された上でオンラインでクラウドに一時保存され、分析後に自動的に削除される仕組みとなっている。

今回の実証実験は成功に終わったが、杉並区の担当者の表情は暗い。というのも従来の人手による計測と比べると費用対効果が悪く、すぐに普及させるというのは現実的なラインではないということだ。加えて慎重にならないといけないのが、住民から「監視社会への助長」と捉えられかねないということだ。いますぐに人手がAIにとって変わるということはなく、目先の課題は「監視のため」ではなく「解題解決のツールである」ということを住民に周知してことだと杉並区の担当者は語った。

【執筆者コメント】
今回の記事で気になった点は、AIの映像解析技術の進化と「監視社会」との密接な関係についてである。都内であれば電柱の上の方にぶら下げるようにして付いている半球型の監視カメラをよく見るが、あちらこちらにあるのが印象的である。特に繁華街なんかは多く見かける気がする。果たして何台あるのか調べてみた。

▶︎日本は世界から見ても監視カメラが多い
2020年にHIS Markitが実施した調査によると、日本には全国で500万台の監視カメラが設置されているという。なお、世界単位で見ると実に7億7000万台の監視カメラがある。2021年中に10億台に達するとみられている。世界ランキングで見ると日本は5位。
1位:中国 2億台
2位:アメリカ 5000万台
3位:ロシア 1350万台
4位:ドイツ 520万台
5位:日本 500万台
5位:イギリス 500万台

▶︎防犯面では効果テキメン!
監視カメラを設置する効果は確実に出ており、2019年に警察が検挙したうちの10%は監視カメラの映像が決めてとなったし、監視カメラが街に設置され始めた2002年を境に犯罪認知件数(※警察が認知した犯罪の発生件数)は右肩下がりに減少したと警視庁が発表している。さらに窃盗犯を対象にしたアンケートでは20%が「監視カメラがあったら犯行を諦める」と答えており、抑止力も確かに期待できそうだ。

本題の監視されているというプライバシー面の不安についてだが、成田市が2019年に実施したアンケートでは約19%が監視カメラに対して「プライバシー面が気になる」「監視されている気がする」等とネガティブな印象を持っていることがわかっている。またALSOKが2015年に実施したアンケートでは「不快に感じる」と答えたのは15%、「安心感と不快感の両方を感じる」は12%という結果が出ており、監視カメラは文脈次第ではネガティブな要素にフォーカスされてしまうことを忘れてはいけない。
【参考】ALSOKが実施した意識調査

▶︎不快感の理由は?
不快感の理由は何か?というアンケート(※複数回答可)に対してあげられた2大TOPは
1位「監視されている感じがする」61%
2位「防犯カメラの録画データが流出する懸念」43%
となっており、映像そのものがハッキングなどの悪意によりインターネット上で流出し、自身のプライバシーが侵害されるのではないかというデジタル時代ならではの理由があるのもわかってきた。

▶︎さいごに
監視カメラの存在意義は犯罪の抑止力であったり、事故・事件が起きた時の事実確認のためであるが、その反面住民からすると24時間見張られているという捉え方をする人も一定数いることがわかった。今後も監視カメラは増えていくことと予想しているが、日本においてはあくまで「防犯のため・市民の安全確保のため」という文脈を念頭に置き、行き過ぎた監視で市民の不快感を煽っていないかというバランス感覚は忘れていけない。

日本が中国のように信号無視をした歩行者を街中の大型ディスプレイに見せしめのように顔写真付きで掲示するということはしないと思っているが、デジタル技術の発展と共に、プライバシーの問題や責任の所在がどこにあるか等、新たな側面の課題が表面化してきていると感じる記事であった。

執筆者/
リビルダーズ編集部 木城 秀人

-DX時事ニュース