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AIグラドル「さつきあい」写真集の販売終了から見る生成AI商業化への課題(①権利問題について)

情報発信元:https://abema.tv/video/title/89-71
(別サイト「ABEMAヒルズ」を別タブで開きます。)
(※2023/07/21追記 番組の配信期限が切れたため、番組TOPページにURLを変更。)

画像生成AIから生まれたAIグラドル「さつきあい」が集英社「週刊プレイボーイ」にてデビューを果たしてから約一週間後の6月7日、デジタル写真集”生まれたて。”が販売終了となった。

2023年6月7日
さつきあいデジタル写真集 『生まれたて。』 販売終了のお知らせ

「週刊プレイボーイ」24号(5月29日発売)に掲載いたしました特集記事「AIグラビア大研究」における「さつきあいグラビア」およびデジタル写真集『生まれたて。』は、グラビアにおける生成AIの可能性を探るため、企画したものです。
本企画について発売後よりたくさんのご意見を頂戴し、編集部内で改めて検証をいたしました。その結果、制作過程において、編集部で生成AIをとりまく様々な論点・問題点についての検討が十分ではなく、AI生成物の商品化については、世の中の議論の深まりを見据えつつ、より慎重に考えるべきであったと判断するにいたりました。

つきましては、さつきあいデジタル写真集『生まれたて。』の販売を終了させていただきます(「週プレ グラジャパ!」は6月7日AM11:00をもって、他電子書店は6月7日以降順次)。

何卒ご理解賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

令和5年6月7日
週刊プレイボーイ編集部


さつきあいデジタル写真集 『生まれたて。』 販売終了のお知らせ - 週プレ グラジャパ! -GRAVURE JAPAN!-


写真集発売直後より、この挑戦的な取り組みに応援する声がある一方で、SNS等では「AI生成に使用された元画像の著作権」や「これまでお世話になってきた生身のアイドルやカメラマン等の仕事を奪うのでは」等を危惧する声が多く寄せられており、これらの意見を出版社側が受け止めた結果、写真集を販売終了することとなった。

AIグラビアアイドルは、撮影シーンも自由自在であることやタレントやカメラマンといった人件費も不要となるため、低コストで人気アイドルをを生み出すことが出来る大きな可能性を秘めているものの、大手出版社による商業化に向けては解決しなくてはならない大きな壁が多く待ち受けている。


現在の生成AIを取り巻く論点や問題点としてABEMAヒルズでは、大きく3点を取り上げている。

①権利問題
AI生成時に学習させる画像の著作権への配慮がされているか。

②倫理的課題
生成されたAI画像が特定の人物に似てきた場合に、その人物の人格権(肖像権)を侵害しないのか。

③消費者心理
生身のグラドルでは表現出来ない、より過激な画像を生成することも可能となり、既存のグラビアアイドル市場を侵食し自社競合となる恐れがある。

これらの論点や問題点については法整備が追いついておらず、AIが生成される過程がブラックボックス化していることもあり、現時点ではグレーゾーンとなっている状況だ。

【執筆者コメント】
近年の画像生成AIの進歩は目覚ましいものを感じます。
今回取り上げたAIグラドルについても生身の人間と見分けがつかない高度な生成画像に非常に驚きました。
一方で「現在の生成AIを取り巻く論点や問題点」については、技術の進歩に追いついておらず、まだまだ議論が深まっていない印象を受けました。

本記事では上記3つの論点について、ひとつずつ深掘りしていきたいと思います。
今回は、①権利問題 について取り上げます。
(※②倫理的課題に関する記事はこちらから:https://rebuilders.jp/ai-guradoru-02/

つい先日のことですが、5月30日に文化庁と内閣府より以下の資料が公開されました。
文化庁・内閣府「AIと著作権の関係等について」
(「文化庁・内閣府PDF資料」を別タブで開きます。)

この資料では、AIと著作権の関係について現状をまとめており、
「AI開発・学習段階」と「生成・利用段階」では、著作権法の適用条文が異なり、分けて考えることが必要としています。

*AI開発・学習段階:
原則として著作権者の許諾なく利用することが可能。

*生成・利用段階:
通常の 著作権侵害と同様となり、既存の画像等(著作物)との類似性 (※)(創作的表現が同一又は類似であること)や依拠性(既存の著作物をもとに創作したこと)が認められれば、著作権者に対する著作権侵害となる。

(※)類似性:著作権侵害の証拠になる創作物の類似性には、表現上の本質的な特徴を直接感得することが一つの条件になります。
逆に言えば、ありふれた表現方法は著作権侵害の対象になりません。
引用元:著作権侵害となる5つの要件|著作権法に違反する基準とは?|ベンナビIT(旧IT弁護士ナビ)

今回の「さつきあい」写真集については、「生成・利用段階」に該当するため、既存の画像等(著作物)との類似性(創作的表現が同一又は類似であること)や依拠性(既存の著作物をもとに創作したこと)が認められれば、著作権者に対する著作権侵害となると考えられます。

元画像を学習させてAI画像を生成する以上、どうしても既存の創作物に類似性のある生成物が出てきてしまうように思われます。
実際に「さつきあい」についても、「実在の人物に似ている」といった意見が寄せられていました。

また、生成されたAI画像自体の著作権については、現行法では「現行制度上、人工知能が自律的に生成した生成物(AI 創作物)は、思想又は感情を表現したものではないため著作物に該当せず、著作権も発生しないと考えられる。」とされています。
引用元:首相官邸ホームページ「AIによって生み出される創作物の取扱い」
(「首相官邸ホームページ」を別タブで開きます。)


ちなみに、AI分野の研究・開発をリードしているアメリカでも著作権にまつわる同様の議論がなされており、本年3月にアメリカ著作権局が表明を発表しています。
引用元:アメリカ著作権局 所信表明
(「Federal Register :: Copyright Registration Guidance: Works Containing Material Generated by Artificial Intelligence」を別タブで開きます。)

かなり長文の内容なので、ざっくりと一部について要約してみました。

AIによる生成物の著作権は認められない。
・ただし、AI生成物を素材として、人間が十分に独創的な方法で選択、もしくは配置し、
「結果として得られる作品全体がオリジナルの著作物を構成する」場合には、著作権が認められる可能性がある。

日本の考え方とも類似した内容となっており、議論の軸となっていくのではないかと思われます。もしこの考え方が主流となった場合、人の手を加えていないAI生成物については、完全な自由利用が可能となる可能性があります。
つまり価値のあるAI創作物が生成されても保護されず、 他人が勝手に利用することを許すことになってしまいますが、現状、人の手が加わっているかの判断は曖昧なようです。

以上、権利問題について深掘りしてみました。

これからAI画像を商業利用していく上では、生成したAI画像が他者の権利を侵害していないかを考慮することももちろん必要ですが、一方で生成したAI画像の権利保護についても議論を深めることが必要になりそうです。

↓本記事の続編「②倫理的課題」については以下よりご覧ください。

AI生成物の責任者は誰か?

執筆者/
リビルダーズ編集部 丹治 秀人

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