(情報発信元:2022年8月12日 デジタル大臣就任会見より)
8月12日、デジタル大臣に就任した河野太郎氏が会見にて、政府のFAXを使った現場業務をデジタル化する考えが示された。政府のFAX使用状況はこれから河野氏主導で調査されると言うことだが、改めてFAXの歴史と日本と海外におけるFAX利用の実態をまとめます。
1843年にイギリス人が発明したのがFAX
FAXというのは通称で、正式名称は「ファクシミリ」英語ではfacsimileと書く。ファクシミリは1843年イギリス人発明家のアレクサンダー・ベインが発明し、その後各国の発明家の手で改良が加えられ、日本には1924年に上陸した。
みなさまご存じのとおり、FAXは電話回線を経由して、FAX間でデジタル信号のやりとりをすることで、画像データを転送する装置だ。日本ではIT化が遅れた中小企業を中心に、いまだに根強く使用者がいるため電気店ではいまだにFAXが売られているし、Canon や EPSON といった大手企業も法人向けにコピーFAX機を売っている。
まだまだ現役?世帯におけるFAXの利用率は31.3%
2021年に、当時規格改革担当大臣だった河野氏がテレワーク推進のために、FAX業務の撤廃をしようとした際、各省庁から400件もの反対意見が寄せられた。まだまだFAXがなくなると困るよ、という人が多いようだが数値的にはどれくらいなのかを把握するため、総務省の調査データをお借りした。
2021年の調査結果では世帯のFAX利用率は31.3%となっており、前年比では-2.7%という結果となっている。ここ数年の動きをみてみると、基本的には減少傾向があることがわかる。その減少幅については、固定電話の減少度合いと連動しているようにも見える。そもそも家庭でFAXを使うためには固定電話が必要なため、連動する要素しては十分だと思われる。最近は特に、固定電話を持たずに携帯電話やスマートフォンのみしか持たないという若い層が増えてきているので、FAXの使用率が今後上がることはないだろう。FAXを使用しているメイン層は50代以上が占めいていることがデジタル庁の調査でも明らかになっている。
企業おけるFAX利用率は?
残念ながら総務省のデータには2006年のものしかなかったが、企業の保有率は97.8%という高い数値であった。ここ最近のデータはないか調査しましたが、有効なデータは出てきませんでした。しかしどうでしょうか?あなたの周囲でFAXを廃止したという企業はありましたか?ほとんどないんじゃないでしょうか?筆者の周囲でもそんな話は聞きませんし、私の所属する会社もFAXはバリバリ現役で、主に総務や経理の担当者を中心に本日も稼働しています。つまりFAXの利用率は企業においては依然高い水準のままじゃないかというのが筆者の予想です。
日本のFAXを笑っていた米国、実はその米国でもFAXは現役!?
米国のIT・通信分野の調査会社IDCによる調査結果では、世界で稼働しているFAXの台数は2013年時点で4,630万台と判明している。そう、日本だけがデジタル化が遅れて今だにFAXにしがみついているIT後進国と思われてるのかというとそうではなく、実は世界でも全然FAXは現役なのだ。ニューヨークタイムズが過去に報道した記事では、米国がFAXで大量に届く「コロナウイルスの感染報告書」の対応に手を焼いているという事実が明らかになっている。
IDCによるとFAX保有国ランキングは以下の通りだ。
1位 アメリカ 1700万台
2位 日本 1100万台
3位 ドイツ 370万台
4位 フランス 210万台
また、IDCによる2017年に実施されたグローバル企業200社を対象にした調査では、43%の企業でFAXが現役であることが判明している。このように世界においてもFAXはまだまだ使われている機器というのが分かる。
インターネット通信ではなく、あえてFAXを選択する理由は?
FAXの利点を色々と調べていくと、主に以下の項目が巷でよく言われている利点です。
・メールと比較するとセキュリティが高い
・相手に届いたことがわかる
・PCやスマホがなくても送信が簡単にできる
・受信したFAXが紙として残る
・導入コストが安く、特別な機器が不要
以上のように、いまだに企業におけるFAXの利用率は高い現状がわかりました。今後FAXをデジタル化するには、上記の利点を上回る動機付けがない限りは困難な道のりとなりそうだ。
【執筆者コメント】
いかがだったでしょうか?私自身、FAXに馴染みが無さすぎるが故に、今回の調査結果は驚きでした。正直な話、今までFAXによる業務を目の当たりにすると「それメールで良くない?」と心の中で思っていました。
調査を進めるうちにFAXが時代遅れの悪者のように論じられていることが多いのだとわかってきましたが、FAXを使うベネフィットが本当は何なのかを気になり調べていったところ、「導入コストが極めて低い」という利点こそが、いまだにFAXが現役で稼働し続ける理由であるという結論に達しました。
セキュリティとか相手に届くからという利点はさほど重要ではなく、現状の社会構造においてはFAXこそが一番低コストで効率的な選択だった、ということなのです。
米国から笑われてしまった2020年時点における日本のコロナウイルス感染者数の把握におけるFAX利用シーンを例にとると、実はFAXでやりとりされていた「感染者発生届け」のみをWeb化すれば解決!という簡単な話ではない。感染者発生届けを書いているのは誰か?それは医療現場の医師である。その医師らがオンラインシステムにログインしてWeb上で感染者報告を入力させるとなると、デジタルデバイスに不慣れな医師が多いことを考慮すれば「極めて非効率」な選択であり、かえって負担を増やしてしまう。
【参考記事】コロナ急増で医療現場と保健所から悲鳴、日本がIT後進国である実情が浮き彫りに
問題はそれだけではなく、関係者間で共有するシステムは誰が作り、その予算は誰が出すのか?政府・医療機関・保健所、この三者の足並みを揃えてシステムを導入するとなると、いかに規模の大きい話かがわかってくる。デジタル化はすぐには難しい、じゃあどうするか?「FAXならすぐできる」ということになる。
何かの業務をデジタル化する際には、システム開発の予算と時間、現場の学習コスト、関係者をまとめる管理コストと、途方もないコストだらけなのを念頭におかなければならない。なぜ2020年のコロナ禍において、当時FAXが最も効率的な選択であった理由については、奥村貴史氏の記事(参考:現代ビジネス「コロナの届け出「ファックスで保健所に提出」がやめられない理由」)に詳しく解説されているので、ぜひご一読ください。
ここ最近ではデジタルと組み合わせた新しいFAXサービスの存在も見逃せいない。私も利用したことがあるのだが、FAXの機器や電話回線を持たないユーザー向けに、デジタル文書を相手先にFAX送信してくれる代行サービスも存在している。それ以外にも、FAXによるダイレクトメールを決まったリストに一斉に配信することができるサービスなども出てきている。このようなサービスが生まれてきている現状を見るに、FAXはいずれはメールやWebに置き換わっていくことを予感させるが、当面の間はまだまだお世話になるのではないだろうか。
執筆者/
リビルダーズ編集部 木城 秀人