インタビュー

ロジック上司に立ち向かっていってもダメ。イノベーションのカギは「運」にあり。【『1人イノベ』竹林さんの日本のイノベーション体質再構築論 vol.2】


「イノベーションを起こした人はみんな「運が良かった」って言うんです。じゃ、運ってなんなのかと言う話になりまして。調べてみたら、運の正体はすでにある程度科学的に証明されてたんです。」(『たった1人からはじめるイノベーション入門』 著者竹林 一さん)

前回「イノベーションとは軸を変えることである」というお話を、『たった1人からはじめるイノベーション入門』の著者・竹林一さんにお伺いしました。(前回記事『日本企業は「〇〇」を変えられない。だからイノベーションが起きない。【『1人イノベ』竹林さんの日本のイノベーション体質再構築論 vol.1】』)

今回はさらに突っ込んで「ロジック上司を説き伏せる方法」についてお伺いしたところ「説き伏せるのはムリ」と意外な回答をいただきました。さらにそこから「運」の重要性について、というまったく予想していなかったテーマに発展。

スピリチュアルなお話かと思いきや、非常にロジックの立った興味深いお話をお伺いすることが出来ました。ロジック上司との戦いに苦しむ、未来のイノベーターの卵たち必見の内容です!
 
(REBUILDERS編集部) 
 

 

ロジック上司は立ち向かってもダメ

 
― 竹林さんの著書『1人イノベ』に、竹林さんがかつてロジックタイプの上司に苦しんでいたというお話がありとても意外でした。今一度、そのあたり詳しく伺いたいです。

 
(竹林さん) 前回お話した、自動改札の時の上司とは別の上司ですね。

その上司は左脳タイプで、僕は右脳タイプで正反対だったんです。僕の感覚では、進むべき方向はこっちだというイメージがあるんですが、論理的に説明ができない。だから上司に論理的にやりこめられてしまつて、毎日ぶつかりあっていました。

だんだんストレスが溜まっていき、お寺に座禅を組みにいったり、病院にいったりもしたんですが、なんにもならず。話せば分かり合えると言いますが、合わないものは解消しないこともあるんだとその時悟りました。

そんな悶々としていた時期に通っていた近所のパチンコ店でたまたま仲良くなった「おっちゃん」がいたのですが、その方が偶然オムロンの偉い人であることが後で発覚し、パチンコの縁がきっかけとなって「おっちゃんの部門」に引っ張ってもらえたというお話です。

その後僕が手掛けた巨大プロジェクトを反発していたロジック上司がものすごく応援してくれて大成功したんです。人生分からんもんやと思うんですが、仕事上、右脳派と左脳派はどうしても折り合い付けるのが難しいですが、直接の利害関係がないとお互いが認め合えるのかとその時気づきました。
 

引用:『たった1人からはじめるイノベーション入門』 著者:竹林一  出版:日本実業出版社 / 起承転結の図 (一部手を加えて)

 
日本企業の多くは、転結・ロジックタイプの上司が多いです。論理的にリスクを徹底的に排除し、QCDをきっちり守ってきた人が上がっていきます。

起承の人が上がっていく場合があるとしたら、広告代理店や創業したての会社です。

「起承」と「転結」は考え方も役割も全然違います。「転結」に立ち向かってなんとかする、という考え方はなかなか難しいと思います。

じゃあどうするねんという話なんですが、そこで出てくるのが「運」なんです。
 

「運」はすでに証明されている

 
― 「運」ですか。その前にすこし意地悪な質問ですが、パチンコ屋で会った「おっちゃん」は、竹林さんが苦しんでいるのを知っていて先回りしてパチンコ屋にいたということはないのですか?あまりに出来すぎたお話なので。

 
(竹林さん) ぜんぜん、本当に偶然なんです。で、僕もこのあたりのテーマに興味があって、京都大学で「宗教とイノベーション」という授業をやっていたりします。

毎回いろいろな方にゲストで来てもらうんですが、イノベーションを起こした人、たとえばKDDIの前身・第二電電を作った方などの話を聞くと、みんな口を揃えて「わたしは運がよかったわ」って言うんです。

そこから「運ってなに?」という話になり、「運っていうのは人が運んでくるモノ」なんじゃないかという結論になった。

ウチの会社に来ないか、とか、重要な情報が得られるだとか、運というのは大体、人が媒介になって運ばれてくる

では、運ってどうやったら良くなるのやろう、っていうのを調べたところ、すでにある程度科学的に解明されていることが分かったんです。
 

 

 ① 運がいい人は人脈の「面積」が広い【認知的焦点化理論】

京都大学の藤井聡教授は、「認知的焦点化理論」で「運」は科学的に説明できると言っておられます。テレビにも出てらっしゃる方です。

藤井教授の理論は、その人の思考によって運がいいか、悪いか変ってくるというものです。運がいい人は、いい人と出会いが増えるのだと思います。

表で説明しますね。
 

 
縦軸が時間、横軸が社会性。

縦軸は、今日が良ければいい ⇒ 五年後まで良ければいい ⇒ 子供の代まで良ければいい、と、その人の時間のスケール感を表します。

横軸は、自分が良ければいい ⇒ 家族までが良ければいい ⇒ 会社まで良ければいい、と、その人の社会性のスケール感を表します。

運が良い人は、縦軸・横軸が長く面積が広い人です。出会える人が多くなりますし、運を運んでくれる利他的な人との出会いが増えます。

「今日が良ければいい×自分が良ければいい」の人は、出会える人が少なくなりますし、利他的な人との出会いはほぼありません。お互いを利用しあう人同士の関係性ばかりで、運がめぐってきません。

たしかに、自分は運が良いと言っているイノベーターのみなさんは、自社だけでなく顧客の利益、さらには社会の利益まで考える思考の持ち主です。

松下幸之助さんも運が良い人を雇うと言ってましたが、まさにこの思考の幅のことを言っていたのではないでしょうか。
 

② 知り合いの知り合いが、意思決定の質を決める【データの見えざる手】

日立製作所フェローの矢野和男さんは「データの見えざる手」という著書で、運の測り方について提唱しています。

矢野さんの理論では、運の良さは「知り合いの知り合いの人数で決まる」二次の知り合いが多いほど一次の知り合いに入ってくる情報が増え、一次の知り合いから本人に入ってくる情報が増えるため提案やジャッジの質が上がる。それが運を引き寄せるんだ、という理論です。
 

 
たとえば、単純な案件の見積もりを出す場合、運はあまり関係ないんですが、ややこしい案件の見積もりを出す場合クリエイティブな提案ができる人は運が良い人、つまり、二次の知り合いが多い傾向があったそうです。

僕がパチンコ屋さんで「おっちゃん」に出会ったのも、その当時の上司がおっちゃんと友達だったことが影響しているのかもしれません。

もっと言うと、一次・二次の知り合い同士がつながるとさらに運が良くなります。組み合わせでさらに情報が出てくるからです。
 

 
こういう話がすでにエビデンス付きで証明されているから驚きです。
 

宗教には、運という概念が存在しない。

キリスト教・仏教・神道の宗教家を一堂に会して、運について話してもらったこともあります。

驚くのが、宗教に運という概念はないということ。悪いことはそのまま運命として受け入れることが前提になっているため「運が良い・悪い」という考え方がそもそも存在しないそうです。

それでも一生懸命考えてもらった結果、共通ワードとして浮かび上がったのは3つ。

・すぐやる人
・好奇心がある人
・感謝の気持ちを絶やさない人

すぐやる人というのは、すぐ失敗できるのですぐ修正できるっていう意味です。

まとめると、思考が広い人。また行動派で、好奇心旺盛で、感謝の気持ちを絶やさない。そんな人のところに、人を媒介して運が回ってくるということです。

もう一点重要なのは、さらけ出して発信しているか。自分をさらけ出して発信していなければ、いくら人脈が多くても信用されないため、運も情報も舞い込んでこないでしょう。
  

「運」が回ってくるミッション経営

 
― 「運」のお話をお伺いして、改めて、ミッション経営の重要性を感じました。世の中への貢献を掲げるミッション企業で働くことで、自然と思考の幅が広がり、人脈が広がり、運が舞い込みイノベーションにつながっていくのではないでしょうか。

 
(竹林さん) そうですね。ミッション経営、流行ってますね。裏を返すと、みなさんよほどミッションがなかったんでしょう。

僕が所属しているオムロンは、1933年にはすでに社会的課題の解決をミッションに掲げていました。売上を上げることは目的にならない、利益は空気と一緒、空気吸うために生きてる人間なんていないと言い切っていました。創業当時から広い思考を持った会社だったんだと思います。
 

 
僕の知り合いに、伐採され使い道がない竹を利用したモノ作りを追求するというミッションを掲げたエシカルバンブー株式会社の田澤恵津子さんという方がいます。田澤さんのミッションに呼応するように縁が縁を呼び、元々竹でモノづくりをしていた工場を次々継承することになり事業がどんどん拡大していきました。田澤さんの思想の広さが運を呼び込んだ結果なのではないでしょうか。
 

 
ネットのおかげで組織外の人とも自在につながれる時代になりました。思考を広げ、出会いを広げることこそ、イノベーションへの近道なのかもしれません。
 


 
なかなかこれまで聞いたことがない「運」を軸にしたイノベーション論でしたが、かなり本質的な内容に感じるお話でした。

思考を広げることで、良い人と巡り合う。運が良くなる。すると、起承タイプの人が活き活き活躍できる場所が見つかる可能性が上がり、イノベーションが起きやすくなる。

また、REBUILDERSでもたびたび提唱させていただいている通り、DXはやはりミッション策定から。経済産業省のDXレポートやDX関連の書籍・情報でミッションの重要性を説いている箇所が少ないことも、DXがデジタル化で止まってしまう要因なのではないでしょうか。

前回・今回と竹林さんにお話をお伺いし、起承の人をそっちのけでデジタル化から進めていっても、幹(コンセプト) が変わらなければ過去の延長線。イノベーションが起きることはないということが明確に理解できました。
 

二回にわたり、竹林さん、ありがとうございました!!
 

>前回記事『日本企業は「〇〇」を変えられない。だからイノベーションが起きない。【『1人イノベ』竹林さんの日本のイノベーション体質再構築論 vol.1】

 

 
■ プロフィール ■
竹林 一(たけばやし はじめ)
京都大学経営管理大学院 客員教授/オムロン株式会社イノベーション推進本部シニアアドバイザー。「機械にできることは機械に任せ、人間はより創造的な分野での活動を楽しむべきである」との理念に感動して立石電機(現オムロン)に入社。以後、新規事業開発として鉄道カードシステム事業やモバイル事業、電子マネー事業等に携わった後、事業構造改革の推進、オムロンソフトウェア代表取締役社長、オムロン直方代表取締役社長、ドコモ・ヘルスケア代表取締役社長を経てオムロン株式会社イノベーション推進本部インキュベーションセンタ長を務めるとともに、京都大学経営管理大学客員教授として「100年続くベンチャーが生まれ育つ都」に向けた研究・実践を推進する。日本プロジェクトマネージメント協会特別賞受賞、同協会PMマイスター。その他、一般社団法人データ社会推進議会理事他、政府経済団体関連各種委員会の諮問委員を務める。著書に『たった1人からはじめるイノベーション入門』、『ここまできた!モバイルマーケティング進化論』(共著:日経BP企画)、『PMO構築事例・実践法』(共著:ソフト・リサーチ・センター)等がある。
 
■ 著書 ■
『たった1人からはじめるイノベーション入門』著者(日本実業出版社 / 2022年1月初版)
なぜ、「イノベーション」はいつもかけ声で終わるのか?専門用語をほぼ使わず、平易な日本語でイノベーションの正体について解き明かした快作です。
 
■ YouTube ■
【オモロい大人のヒストリー】竹林一の「し~ちゃんねる」
竹林さんがインタビュアーとなり、「おひとりさまブームの仕掛け人」「”竹”の会社を起こしがっちりマンデーに出演するまでに至った人」など知られざるすごい人たちのお話を余すところなくお届けしている濃厚なビジネス情報チャンネル。
 

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