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リクルート主催ウェビナー「デザイントップが語る、デザイナーが活躍する組織とホントのところ」参加レポート

【セミナー概要】
2023年3月28日、株式会社リクルート主催のオンラインウェビナーイベント、「デザイントップが語る、デザイナーが活躍する組織とホントのところ~プロデザ!BYリクルートvol.9~」が行われました。

パネリストは、株式会社リクルートのプロダクトデザイン室デザインマネジメント部部長であり、デザインディレクターとして活躍している磯貝直紀氏と、株式会社マネーフォワードの執行役員CDOである伊藤セルジオ大輔氏です。

両企業のデザイントップが、デザイナーが活躍する組織の特徴や仕組みについて語るイベントで、現在の取り組みや今後の展望をプレゼンしたほか、お互いに質問をぶつける場面もありました。

本記事ではイベントに参加したレポートとして、以下の2つに分けて概要をまとめていきます。

・伊藤セルジオ大輔氏による発表

・磯貝直紀氏による発表


ー伊藤セルジオ大輔氏による発表ー
今回の登壇者、伊藤セルジオ大輔氏がCDOを務めるマネーフォワードとは、家計資産管理、勤怠管理などに使えるtoCプロダクト、toB向けプロダクトを40個以上展開している企業です。平均成長率は40%以上という同企業が掲げるミッションは「お金を前へ、人生をもっと前へ。」。

80名以上のデザイナーが在籍し、businessデザイン部(toBプロダクトのデザイン担当)、homeデザイン部(toCプロダクトのデザイン担当)、Xデザイン部(金融向けプロダクトのデザイン担当)の3つの部署に分かれています。この3つを横断的に見ているのがデザイン戦略室という組織で、デザイン組織の体制強化や全社にまたがるデザイン活用、ブランディング、などを担当しています。

同社はデザインを「本質を見極めて正しく伝えること」と捉えており、経営にもその概念を取り入れています。

同社はデザイナーが働きやすくパフォーマンスを上げてもらうためにいくつかの工夫をしています。
例えば「DESIGN OPS」と呼ばれるデザイナーを支える取り組みです。クレドやカルチャーの導入により、「デザイナーはユーザーフォーカス(ユーザーの本質的な課題を理解しソリューションを提供すること)の体現者である」といった行動指針や文化の定義をしています。

また、ロードマップを作成し、3年計画でデザイン組織の強化などを行っています。
3年後の未来を描いてどのプロセス踏むのかを半年ごとにアップデートすることで、パフォーマンス向上を測る取り組みをしており、人材のポートフォリオ作成によりデザイナーが成長するために、どういう機会提供をする必要があるかを会社として考えて実践します。また社内の風通しのよさを実現しナレッジ共有がされやすい環境を作るために、親睦会等のイベント企画も取り組みの一つです。

このように様々な工夫を行い成長を続ける同社ですが、デザインの力を最大化するために向き合っている課題があります。それは体験の一貫性を持たせることです。マルチプロダクトをシングルブランドで届けることは容易ではなく、組織に多数のスモールチームが動いていることが難易度を高めている状況です。企業組織がピラミッド型ではなく、社内にスタートアップがたくさんあるようなチーム構成になっていることから、体験の一貫性を連動性をもって共有することが難しいとのことです。ダイナミックな成長と変化のためには、組織全体が共通認識を持つための工夫が必要です。

また今回のイベントのテーマでもある、デザイン現場の「ホントのところ」として、意外とデザインの現場は混沌としていることを明かしてくれました。プロダクトの数やスモールチームの混ざり方が複雑になっており、多少のマイナス面があるものの、ナレッジがシェア出来たり知見が広がるなどプラスの面も大きいと言います。

またデザインの現場は分業化されていて、業務の幅が少なそうというイメージを持っている人もいますが、マネーフォワードは分業しきれていない状況にあり、かつtoB、toCどちらのプロダクトもあるので、機会が多くチャレンジングな現場であるとのことです。

越境を推進していく文化であることから、幅広い領域に挑戦したい志向のデザイナーは向いている現場です。またプロダクトデザイナー、サービスデザイナー、組織デザイナー、デザインマネージャーの役割で人が足りないため、採用の強化も必要な状況だということです。


ー磯貝直紀氏による発表ー

磯貝直紀氏が所属する株式会社リクルートは、大小さまざまな200を超えるプロダクトの運営をしています。集客支援や就職活動支援、業務支援SaaSなど、マネーフォワードと同様にtoC、toBどちらのプロダクトも抱えています。

同企業の体制としては、各事業組織の中にデザインのグループがあり、縦関係の組織を形成している一方で、横ぐしの形でデザインマネジメントユニットという組織があります。そこにはデザインディレクターが所属しており、様々な役割を担いつつプロダクトをリードしています。

前述の通り多くのプロダクトをもっているため、領域もフェーズも規模も様々であり、マッチングプラットフォーム、SaaS、フィンテックなど様々なビジネスモデルをもっています。デザインディレクターは「不確実性」を軸に役割や業務の難易度を定義してデザイナーが働きやすい環境を作っています。

主な不確実性の軸は2つあり、業務不確実性(=業務を進める不確実性)と、デザイン不確実性(=デザインを進める上での不確実性)です。組織のフィロソフィーが「動かすデザイン」とされており、ボトムアップ、目的志向で価値を生み出すという意味を持つことから、デザインディレクターは多様な事業状況に対応するスキルと、ボトムアップ文化を体現するスタンスの2つが求められるといいます。

デザインディレクターの役割は主に3つあります。
まずはデザインドリブンで変革を牽引することです。未来の理想像を具現化することをデザイナーが担い、議論を可視化して、あるべき未来像を定めていく役割です。事業側を超えるようなアウトプットを出して、事業を動かすイメージで業務をしています。

次にユーザーへの提供価値の最大化です。ユーザーインサイトとプロダクトを結び付けるために、ユーザーがどういう状況でどういうインサイトを欲しているかを認識することが重要とのことです。
そのために現場にデザイナーが直接情報を取りに行き、インサイトとプロダクトを結び付けながらプロダクトを動かすイメージで動いています。

最後に、事業にあったデザインコンサルティングです。デザイン価値を翻訳して提示します。成熟化したプロダクトではデザインのリニューアルがしにくい状況もありますが、事業状況を見た上で最適なデザインのあり方を提案します。

デザインを活用することでの価値、活用しないことでのリスクを伝えて、デザインの活用範囲を決めていく役割を担い、デザインが担う領域を可変にしていきます。デザインディレクターがこのような取り組みを行うことで、プロダクトにデザインを活かしやすい環境を作っています。

また磯貝氏は今後重要視することとして、デザインで価値貢献して信頼を獲得することにより、ポジションや役割を拡大するサイクルを回すことを挙げました。時間軸とともにそのサイクルを大きくしていき、組織基盤を見合う大きさにしていくことで、社内のデザイン習熟度を上げていくことを今後の展望としています。

デザインが介在していける領域を増やすことで、価値創造の根幹にデザインが関与でき、事業やプロダクト戦略への好影響が見込めます。これに対して現状の課題はデザインを広義にとらえて多職種にも浸透させることです。例えば経営トピックとしてデザインの認識を拡大させることが必要があり、デザインへの期待に見合う組織基盤の構築につなげる必要があります。
経営層に対する正しいデザインの啓発活動を行うことが、基盤拡大をサポートするデザインチームの拡大につながるとしてます。

【執筆者コメント】
本セミナーに参加して、デザインは単にプロダクトの表面的な部分を担う役割にとどまらず、プロダクトの根幹を担っているのだということが印象に残りました。またデザイナーの働きやすい環境づくりは、多職種にも活かせる内容でした。

リクルートでは、toCプロダクトのデザインチームからtoBプロダクトのデザインチームへのアサイン、ジョブローテーションをする上で、業務不確実性とデザイン不確実性で難易度を判断する軸を作ったことで、隣接する領域は明確にし、スキルの延長線上で異動できるような機会提供をしています。
一人一人の現状の業務を分析して、次に何の仕事をさせるかマネジメントする仕組みを作っており、本人の志向とポジションの特徴をマッチングします。この「不確実性」を軸に業務分析を行うことは、別の職種にも共通して活用できるものであると思います。

また各カンパニーや部署にデザイナーがいることで、クリエイティブにずれが生じることへの対策の方法も紹介されました。お互いにやっていることが分からないとずれが起こるので、定期的な情報共有をしているとのことです。ここで重要なのは、ガイドライン化は完璧には難しいという前提を共通認識で持つということです。

マニュアルのような形でデザインの基準を残していくことも重要ですが、どうしてもカバーできない部分が出て来ます。そのときに、フィロソフィーレベルで繋がることが重要となります。

デザインの全体的なテーマを共通認識としてすり合わせておくことが、大きなずれを生じさせない対策になります。これはデザインの現場ではなくとも、他の職種にも活用できます。全体の行動指針や、大事にすべき価値観をすり合わせておくことで、チームが違っても部署内の業務基準が統一されるでしょう。

その他、リモートワーク全盛の現在において、当たり前ですが忘れがちな重要なこととして、デザイナーも現場に赴くことが重要だとのことです。必ずしも全員行く必要はないですが、雰囲気やニュアンスなど対面で会ったほうが伝わりやすいものは現場で確認するし、定量的な観点の情報収集の方が効果的であれば現場にはいかないとのお話でした。

目的ありきの手段であることは再確認する必要があります。また同じ職種内でのナレッジシェアとして、横のつながりを対面で作ることも重要であると説明がありました。積極的に越境しやすい環境を作ることが、業務のレベルを上げることにつながると思います。

このように、デザイナーに関わるセミナーでしたが、他の職種にも役立つことが多く説明されたイベントでした。リクルート主催のイベントは今後も開催される予定ですので、引き続きどのような内容になるか注目です。

執筆者/
リビルダーズ編集部 橋爪 勝万

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