「個人が時間にも場所にもとらわれずに働ける現代に、正社員として働くことだけが選択肢であるべきではない」(ランサーズエージェンシー 代表取締役 小沼志緒さん)
「ジョブ型雇用への切り替え」はDX推進の重要なテーマです。高度な専門性を持つ個が必要とされている中、重要な存在であるはずのフリーランス。ですが、日本企業は依然「正社員だけが人材である」という考えです。
そんな、フリーランスと日本企業の関係性の変革に邁進しているのがランサーズグループです。実際どのように変革を進めているのか。ランサーズ 執行役員 兼 ランサーズエージェンシー 代表取締役社長・取締役副社長である 小沼志緒さん・石山正之さん に、ランサーズの全体像を踏まえた上で、今後の成長分野でもあるエージェントサービスについてお聞きしました。 (REBUILDERS編集部)
日本企業とフリーランスの関係性を再構築するランサーズ
ランサーズは、フリーランスと企業を結ぶプラットフォーム事業を行う会社です。
マッチング機会の提供のみに留まらず、『誰もが自分らしく才能を発揮し、「誰かのプロ」になれる社会をつくる』というビジョンを掲げ、フリーランスと日本企業の関係性を再構築する活動を行っています。
たとえば、ランサーズがスタートした12月16日を「フリーランスの日」に制定したり、2019年6月には「#採用やめよう プロジェクト」と題して、日本企業のフリーランスに対する理解のズレをまとめ日経新聞全面広告で公開したりなど。フリーランスの社会的イメージの向上を狙った啓蒙活動なども精力的に行っています。
日本企業には未だ「正社員だけが人材である」という考え方が根付いています。そのため、日本企業のフリーランスに対するイメージは、まだまだ「組織に縛られず自由に働きたいだけのスポット要員」「責任ある仕事は任せられない存在」という偏見に縛られています。
ですが実際は「さまざまな企業に貢献したい」「色んなプロジェクトに参画することでスキルアップしたい」「自分の好きなペースで好きな仕事をし続けたい」「育児・介護などの家庭の事情と両立させながらも仕事のやりがいは失いたくない」といった理由からフリーランスの道を選んだ、意欲・能力ともに高い方も多く存在します。
世の中の偏見やマーケット構造の影響によって「もっと活躍したい」「まだまだ活躍したい」と願いフリーランスになった人々が、やりがいのある仕事に就くことができず輝きを失っている。この状況を変革していきたいと考えています。
フリーランス・プラットフォームの課題
高収入でやりがいもある案件を自力で獲得できるフリーランスはごくわずか。フリーランスという働き方を一般化していくためにも重要なプラットフォームですが、課題があります。
①単価が低い
「誰でもできる、低単価な案件」が出回ってしまう傾向があります。これは日本企業のフリーランスに対するイメージの問題以外にも、「そもそもフリーランスへの発注金額の相場観が理解されていない」「マッチング方法の問題」などが影響しています。
②信頼関係を築きづらい
オンラインで直接会う機会なく仕事を進めていくことから、信頼関係を構築しづらい点も問題です。実際、仕事が無事完了しても、その後クライアントからリピートをいただける率は低い状態にありました。
③不安定な収入
案件のほとんどが単発であるため、終わってしまえばまた新しい案件を探さなければならないという状況。正社員のように収入を継続的に得ることができない、不安定な状態が続きます。
④やりがいのある仕事に就けない
特にフリーランスエンジニアの話になりますが、IT業界の多重下請け構造の影響で、下請けの仕事にまわされてしまいがちです。能力・意欲が高くても、上流から仕事に入っていくことができず活躍がむずかしくなってしまう傾向があります。
課題を解決するランサーズグループ全体の取り組み
そこでランサーズは、プラットフォームでマッチング機会を提供するだけでなく、介在価値の発揮に注力することでこれら課題の解決を試みています。
①単価が高い案件を流通させる「オンラインスタッフィング型プラットフォーム」
フリーランスのクラウドマッチングプラットフォームは、マッチングの形式上「誰でもできる低単価な案件」が流通してしまう傾向がありました。
ランサーズでは「オンラインスタッフィング型のプラットフォーム形式」を採用することで、この問題を解決しています。
従来の「クラウドソーシング型のプラットフォーム形式」は (下記図右側)、クライアントが依頼内容を掲載し「提案を募る」仕組みです。たとえばロゴ制作など、依頼内容がシンプルな案件でないと提案が集まらないため、「誰でもできる低単価な案件」がメインになってしまう傾向があります。
「オンラインスタッフィング型のプラットフォーム」は (上記図左側)、「クライアントがスキル・経験のあるフリーランスを指名する形で依頼する」仕組みです。たとえばシステム開発など、依頼内容が高度で複雑なものであっても相談しながら進めていけるため、「その人でなければできない高単価な案件」がメインになります。
実際、オンラインスタッフィング型は、クラウドソーシング型の約4倍単価が高い案件が集まっており、意欲・能力が高いフリーランスの方が集まるプラットフォームになっています。現在、ランサーズの約9割が、オンラインスタッフィング型によるマッチングです。
また、クライアントの発注金額が適正でない場合、プラットフォームに表示しないという取り組みも意志を持って実施しています。
多くのクライアントは、フリーランスへの案件発注の価格相場がわからないため、悪気なく低単価で発注してしまう傾向があります。都度「適正な価格帯はこのぐらいですよ」とお伝えし再検討いただく、ということを地道に繰り返すことで、ランサーズのプラットフォーム上では適正な価格の案件しか流通しない構造を創り出しています。
②信頼関係を構築するアルゴリズム
オンラインで直接会う機会なく仕事を進めるため「信頼関係を構築するアルゴリズム」を意識して取り入れています。
まず取り組んだのは「信頼性の可視化」です。
過去の実績などに基づいた「信頼スコア」が高いフリーランスが上位表示される仕組みを作りました。信頼スコアを上げていかなければ仕事が得られないため、フリーランスはコミュニケーション部分も含め仕事の精度を高めていく努力が必要になります。
また、フリーランスのプロフィール情報は「実名・顔写真つき」での記載を基本としました。従来は「ペンネーム・イラストアイコン」でもOKでしたが、やはり信頼関係を構築する上で実名・顔写真は必須と判断しました。この取り組みは、フリーランスプラットフォームサービス業界の中では珍しく、私たちが先駆けです。
さらに「リピート率を高めるための教育」にも力を入れています。
2021年1月には「Lancers Digital Academy」を開講。さまざまなデジタル分野のトップエキスパートが監修・制作した教材で、最先端のデジタル技術が学べる教育サービスの提供も開始しました。
また、信頼関係を強化するためには、職務スキルの向上以外にも、コミュニケーションの取り方やオンラインで仕事を獲得していくためのノウハウなど、ティップスを積み重ねていくことが必要です。
そのため2020年10月に「MENTA」という、各界のプロフェッショナルがオンラインでティーチング・コーチングしてくれるサービスを買収し、自己成長の機会提供を行っています。
その他、コミュニティ運営も行っています。
年に一度「ランサーオブザイヤー」という表彰イベントを開催しています。一定以上の報酬を得られたフリーランスの方で他のフリーランスの参考になるような活動をされていらっしゃる方を表彰するイベントですが、このような機会を設けることで、フリーランス同士がつながり自然発生的にコミュニティが生まれています。
さらに、地域ごとにコミュニティマネージャーを立て、各フリーランスの方々の近くにコミュニティがある状態を作っています。
一つ一つ地道な活動ですが、指名されリピートされるフリーランスを増やしていくことを重要なことだと捉え「信頼されるフリーランスの増加数」をKPIに置き、考え、取り組み続けています。
以上が「単価が低い問題」「信頼関係を築きづらい問題」に対し、ランサーズグループ全体で取り組んできたことです。
課題を解決するランサーズエージェンシーの取り組み
さらに「収入の不安定問題」「やりがいのある仕事に就けない問題」の解消のため設立されたのがランサーズエージェンシーです。
①収入の安定化を図る「テックエージェント事業」
フリーランスが、正社員のように安定して収入を得続けることができないのは「案件が納品ベースであるがゆえに、単発で仕事が終わってしまうため」です。
この課題を解消すべく設立されたのがテックエージェント事業を行う ランサーズエージェンシー です(下記図一番右)。ランサーズエージェンシー は案件に適したフリーランスをご紹介するサービスです。納品ベースではないため仕事が単発で終わってしまうことがなく、フリーランスは安定的な収入を得ることができます。
「マーケットプレイス事業」「マネージドサービス事業」は、どちらも納品ベースです。(上記図一番左・真ん中)
マーケットプレイス事業は、クライアントとフリーランスの間にランサーズが介在せず、クライアントがフリーランスを直接見つけ、仕事を発注するプラットフォームサービス。
マネージドサービス事業は、クライアントとフリーランスの間にランサーズが入り、適切なフリーランスを選別・管理・ディレクションを行い、開発・納品するサービスです。
両事業とも、発注内容が明確に固まっている場合のみ機能します。
ですが、システム開発など複雑な案件は、発注内容が明確化になっていない場合も往々にしてあります。その時必要になってくるのがテックエージェント事業です。特にDXは、走りながら要件を固めていくアジャイル開発が基本となるため、テックエージェント事業でなければ対応は難しくなります。
②商流を上げ、やりがいのある仕事を提供していく
フリーランスの大多数を占めるエンジニアの場合、やりがいのある、上流から参画できる仕事に就くことが難しいという現状があります。
ランサーズエージェンシーが主戦場の一つとするIT業界は、クライアントファーストかつ多重下請け。フリーランスエンジニアに回ってくる仕事の多くは、下請けのイチ開発要員としての仕事になってしまう傾向があります。
この問題を解消するためにジョインしたのが、ランサーズエージェンシー 取締役副社長 石山 正之です。石山はIT業界で13年間多重下請け構造問題に取り組んで来た実績を持ち、商流を上げることでフリーランスエンジニアが上流から参画できる機会を広げてきた「商流崩し」のプロフェッショナルです。
よく「フリーランスエンジニアは自身のスキル向上にしか興味がなく、クライアントビジネスへの貢献欲求は低いため、上流の仕事は任せられない」という意見を耳にすることがありますが、それはマーケットの構造の問題です。ITエンジニアは売り手市場で仕事が選べる状態なので、利己的になってしまう側面は確かにあるのかも知れません。
ですが、ランサーズのフリーランスエンジニアはクライアントビジネスへの貢献欲求が高いです。ここまでお話した通り、ランサーズのプラットフォームは、フリーランスの信頼スコアが上がっていかないと発注をいただけない仕組みです。信頼いただけるよう、おのずと、クライアントビジネスへの貢献欲求が高いエンジニアが残っていく環境になっています。
実際、教育せずともはじめからクライアントのことを先回りして考え、メール一つとってもコミュニケーションに気を配ることが出来ているフリーランスエンジニアはたくさんいます。おそらく市場にも、みなさんが想像されている以上に貢献欲求が高いエンジニアはいるのではないでしょうか。
いずれにせよやはり、我々のような存在が企業とフリーランスの間で介在価値を発揮し、正常な関係を築いていくことが重要です。実際、私たちの取り組みはしっかりと実を結び、ランサーズのフリーランスは年々給与水準が上がってきており、年収1000万円前後の方も増えてきています。
ランサーズ創業の経緯と、ランサーズエージェンシーのこれから
ランサーズの特徴はミッション実現にまっすぐであること。ミッション実現のために積極的に先行投資してきたことは、ここまでのお話でご理解いただけたと思います。
ランサーズはミッションドリブンの会社
そもそもランサーズは、代表取締役社長である秋好陽介 (あきよし ようすけ) の原体験がベースとなり設立された企業です。
学生の頃、秋好はエンジニアとして、システム開発の仕事を請けて生計を立てていました。おもしろいのは東京の仕事を大阪で、リモートで請けていたこと。発注担当者と直接会ったこともなく、オンラインでのコミュニケーションだけで月数百万円も稼いでいたことです。
つまり秋好は20年以上前に、スキルとネットの力があればどこでも仕事ができるということに気づいていた人間です。
ですが、当時はまだインターネット混迷期。オンラインで仕事の受発注を集約しているプラットフォームは存在していませんでした。
そのプラットフォームを作り、秋好のようにスキルのある個人が自由に、自分らしく生活し続けられるような世界を作ろうと設立されたのがランサーズです。ランサーズという存在はそもそも、ミッションを実現するための箱です。
そんな秋好のミッションに共感し多くの人が集まってきてくれています。石山もその一人です。
ランサーズエージェンシーは第二創業期「フリーランスファーストエージェント」へ
ランサーズエージェンシーは2017年6月に石山がジョインし、そこから少数精鋭で一気に垂直立ち上げをおこない現在の規模まで拡大してきました。
ですが、その反動で、フリーランスはいるのに提案先が不足している状況。競合のエージェンシーは人が不足していますが、私たちはフリーランスが集まるプラットフォームを持っているため、競合とは真逆の状況になっています。
ただ、この状況を、課題というより「第二創業期に入った」という風に捉えています。現在、世の中のDXが進みはじめ、徐々に内製に転換する企業が増えて来ています。提案先は今後増えてくる見込みです。
ランサーズエージェンシー を立ち上げるタイミングが早かった、という視方もできますが、これもまた ランサーズ の先行投資に対する積極性の現れです。
ここからさらに「フリーランスはやりたいことができない」ということが当然化してしまっている世の中に風穴を開けるべく「フリーランスファーストエージェント」として、より高い成長を目指していきます。
次回のインタビューでは「商流崩し」のプロフェッショナル・ランサーズエージェンシー 石山さんの、ランサーズジョインまでの経緯について迫ります。
■ 会社概要 ■
会社名 : ランサーズエージェンシー株式会社
代表者 : 代表取締役社長 :小沼 志緒
取締役 副社長 :石山 正之
取 締 役 :中山 裕美
監 査 役 :曽根 秀晶
所在地 : 東京都渋谷区渋谷 3−10−13 TOKYU REIT 渋谷Rビル9F
創業 : 2014年12月
URL : https://lancers-agency.co.jp/
■ プロフィール ■
小沼 志緒 (こぬま しお)
ランサーズエージェンシー 代表取締役社長・ランサーズ 執行役員
2005年より株式会社日興シティグループ証券 投資銀行本部で、アナリスト/アソシエイトとして主に金融業界の大手クライアントの資本戦略・財務戦略を提案し、案件の実行を支援するプロジェクトに従事。2010年より株式会社リクルート 財務部において、IPOを始めとした資本政策関連のプロジェクトや財務戦略立案、M&Aなどのグローバル展開支援などを担当。2017年11月、当社に参画し、2018年4月より執行役員に就任。2021年4月よりグループのランサーズエージェンシー株式会社の代表取締役社長も務める。
石山 正之 (いしやま まさつな)
ランサーズエージェンシー 取締役副社長・ランサーズ 執行役員
2000年、展示会・内装関連の企画営業としてキャリアをスタート。2005年より株式会社ウェブドゥジャパン(現クルーズ社)に入社し、フリーランスエンジニア事業責任者を務め、同年株式会社ベインキャリージャパン(現ギークス社)に転籍。2010年には後に起業する株式会社A-STARの母体となる株式会社ビーオンビーを創業(後にEXIT)。2012年株式会社A-STARを創業、2017年Jung株式会社を創業、Sgrum株式会社の取締役(非常勤)に就任する。2017年6月より当社に参画し、2018年4月より執行役員に就任。グループのランサーズエージェンシー株式会社の代表取締役社長も務めたのち、2021年4月よりランサーズ本体にて新規事業を担当。2022年4月からはランサーズエージェンシー株式会社の取締役副社長に就任。