情報発信元: https://www.meti.go.jp/press/2022/03/20230316002/20230316002.html
(別サイト「経済産業省 ニュースリリース」を開きます。)
2023年3月16日、経済産業省が「DXセレクション2023」として優良事例を選定しました。
DXセレクションとは、昨年度より始まった取り組みで、中小企業や中堅企業の指針となるようなDXの代表的な事例を選定、紹介するものです。事例を公表することで、同じ地域や業界で共有ができ、中小企業や中堅企業のDX推進につなげていくことが目的です。
選定における評価基準としては以下の4つです。
・経営ビジョン、ビジネスモデル
・戦略
・成果
・ガバナンスシステム
グランプリには、岡山県の株式会社フジワラテクノアートが選ばれました。準グランプリは、群馬県の株式会社土屋合成と、福岡県のグランド印刷株式会社が選出されました。また審査員特別賞は、福岡県の有限会社ゼムケンサービスが受賞し、その他優良事例として14社が選出されています。
【執筆者コメント】
今回は経済産業省のDXセレクション2023を取り上げました。大企業とは違い、限られた投資でDXを進める中小企業の参考になる選定になっています。
総務省が作成している令和4年度版の情報通信白書によれば、DX推進における課題について「人材不足」「デジタル技術の知識・リテラシー不足」「資金不足」などがあげられています。人材不足は採用にかけられる予算にも起因するため、資金不足とつながります。また知識やリテラシー不足の解消にも費用がかかることから、中小企業がデジタル化、DX推進をすることは難しいと言えるでしょう。
では今回選定された企業はどのように取り組んでいたのでしょうか。グランプリとなった株式会社フジワラテクノアートの取り組みを見てみましょう。
同社は岡山県岡山市にある、醤油、味噌、日本酒、焼酎などの醸造食品を製造する機会メーカーです。醸造を原点に、世界で「微生物インダストリー」を共創する企業になることを2050年までの開発ビジョンとし、心豊かな循環型社会へ貢献するためDXを進めようと考えていました。ただ1933年に創業した歴史のある企業であることからベテランの社員も多く、ITリテラシーが低いことが課題でした。また従業員がDXの必要性を理解するまでには時間がかかったとのことです。
そのような状況で同社がDX推進のために工夫したことは、「目的に立ち返る」ことです。あくまでも取り組みの目的はビジョンの達成であり、DXは手段であることを繰り返し経営者から説明をしました。またそのビジョン達成のため外部に頼らず、社内でデジタル化計画を策定し議論を重ねながら進めています。DX推進委員会というものを組織し、社内啓蒙を行うことで、自社主導でシステム導入をすることに意義を感じてもらうことで、スキル向上のための資格取得に取り組むようになりました。DX推進委員会以外の人材からも意見が出るなど、社員全員が「自分事」にDXを落とし込むことに成功しました。
これにより、3年間で21のシステム、ツールを導入し、全工程がアップデートされました。業務プロセスと進捗の可視化をすることで、製造工程や事務作業ミスが削減し、作業の効率化が図れました。また資格取得などを行うことで、社内にデジタル人材が増加し、DXを内製できるようになりました。
このフジワラテクノアート社の取り組みの良い点は、DXを目的としていない点と、DX推進を内製できている点です。DXやデジタル化を行うときに陥りがちなのは、「上が決めたことだからとりあえずデジタル化します」であったり、「DXをするために今の作業を変えよう」であったり、手段が目的になることです。特に資金力が強くない中小企業では、ITリテラシーが不足している社員の教育は難しいため、上記のような思考になりがちです。同社は経営層が、ビジョンの達成のための取り組みであることを丁寧に説明することで、陥りがちな課題を解決することに成功しました。納得できる、自分事にできる説明をする機会を作ったことが成功の一つの要因です。
またDXを推進する人材についても、社内で資格を取った人が、手ごたえを感じつつDXに挑戦することで、触発されて周りの社員も資格を勉強するといった好循環が生まれています。内製化をするために外部ベンダーを使うケースが多いかと思いますが、外部ベンダーに任せきりになってしまったらそれは内製化とはいえません。自社のスキルを向上させるという点においても、DX推進の目的を明確にして自分事としてとらえられるか否かが重要だと言えるでしょう。
このように、資金力が強くない中小企業においては、社員数が多くないため、DXをひとりひとりの社員がどうとらえるかが非常に重要になってきます。なぜDXを推進するのかを社員数が少ないからこそ経営層が丁寧に伝えることが、身の丈に合う、しかし非常に重要な工夫です。DXを推進したい中小企業の担当者に参考になるので、2024年のDXセレクションにも着目です。
執筆者/
リビルダーズ編集部 橋爪 勝万