インタビュー

セブン銀行は「なぜ」内製化を定着させることができたのか、徹底ヒアリング。


「セブン銀行はお客さま志向が強い企業ですが、それでも多数の課題にぶつかりました。そこで諦めずに粘り強く推進してくことが成否を分けるポイントになると考えています。」(セブン銀行 デジタルバンキング部 調査役 斉藤 大明さん)

前回セブン銀行に「内製によってなくすことができたもの、生み出すことができたもの」についてお話を伺いました。今回は、どのように内製を社内に定着させていったのかについてお聞きしました。

内製化・アジャイル開発導入に取り組むも、なかなか上手くいかない企業が多いなか、セブン銀行はどのように定着させていくことができたのか、前回に引き続き「Myセブン銀行」アプリを担当されているお三方にお話を伺いました。

紙中 加代子 (かみなか かよこ) さん セブン銀行 デジタルバンキング部 副部長
斉藤 大明 (さいとう ひろあき) さん セブン銀行 デジタルバンキング部 調査役
山下 利花 (やました りか) さん セブン銀行 バンキング統括部
※本記事は読みやすさの観点から、斉藤さんを話者として、お三方のお話をまとめています

(REBUILDERS編集部)
 

 

内製化の第一歩は、お客さま志向への転換

 
(デジタルバンキング部 調査役・エンジニア 斉藤さん)
セブン銀行が内製・アジャイル開発導入の検討をはじめたのは2016年からで、目まぐるしく変わる環境変化への対応がテーマでした。

現在、セブン銀行の内製開発はエンジニア30名規模となっています。当初は、エンジニア3名の常駐体制からスタートしましたが、比較すると10倍以上に拡大しています。外製も内製も利用していますが、内製の重要性が年々大きくなってきています。
 

「ネガティブな反応はなかった」

全社的な方針として内製に取組んでいく意思決定はされていましたが、「管理コストの問題から外製の方が良いのでは」という意見もありましたので、粘り強く内製の良さを啓蒙していく必要がありました。

ただ、現場レベルでの調整事項は多々あったものの、ネガティブな反応はなかったと思います。それは現状維持が目的の利己的な人が少なかったからではないでしょうか。

これは、セブン銀行がお客さま 志向を徹底する企業であり、お客さまに寄り添うことが共通の価値観となっていることが大きかったと思います。
 

 
セブン銀行は、小売発の金融機関です。直にお客さまと触れ合うセブン&アイ・ホールディングスの流通小売サービスで育まれたお客さま志向がセブン銀行の軸にもなっています。

DXを実現するための要素として、「お客さま志向への回帰」があると考えています。それは、真摯にお客さまが求めるモノに向き合い、その見返りとして利益を獲得するという流れを徹底する企業体に変わっていくこと。セブン銀行はそれがはじめから出来ていたと思います。

結果的にそういった人が集まっており、「みんな、やるべきことをやっているし、向くべき方向を向いているよね」という状態が作り出せたのではないでしょうか。それが内製に対する「ネガティブな反応」がなかった理由の1つだと考えています。

セブン銀行では、創立20年目の2021年4月にパーパスを策定しました。そこには、「お客さまの「あったらいいな」を超えて、日常の未来を生みだし続ける」と綴られています。
 

本社のある丸の内センタービルディングエントランス部分に大きく掲載されている新パーパス

 
パーパスにより、お客さまの想いに寄り添い、ニーズを先取りして応え続けていくことにフォーカスが定まりました。そのためにも、トライアンドエラーは必要ですし、全体的に理解はあるように感じています。

この話をはじめにしたのは、内製やアジャイル開発を導入する前に、われわれは何をすべきなのか、原点に立ち返ることの重要性をお伝えしたかったからです。DXには技術やトレンドを取り込むことは重要ですが、全員の目線をそろえるところに成否のポイントがあるかもしれません。
 

ポジションを確立するための活動

 
2017年頃より、実際に内製開発の体制づくりがスタートしました。社内にエンジニアがいないので、フリーランスのエンジニアに来てもらい、PoCなど小規模な開発に取組むところからスタートしました。
 

PoCでは内製チームの認知が広がらない

一部では「PoC疲れ」というワードも流行ったようですが 、リリースして継続的にサービスを育てていかなければ、「実験して終わり」で内製の存在意義もアピールできずチームが解体されてしまうという危機感があり、本格的なサービス開発が必要だと考えるようになりました。

そういったなかでセブン銀行のメインアプリである「Myセブン銀行」アプリの開発をタイミングよく担うことができたのが良かったと思います。他部署との関わりが大きいシステムなので、内製チームの認知を広げることにもつながりました。

「Myセブン銀行」アプリを内製で担当することになったのは、UI/UXにこだわるアプリ開発がしたかったからです。部署間の意思疎通やスピーディーな連携をするためには、社内で行った方が効率的なので、結果的には良かったと考えています。
 

地道に内製のメリットを理解してもらう

各部署のシステムに関する相談内容にスピーディーかつ柔軟に対応することや、技術的な知見から疑問や不安を解消することで、社内に開発体制を持っている内製のメリットを実際に理解してもらうことが重要です。

まだ足りていない部分もありますが、直接仕事で関わっている方のなかには「内製に任せるとスムーズに進む」と評価してくれる方もいらっしゃいます。社内で浸透させるためにもエンジニアが率先してコミュニケーションを取り、高い技術的知見で開発をリードする能力が必要です。

特に内製の立上げ期においては、認知度を上げることが重要なので、結果を出せるようにビジネス的な観点からも考えられるハイスキルな人材を確保できるかが分かれ道だと思います。チーム力も大事である一方、「個」の力も求められるので、人材面は難しいポイントです。
 

進めてみてはじめてわかった、内製化の課題

内製やアジャイル開発は、実際にやってみてわかったことが本当に多くありました。
 

内製化のための調整業務の多さ

業務委託のエンジニアも含め長期安定的なチームを維持する必要があるため、案件ベースだけでなく、体制維持のために必要な予算の立て方を行いました。

他にも社内規程は、外製・ウォーターフォールの前提で記載されているため、内製・アジャイル開発と整合させて稟議決裁することや、様々な部署とうまく折衝しながらバランスを考えて開発してくことも必要になります。

また、人が増えるとどうしても間接業務が増えることは避けられないので、社内エンジニアがきちんと開発ができるように業務や役割をコントロールすることが重要かなと思います。
 

斉藤 大明 (さいとう ひろあき) さん セブン銀行 デジタルバンキング部 調査役 エンジニア

 

チームが一気に拡大することへの対応

PoCで小さなトライを繰返しているときはよいものの、「Myセブン銀行」アプリのように顧客影響の大きい開発だと想定以上にタスクが増えてしまう点が大変でした。

小規模から中規模、そして大規模へと段階を経て開発ができれば理想ですが、今回のようにいきなりステップアップしてしまうと、今までやってこなかったことを大量に指摘され、後々の開発がひっ迫してしまった経験があり、そこは改善の余地があったなと反省しています。

ちなみに、開発体制については、今までスクラムを採用してやってきましたが、拡大した際にはLeSSという方法を導入し、3チームで開発を行っています。小さなチームに分割することで、認知負荷が下がることはもちろんですが、Oneチームでプロダクト開発する意識が強く持てるようになりました。

話が逸れてしまいましたが、結局のところ大事なのはスタンスだと思います。今まで内製やアジャイル開発を行ったことがない企業が導入するとなると、多数の部署との調整やガバナンスなど、段々と課題が山積みになっていきます。

ここで「だから無理なんだ」と捉えて終わりにせず、立ち向かっていくことがDXの推進に寄与するのではないかと思います。そのため、高い自発性を持ったチームを運営していくことが内製開発の成否を分けると考えています。

 

(内製化のメリットや推進について2回にわたりお話をお伺いしました。セブン銀行さん、ありがとうございました!)
 


 
日本企業のDX成功率は数パーセントと言われている、その背景がよく見えるお話でした。

まずお客さま志向への回帰、内製への理解がある企業であっても地道な活動が必要であること、やってみてはじめてわかる課題の数々。そして、それらを乗り越える自発性と能力が高いメンバーを揃えることの難易度の高さ。特に採用倍率18倍とも言われるエンジニアの採用で、さらに自発性・能力を求めるとなると一筋縄ではいかない実情が理解できます。

ですが前回のお話も踏まえ、「新しいことに挑戦する意志」が強ければ、おのずとすべての条件が揃ってくるのではないかと感じることもできました。「Myセブン銀行」アプリの内製メンバーは、自分たちが新しい未来を作っていくんだという意志のもとに集まり、日々奮闘しています。生産性向上などを目的としたデジタル化で止まっていれば、このようなメンバーが集まることはなく、DX推進は頓挫していたのではないでしょうか。
 
  

 
■ 会社概要 ■
会社名 : 株式会社セブン銀行 (英名:Seven Bank, Ltd.)
代表者 : 代表取締役会長 :舟竹 泰昭
      代表取締役社長 :松橋 正明
所在地 :東京都千代田区丸の内1-6-1
創業  :2001年4月10日
URL  : https://www.sevenbank.co.jp/
 
■ プロフィール ■
紙中 加代子 (かみなか かよこ)
セブン銀行 デジタルバンキング部 副部長
「Myセブン銀行」アプリをはじめとする金融サービス事業のシステム開発

斉藤 大明 (さいとう ひろあき)
セブン銀行 デジタルバンキング部 調査役
BtoB向けWebサービスのエンジニア、ローコードプラットフォームの推進、内製開発推進
 
山下 利花 (やました りか)
セブン銀行 バンキング統括部
「Myセブン銀行」アプリのプロダクトオーナー
 

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