インタビュー

日本はまだ「主体的に動ける人」を評価できない。【 人間らしい仕事とはなにか論 vol.2 / アトラエ社・Wevoxエンゲージメント講師 平井さん 】


「たとえば会社の意志に従い積極的に行動している人は、主体的であると評価されます。でもその人は主体的ではなかったりする。実のところ従属的であったりすることに、会社も本人も気づいていないということが往々にしてあるんですね。」(アトラエ社・Wevox エンゲージメント講師 平井 雅史さん)

前回に引き続き、人間らしい仕事とはなにかについて、組織力向上プラットフォーム『Wevox (ウィボックス)』のエンゲージメント講師である平井雅史さんにお話を伺いました。

※『Wevox』求人メディアGreenでおなじみアトラエ社が手掛ける「きづきから変化を起こし続ける組織力向上プラットフォーム」。有名大手をはじめ現在約2600社に導入されている。ご参照:Wevoxプロダクトサイト

前回、人間らしい仕事とはアイディアを考えることであるというお話を伺いました。

今回は、トレンドワードにもなっている「エンゲージメント」と人間らしい仕事との関係性について。私たちがいかにエンゲージメントという言葉が理解できていないか、また、日本人の社会とのつながり方が根本的にズレていることが分かる内容です。

DXを考える上で「人間らしい仕事」は、熟考すべき重大なテーマでした。

(REBUILDERS編集部) 
 

 

主体性」も枯渇している国、日本

 
― アイディアを考えることこそ人間らしい仕事であるというお話、よくわかりました。ほかに、人間らしい仕事を語るうえではずせない要素はありますか?
 

(平井さん) 「主体的」であることですね。主体的であることは、人間らしさを語る上でマストの条件です。

ですが実態として、日本は主体的な人が非常に少ない。

主体的とはなにかを理解していない人が多いのではないでしょうか。

たとえば会社の意志に従い積極的に行動している人は、時に「主体的である」と評価されます。

しかしその人は真の意味での主体的ではなかったりするわけです。単に従属的であることに、会社も本人も気づいていないということが往々にしてあるんですね。
 

主体的とはなにか

本来「主体的」とは、自分の「動機」に従い、自分の意志で「行動」することです。「動機」と「行動」の両方が伴っている状態のことを指します。

たとえ行動があっても、その行動に自分自身の動機・意志がないのなら、それは主体的とは言えません。
 

 
頑張って成果を出そうと行動している人は「主体的」であると思われがちです。しかし、意志や動機がなく、会社の示す方向性にだけ従っている状態は主体的ではなく「従属的」なだけ。

従属的な人は、会社や上司に評価されることが目的なので、上司が望むことを望む通りに遂行します。これは言い換えれば、答えがわかっていることをやっているに過ぎず、学校教育の中で、言われた通りにやる人がテストで高得点を取れる仕組みと同様です。
 

「エンゲージメント」が理解できない国、日本

ちなみに「主体的」を正しく理解できないと「エンゲージメント」も間違ったまま解釈してしまいます。

私は、企業の方々にエンゲージメント向上に必要な知見をお伝えするオンラインアカデミーの講師もしていますが、「エンゲージメント」という概念がなかなか理解されず、困った時期がありました。具体的には、モチベーションやロイヤリティと勘違いされてしまうことが多いです。

これは一体なぜなんだろうと思っていたのですが、そもそもエンゲージメントとは「組織や仕事に対し自発的な貢献意欲を持ち、主体的に取り組めている状態」のこと。エンゲージメントの定義の中に「主体的」という言葉が出てくるんですね。

つまり「主体的」がどういう状態なのかが分からないと、エンゲージメントという言葉も理解が難しいのだろうと感じました。

一方海外では、幼少期から主体性を発揮する教育がなされており、多くの方が主体的であるという概念に日常的に触れていると思われます。
 

「主体的かどうか」は、入社前に決まっている

「主体的」をもっとシンプルに言うと「自分の人生の主人公は自分である」という感覚を持てるかどうかだと考えています。

他人からの評価、他人から与えられたゴールを目的とするのではなく、自分の人生を「こういうモノにしたい」というイメージに向かって歩んでいくこと。

そのイメージを実現するために最適なパートナーとして企業を選ぶ、というスタンスではじめて主体的であると言えます。

これを言ってしまったら元も子もないかもしれませんが、その人のエンゲージメントが高く、主体的に働けるかどうかは、入社前にすでに決まっていると言えるかもしれません。

主体的な個人が、パートナーとして組織を選ぶことで、はじめてエンゲージメントが発生します。

ですが、多くの企業が、そういう根本的な概念を理解せず、インセンティブなどを与えることで社員のエンゲージメントは高められると思っています。一方で社員も「インセンティブが出ないからモチベーションが上がらない」などと言ったりしますよね。お互いエンゲージメントの概念を間違えていると感じます。

こういった話は、学校教育でも教えていくべきだと考えています。ですが、現代の学校教育の方針は「オペレーション通りにミスなく仕事を遂行する人を育てる」という高度経済成長期に作られたモノのまま。主体性の意味やエンゲージメントの概念をもとにしたアイデアの生み出し方などを教えてくれる学校は少ないのではないでしょうか。

結果「いい大学に入ればいい会社に入れる」という、従属的な価値観がいつまで経っても存在してしまう。

一例ではありますが、海外ではディベート形式の授業を導入し、答えのないモノに対しお互いを認め合いながら建設的に意見しあうなど、主体的な人を積極的に育てていますよね。しかし、日本は改善されてきているとはいえ、いまだにペーパーテスト至上主義で、ミスをしない人をいかに育てるかに終始しています。このように、社会に出る前の段階から世界と差が広がり続けているのが日本という国なのだと感じます。
 

主体性がないから、日本のジョブ型雇用への移行は難しい

 
― ジョブ型雇用についてはどう思われますか?いまジョブ型雇用への移行が進んでいますが、主体性の意味が理解できない日本でうまくいくのでしょうか?
 

(平井さん) エンゲージメントの視点から考えると「ジョブ型雇用」はとても重要な概念です。

企業が求めるジョブに対し、個人が「コミットできるからその対価としてこれぐらいはもらえるはずだ」と対等に話し合うことができるジョブ型雇用のあり方は、お互い主体的であると言えます。

注目すべきは、海外ではこれが自然と出来ているということ。文化的な背景や様々な理由があるにせよ、主体的に働くという観点で言えば、望ましい形だろうなと感じています。

日本は職務を限定せずに企業の1メンバーとして迎え入れ、職種や勤務地、時間外労働などに関して会社の命令次第という「メンバーシップ型雇用」が主流ですよね。
 

 
ジョブ型雇用の場合「ジョブディスクリプション」を元に、企業と個人が交渉します。ジョブディスクリプションとは、仕事内容が明記されているもの。

メンバーシップ型雇用である日本は「求人情報」が示されますが、ジョブディスクリプションと求人情報は似て非なるものです。

なにが違うのかというと、日本の求人情報は、入社後仕事内容を変更することを前提としている点です。

ジョブディスクリプションは入社後仕事内容が変更になることはありません。変更が必要になったとしても、そこで再度企業と個人の話し合いがもたれるのが一般的です。

ですが日本の場合、仕事内容は会社の都合で変更可能。個人も一方的な異動命令を受け入れていることが多いですよね。お互いそういうものだという世界観が成立しています。
 

日本は、主体性を取り戻す旅をはじめなければいけない

 
―「主体的」「エンゲージメント」を理解できる企業は現在どのくらいいらっしゃるのでしょうか?
 

(平井さん) 理解というよりは、ポジティブに受け止めてくださる企業が全体の2割ぐらいです。

Wevox推進活動の一環として、今回お話したような、人間らしい仕事とは何かとか、主体性・エンゲージメントをテーマにしたセミナーを行っているのですが、2割の企業に賛同いただけ、5割の企業は「理解はできるけど会社で実行に移すのはむずかしい」という反応をされます。

マクロ的に見れば、個人の主体性を是としない社会構造ですから、おそらくそのくらいだろうなという予測はついていました。    

そんな中 Wevoxを推進していくのは正直険しい部分もありました。

それでもWevoxを推進しているのは、私たちアトラエが主体的に働く人が集まる集団であり、それが望ましいと信じているからです。いま企業の考え方を変革していかないと10年後、20年後に日本の未来はないと一人一人が危機感を持ち、変革したいと考えています。もちろん時間もコストも非常にかかりますが、そこに妥協は一切ありません。アトラエが、採算ベースだけでビジネスを考える企業であればとっくの昔に撤退しているでしょう。
 

平井さん自身の主体性が発芽した経緯

 
―ちなみに平井さんは、なぜ社会構造の流れに飲まれず、主体的な働き手になることができたのでしょうか?
 

(平井さん) 私も御多分に漏れず、学生時代は良い学校に行けばなんとかなるという感覚がありました。

幸運なことに勉強が好きだったので、そこで勝っていけば人生安泰だと思っていましたし、両親も教員・公務員だったので、大企業に行くか公務員になれと常々言われていました。

しかし大学に入ってすぐに、アカデミックな世界に違和感を感じたんです。私は社会心理学を専攻していたのですが、2000年代入る前にはすでに出そろっていた理論を、教授たちが重箱のすみをつつくような検証を繰り返しているだけの状態を見て無力感を感じてしまったんです。これ世の中の役に立つのかなと。

そんな時現れたのがAppleのスティーブ・ジョブズです。圧倒的にあたらしい発想だったiPhoneが、あっという間に世界を書き換えていった。「これはすごい!なぜこんなことが考えられるんだ!」と衝撃を受け、あたらしいモノを生み出すことへの憧れ、ベンチャー企業の可能性を感じた瞬間でした。

一度きりの人生、私もあたらしいモノを生み出したい。その一心で、友人がみな大企業に就職していく中、一人だけベンチャー企業に就職しました。それが私の主体性の発芽だったと思います。

ただ、その後、苦しい思いをしたこともあります。大手に行った友人たちと比べ、給料が低い自分をみじめに思い、「間違った選択をしてしまったのかな…」と後悔したり、うまくいかない原因を会社に責任転嫁したりする自分がいました。

そんな時、立ち直らせてくれたのはアトラエメンバーです。みんながやさしくいさめてくれたおかげで持ち直すことが出来、いまに至っています。
 

主体的な組織は冷たいどころか、温かい

主体的=自己責任=厳しい冷たい世界という捉えられ方をすることも多いですが、まったくそんなことはない。むしろ人間らしい、温かみのある世界だと感じています。

私がアトラエに入社してよかったなと思ったのは、主体的な集まりゆえの温かさを感じることができたこと。お互いが対等な存在なので、常に持ちつ持たれつで、自分が周りに助けられている感覚をしみじみ感じることができます。

たとえば育休。一定期間、働かなくてもお金がもらえるという制度ですが、これは考えてみればとてもありがたい制度ですよね。

ですが、例え育休制度があっても「育休を取ったら昇進はできない」といった暗黙の空気がある企業も多いと聞きます。

一方、アトラエにはそんな空気は一切ありませんでした。

おそらく、みな主体的であるがゆえに、お互いがお互いを助け合っているという連帯感があるからだと思うのです。主体的である人は、自分のことを正確に理解しているがゆえに不得意分野があること、弱い存在であることも同時に知っています。だから助け合うことが当たり前だと思う。

私自身も育休を取得しましたが、育休を取ったことで、より一層チームのみんなに助けられているという想いが強くなり、素直により頑張ろうと思えました。この一例だけでもエンゲージメントの理想的な循環が流れています。

主体性=自己責任というのは、共に助け合うという「共助」の感覚が抜けている会社に起こる考え方です。共助の感覚がないのであれば、自己責任論が主体性を発揮しようとする人に牙をむくでしょう。

いまわたしたちは、人間らしく主体的に生きる世界に転換できるかどうかの岐路にいると思います。人間らしく主体的に生きる世界への道は、細く、険しいはず。舗装されていない獣道のような感じかもしれません。例えそれであってもその道を選び、進んでいかなければ日本に未来はないと思っています。

その道を進み、主体的に社会と関わることを選んだ私たちがWevox推進活動を通じ日本が変わるきっかけを創れれば幸甚です。
 


 
主体性とは何かについて、深く考えさせられる内容でした。

会社が求めることに従い積極的に行動している人が、必ずしも主体的とは言えないというドキッとするお話がありました。たしかにそれは、テストで高得点を取り、親や先生に褒めてもらおうとするあの心情と似たモノであり従属的なのかもしれません。

主体的に生きていると思っているが、実はそうではない。
人間らしく生きていると思っているが、実はそうではない。

DXという言葉の流行により、ついデジタルを使った組織変革ばかりに目が向いてしまいますが、今回の平井さんのお話をお伺いし、もはや社会構造の変革からやり直さないといけないフェーズに直面していることに気づかされる非常に有意義なお話でした。

やはりデジタル化して終わり、では済まない課題があるようです。
 
 

 
■ プロフィール ■
平井 雅史(ひらい まさし)
2009年に東京大学文学部行動文化学科を卒業後、新卒3期生としてアトラエに入社。新規事業を担当しながら、求人メディア「Green(グリーン)」のカスタマーサクセスに従事。同時期に組織力向上プラットフォーム「Wevox(ウィボックス)」の立ち上げに携わり、現在は経営者や人事担当者などを対象にエンゲージメントを軸にした組織改革を支援。エンゲージメントの重要性を自らの体験を踏まえながら日本中の企業に伝えている。3児の父であり、アトラエにて夫婦揃って貢献中。共働きの1つのモデルケースとなるため、日々家事育児にも奔走している。
 
■ 組織力向上プラットフォーム『Wevox』 ■
Wevoxは、エンゲージメントを軸にしたパルスサーベイで組織力の向上を支援するプラットフォームです。エンゲージメントや組織カルチャーなど”組織の状態”を多角的に可視化・分析し、「はかる→みえる→きづく→かわる」といった組織に「きづき」を起こすサイクルを促進します。現場の方々がネクストアクションに自ら「きづき」、組織に変化を起こし続けるサイクルが根付くようサポートします。
現在ビジネス領域のみならず、スポーツや教育の領域でも幅広く導入が進んでおり、導入組織・団体数は2,600以上、回答データは累計1億3,800万件を超える。2019 年度グッドデザイン賞を受賞。(2022年11月11日現在)

Wevox公式サイト:https://get.wevox.io/
Wevox Twitter:https://twitter.com/wevox_io
 


 

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