DXナレッジ

「DXとはなにか」を正しく理解できる、DXレポート2を解説。

結局、DXとはなんなのか。いろいろ情報を読み聞きしてきましたが、もっとも正確に、すべて網羅されているのが経済産業省発行の「DXレポート」です。まさに、DXの教科書。

しかし、2018年9月に公表された「DXレポート1(ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開)」では、カバーする範囲が広すぎるがゆえなのか企業側の正しい理解・実行につながらなかったことがのちに発覚。2020年10月時点の調査により「9割以上の企業がDXにまったく取り組めてない or ほぼ取り組めてない」ということが明らかになりました。

この状況を受け、2020年12月28日に再び公表されたのが「DXレポート2」です。より「DXを理解させるぞ」という気迫に満ち溢れた、細部まで説明が行き届いた内容になっていました。本記事執筆時点では「DXレポート2.1」も公表されていますが、DXとは何か?という問いに対する答えの基礎はすべて「DXレポート2」に集約されています。

DX成功は、DX推進担当者以外の方々の理解無くしては成し得ません。DX推進の第一歩はまず、全員がこちらを一読することからはじめた方が迷子にならずに済むと思います。わかりやすい言葉で書かれており、時折出てくる専門用語も何個か検索して調べている内にするする読めるようになり、意外におもしろいですよ。

DXに対する誤解を産んでしまったDXレポート1

まずはDXレポート2、冒頭部分のメッセージから。

先般のDXレポートによるメッセージは正しく伝わっておらず、「DX=レガシーシステム刷新」、あるいは、現時点で競争優位性が確保できていればこれ以上のDXは不要である、等の本質ではない解釈が是となっていたとも言える。

引用:DXレポート2 | 経済産業省

たしかに「DXレポート1」では、レガシーシステムの代表である基幹システムをこのまま放置すると将来致命的な負債になってしまいますよ、という話をメインで伝えています。「DX=基幹システムを刷新する話」と理解されてしまう可能性はある内容ではありました。

「DXとは、デジタル化ではない」「DXとは、企業文化の刷新だ」と断片的なワードが出回っています。それぞれ言わんとしていることはわかるものの、結局なぜDXが必要なのだろう?が明確につかめなければ「DXという概念については知っているんだけど、わかってない状態」に陥ってしまいます。

結局なぜDXが必要なのか、その答えがDXレポート2「2 DXの現状認識とコロナ禍で表出したこと」以降に書かれています。

DXとは「即変化し続けられる企業になること」

「2 DXの現状認識とコロナ禍で表出したこと」の中の「2.2 コロナ禍で明らかになったDXの本質」という章で、コロナ以降、人々のデジタルの世界への移行が進んでいる状況について書かれています。テレワーク導入企業が6割を超え、コロナ終息後もテレワークを継続したいと考えている国内雇用者が約60%おり、ECの売れ行きも過去最高を更新。

引用:DXレポート2「コロナ禍を契機にしたテレワーク導入率の大幅増加」
(出典:東京都テレワーク「導入率」緊急調査結果 (2020年5月) | 経済産業省)

コロナによってデジタルサービスに順応した人々はもうコロナ以前には戻れない状態にあると、極論めいたことまで書かれています。実際、紳士服のAOKIはすでにECサイトが主戦場となっており、実店舗はすでに商品を置く倉庫・撮影場所 兼 フィッティングルームになっているという話を聞いたことがあります。

また、2021年クリスマスイブの新宿、コロナが落ち着いているタイミングであったにも関わらずお店はどこもガラガラだったことを思い出しました。バーの店長いわく、ホームパーティー派が急増し予約キャンセルが続いたとのこと。本当にオフラインの世界から人々がいなくなりはじめているのかもしれません。

人々がデジタルの世界に移行しているということは、デジタルの世界で勝負できる企業体に変化していかないといけないということです。デジタルの世界で勝負できる企業体とは何か。レポートには、

DX の本質とは、単にレガシーなシステムを刷新する、高度化するといったこと にとどまるのではなく、事業環境の変化へ迅速に適応する能力を身につけると同時に、その 12 中で企業文化(固定観念)を変革(レガシー企業文化からの脱却)することである

引用:DXレポート2 | 経済産業省

と記載がありました。とくに「事業環境の変化へ迅速に適応する能力を身につける」という部分がポイント。

デジタルの世界は、オフラインの世界よりも簡単・スピーディーにサービスを立ち上げることができます。つまり、競合が次々産まれる、戦況が刻一刻と変化していく時代になっていくということ。勝ち続けるためにはデジタル世界の人々の行動変化に即反応し、新サービスを即立ち上げ続ける力が必要です。これまでのビジネスのように、企画から立ち上げまで入念な準備を重ね、数年かけてようやく新サービスを立ち上げるというスピード感ではもう太刀打ち出来ないでしょう。

くだけた言い方でまとめると、DXとは「デジタル活用力を標準化し、コロコロ変わることができる企業体に変革せよ」ということ。余談ですが、DXによって戦略・戦術をコロコロ変えていくことが前提となっていくからこそ、企業は目的を見失いがちになりやすい。だから「ミッション・ビジョン」が重要視されるようになったのではないかとも感じました。

また「DXはなぜ経営者のコミットが重要視されるのか」、その理由が明確になった点もよかったです。IT部門と事業部門が対等な立場で議論できる状態にしなければいけないから、というのがよく言われている理由ですが、私がしっくり来たのは「不要な業務プロセス・ITシステムの廃止・破棄が必要になるから」という記述でした。

デジタル世界上に次々と新サービスを立ち上げるということは、セットで、成果がでなかったサービスは次々破棄するということも含まれるということです。それはつまり、破棄するサービス・システムに関わっていた人たちのリストラも辞さない姿勢が必要になるということ。その舵取りをする覚悟が経営者になければ、DXはただのデジタル化止まりで終わってしまう。事業部門からの突き上げで退陣に追いやられてしまう大手の経営者は、特に大変そうですね…セブン&アイホールディングスの「DX敗戦」という記事も話題になっておりましたが、まさにこのあたりのお話でした。

それでもまだまだ、崖が見えない私たち

DXの全容が理解できるDXレポート2ですが、それでも、本当に危機感を感じているのは国と、一部大手企業だけなのではないかとも感じました。私たちが「2025年の崖」の存在に気づき、慌てはじめるのはまだまだ先なのかもしれません。レポートの締めくくりにも、

誰しも、一般論としてメタボリックシンドロームの状態よりも痩せていたほうが良いことは理解している上、生活習慣病のリスクについても理解しているが、自分自身は健康だと信じている。

引用:DXレポート2 | 経済産業省

と、危機感が醸成し切れていない現状への憂いを感じさせる記述がありました。やせたほうがいいのはわかっているのに、現状特に問題がないウチはやせようとしない…腑に落ちる言い回しでした。このような、国のレポートとは思えないウィットに富んだ表現が随所に見られる点もDXレポート2の面白いポイントです。

たしかに、危機感を醸成する話として「デジタルディスラプターによって既存ビジネスがあっという間に浸食されてしまう」という話はよく聞きますし、理解はできるのですが、その代表例としてAmazonやUberの例を持ち出されてもスケールが大きすぎて遠い世界の話のように聞こえてしまいがち。まさに、私にとっては現状の問題を感じづらい話でした。

ですが、レポート内で語られていた「中小企業のほうがDXを推進しやすい、つまり、中小企業に」という話は納得でした。むしろこちらの話をしたほうが大手DX推進担当者の方には響くのではないかと感じました。

中小企業は企業規模の小ささ ゆえに、経営者のビジョンを全社に浸透させやすく、かつ、DX の障壁となる大規模なレガシーシステムを抱えていないケースも多い。このため、一旦経営者がビジネス変革の方針を定めると一気呵成に DX を推進できる可能性もある。

引用:DXレポート2 | 経済産業省

たしかに、ITエンジニアは、経験を積めば積むほど大手ではなく中小ベンチャーに転職したがる傾向はあります。大手のIT人材不足が加速すれば、大手が中小企業に逆転されることも普通に起こり得そうです。実際、海外ではD2Cと呼ばれる、マスの広告媒体を使わず、SNSなどを通じた情報発信を自ら精力的に行う中小メーカーが、業界最大手のシェアを数年で上回ってしまう事例が頻発しているようです。

まとめ

人は、それぞれ「ピンとくる」ポイントが違います。2025年の崖に多くの人がなるべく早く気づくためには、まず一人一人がDXレポート2を読み、自分がピンと来る情報を見つけることが重要なのではないかと感じました。そのピンと来た情報をさらに深ぼって調べてみたり、人に話してみたりすることで、理解が全体に広がっていくのではないでしょうか。

情報量は非常に多いですが、わかりやすい言葉でDXの全容がまとめられているレポートです。まだ読まれてない方は、ぜひ一読されることをおすすめします。

参考
経済産業省「デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会の中間報告書『DXレポート2(中間取りまとめ)』を取りまとめました」

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執筆者
リビルダーズ編集部

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