DXナレッジ

ロジカルシンキングと距離を取らないと、DXは見えてこない。

 

「DXはデジタル化ではない。デジタルによってビジネスを変革すること。」と言われても、私たちはピンと来ません。なぜでしょうか。

言い換えると「デジタルがなければできないあたらしいビジネスを模索すること」ということですが、この「あたらしいビジネスを模索する」というのは「前例がないことを模索する」ということでもあります。

つまり「ロジカルシンキングでは模索できない」ということ。ロジカルシンキングは、問題の原因を正しくとらえて解決策を導き出す手法なので、解く問題がないとなにも導き出せません。

DXの目的を描くためには、根本的に思考を変えなければいけません。必要なのは「デザイン思考」と「アート思考」クリエイターが使う思考法なので、クリエイターが経営陣にいない企業は、DXってなにすればいいの?になりがちというわけです。

ここでは「デザイン思考」と「アート思考」について、DX文脈にからめてお話していきます。

 

DXは「デザイン思考」「アート思考」が必要な意味について

 

DXは「試してみて、筋のいいモノに投資を突っ込んでいく」企業体質を作ることでもあります。
そのことはDXレポートにもはっきり記されています。

 

引用:経済産業省 DXレポート2 「対話に向けた検討ポイント集 第2章」
引用:経済産業省 DXレポート2 「対話に向けた検討ポイント集 第3章」

 

つまり、”試してみる施策” を考えられないことには、DXははじまらないということです。

そしてその試してみる施策を考えるのに適しているのは、ロジカルシンキングではない。ロジカルシンキングは、ロジックの連なりで導きだせる答えにしかたどり着けないからです。

原因と結果をこまかく分解し、解決策を合理的に導き出すロジカルシンキングは、分析には適しています。が、取り扱う事象がない事柄には適していない思考法とも言えます。

では”試してみる施策” を、従来通り市場調査をもとにロジカルシンキングで考えるとどうなるか。競合と同じコモディティ施策を考え出してしまうのと、時間がかかってしまうという難点があり、DX向きではありません。

集まったデジタルデータをもとにロジカルシンキングで考えたとしても同じです。市場調査ほど時間はかからないかもしれませんが、データをもとに考えたヒット施策は、競合も考えるコモディティ施策になってしまいがちです。

コモディティ施策を回避し、未知なるニーズにリーチする施策を考えるためには、市場やデータはあくまで参考程度に留め、データの奥の奥に潜む人の感情・感覚をとらえることが必要です。その思考法が「デザイン思考」「アート思考」です。

「デザイン思考」「アート思考」は、主にクリエイターが用いる思考法です。数値などのエビデンスに基づいた思考法ではなく、人の感情・感覚に基づく思考法です。そのためよく「センスの世界」と言われ、ビジネスサイドからは別物あつかいされがちです。

ですが人は「論理」と「感情・感覚」で動くもの。論理だけでなく、人の感情・感覚にも焦点を充てると、イノベーションが起きるアイディアに行きつく可能性が出てきます。

 

ー感情・感覚にも焦点を充て起きたイノベーション事例ー

抗菌防臭靴下の「通勤快速」
もともと「フレッシュライフ」というネーミングでしたが売り上げが低迷。打開策として「通勤快速」に変えたところ、売上が1億円強から13億円に跳ね上がり、2年目には45億円になっています。

名前がそもそも男尊女卑だと話題になっている「お~いお茶」
世界初の缶入り緑茶として「缶入り煎茶」というそのままのネーミングで発売されるも、売上は約6億円と予想をはるかに下回る伸びだったため「お~いお茶」に変更。その年、売上が40億円に跳ね上がっています。

 

どちらも変わったのはネーミングだけです。ですが、結果がこれだけ変わってくる。人の感情・感覚に焦点をあてるクリエイターの思考の重要性がわかる事例です。

DXとはつまり、主にこれまで広告などクリエイティブな世界でだけ使われていたデザイン・アート思考をビジネスの世界にもおろし、人の感情・感覚もとらまえたビジネスをゼロイチでビジネスを創っていく企業に変革していきましょう、ということでもあります。

余談ですが、日本の企業の社長はロジカルシンキングが強い人が多いと聞きます。そのため、ロジカルに説明できないものには投資できない、という考えを正しいと考える傾向があります。それに付随して、失敗したくないという考えも強くなってしまう。この考え方の変革こそ、DX最大の壁かもしれません。

 

デザイン思考とアート思考のちがい

 

どちらも「インサイト」を起点にする思考法です。

どちらも人を観察し、行動の奥に潜む本音=インサイトを見つけ出すことからはじまります。ただし、観察するのが「他人」なのか、「自分」なのかに違いがでてきます。

 

デザイン思考は「他人」のインサイトが起点

デザイン思考は、ユーザーを観察することでインサイトを見つけ、アイディアにつなげていく手法です。Google、Apple、P&Gなどが経営に取り入れていることで、日本でも関心が高まっています。

具体的には、インタビューやヒアリングをしながらユーザーを観察することからはじめます。この時、ユーザーの行動や発した言葉をそのまま信じないことがポイント。

就職面接の時「出世したいです」と言っていたとしても、本心は「面接官が好みのタイプだった」というインサイトが隠れているかもしれません。本音と建て前です。

また、ユーザーが無意識で思っていたこともインサイトです。無意識なので本人は語ることができず、言葉でつかまえることができません。客観的に観察し、推察するしかありません。

こうして推察したインサイトをもとに、そのインサイトを解決する方法を考え、試作を作り、試していくのがデザイン思考の一連の流れです。

デザイン思考事例 / バンクオブアメリカ「キープ・ザ・チェンジ」

米国を代表する金融機関バンク・オブ・アメリカが「新規口座を獲得するためのアイディア」を、デザイン思考で導き出した事例です。

デザインコンサルティング会社IDEO監修の元、広範囲にわたりインタビュー調査などを開始。家族の財布を握る母親たちが、手書きで家計簿をつける際「端数を切り上げている傾向」を発見します。計算がラクになるのと、切り下げではなく切り上げることで管理にバッファーを持たせていたというのがインサイトです。

そこで、バンク・オブ・アメリカのデビットカード (支払いしたタイミングで即時引き落としされるカード) を持つ人は、端数を切り上げた差分が自動的に貯金されていくという新サービスを開発。(140円のモノを買うと、140円が支払いに回り、これまで切り上げていた60円が自動的に貯金に回る)

1000万人以上の新規顧客を獲得し、総預金額が20億ドルに達する結果を叩き出す施策になりました。

 

アート思考は「自分」のインサイトが起点

アート思考は、自分の頭の中を観察することでインサイトを見つけ、アイディアにつなげていく手法です。SONYのウォークマンは、井深社長が個人的にほしいモノを作らせたプロダクトでノン・リサーチです。プロダクトアウトとも言われます。Gmailも、ポストイットもアート思考・プロダクトアウトです。

アート思考は自分が持つ自由なアイディアを起点とするため、ゼロベースであたらしいサービスや製品を生み出すことに向いています。対するデザイン思考はユーザーニーズが起点になるため、すでにあるサービスや製品を進化させることに向いています。バンク・オブ・アメリカも、すでにあるデビットカードを進化させた話でした。

アート思考事例 / パンプシェイド

少し変わり種な事例ですが、本物のパンの中身をくりぬいて”照明”にしてしまった商品が非常に話題になりました。特にフランスで爆発的に売れているそうです。( こちらご参照ください。欲しくなります。 https://yukikomorita.com/story/#dslbshr )

作家のYUKIKO MORITAさんは京都市立芸術大学版画科の卒業生。学生時代、パン屋でアルバイトをしていた際、売れ残って捨てられていくパンを見るのが耐え切れなかったという現体験からパンプシェイドのアイディアに行きつきます。

両手に抱えて持ち帰っては自分で食べたり、花を生けるように部屋に飾ったり、友人に配ったりとささやかな抵抗を試みる毎日。そんなある日の夕暮れ、白い中身をくり抜いて食べていたパンに、西日の透過光が当たって、翳り始めた部屋の中で美しく光っているのを見ました。言葉も忘れて見とれてしまうほどの瞬間でした。それは「パンプシェード」という作品のルーツであり、表現者として自分が何をやっていきたいのかが定まった原点でもありました。

YUKIKO MORITA ホームページ「私を惹きつけてやまない「パン」を追いかけて」より抜粋

完全にMORITAさんの感覚だけが気づけた価値です。市場調査で「パンを照明にしてほしい」という欲求があぶりだされることはほぼないでしょう。

廃棄パンを高値で買い取るというビジネスサイクルも今の時代に即しています。完璧なアイディアですが、これがビジネスになることをMORITAさんはおそらく予測できていなかったはずです。ウケるかどうかは市場に出してみないと試算できないアイディアだからです。

 

まとめ「どちらを選択するかは自由ですが

「試してみて、筋のいいモノに投資を突っ込んでいく」DXは、ロジカルシンキングでは何をすべきか見えてきません。デザイン思考・アート思考でようやく見えてくるんだ、というお話、ある程度ご納得いただけたのではないでしょうか。

デザイン思考もアート思考もイノベーションにつながるアイディアの創出法です。どちらもDXとの相性はいいと思いますが、アート思考が「あれはセンスの世界だから」と阻害されず、ビジネスの主役のひとつとして扱われるようになると、ビジネスがもっと豊かで面白くなるのではないでしょうか。

NetFlixも実はアート思考です。創業者のヘイスティングスがアポロ31のDVDをレンタルし、返却が遅れ延滞料40ドル払わされた時にネットで配信するアイディアが降ってきたといいます。この話はのちに作り話だったと本人が言っていますが、市場調査からあぶりだしたアイディアではないことは確かです。

ジョブズも「インタビューなんかやってもムダ。彼らは自分が欲しいモノを知らないのだから。」という名言を残しています。DX時代はぜひ、驚き連発のサービス・製品が日々生まれる時代になったらうれしいですね。

 

参照:

YUKIKO MORITA ホームページ https://yukikomorita.com/story/#dslbshr

「なぜ、DXは失敗するのか?」東洋経済新報社 トニー・サルダナ著

 

執筆者
リビルダーズ編集部

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