DXナレッジ

「企業を社会彫刻家にすること」と捉えると、DXはおもしろい。

 

DXはつらい。

DXによって目指す先が見えないのに、国や経営陣からやれと言われ、失敗したら責任を問われる。社長が責任をもってトップダウンでやることだと言われているのに…

DX推進者のモチベーションが一向に上がらない状況もまた、DX推進が進まない要因かもしれません。いま必要なのはもっと、前向きなイメージ。

実は、DXというのは

「民間企業を、利益を追求するだけの存在から、”社会のアーキテクチャーを設計する存在”へと変貌させること」

でもあるというのはご存知でしょうか。

DXを成功させることで、ITを駆使してUX・ユーザー体験を生み出す企業へと変貌を遂げることができる。社会を作り上げていくことができる存在に生まれ変わることができるんだ、というお話です。
 

UX開発で、企業が社会を彫刻する時代

「すべての人間は芸術家である」と言ったのはドイツのアーティスト、ヨーゼフ・ボイスです。すべての人間は、さまざま活動によって社会をデザインしている「社会彫刻家」なんだ、という話です。

ですが「そう言われても、自分の仕事が社会をデザインしているなんて気はまったくしない」と思う人が多いのではないでしょうか。多くの企業は利益のために動いており、売り上げ達成のために意義を感じない商品やサービスを売りつけている、それのどこが社会彫刻家なんだと。

DXはこの状況を変え、働き手が「自分は社会彫刻家だ」と実感できる世界を作ることとも言えます。

「アーキテクチャー」という言葉があります。エンジニア側では「全体構成を考える」ことを指しますが、もっと広義の意味では「人の行動を規定したり、変えたりする4つの要素の内の1つ」を指します。

4つの力というのは「法」「規範」「市場」「アーキテクチャー」。「法」はルールによって行動を規定し、「規範」はモラルによって行動を規定し、「市場」は得する行動を規定します。人の行動はさまざまなモノにデザインされているわけです。

そして「アーキテクチャー」は、環境によって行動を規定することわかりやすいのは建築物です。ドアは、開ける閉めるという行動を作ります。廊下は、歩く方向を規定します。発展型として、飲食店は椅子を硬くすることで、回転数を上げています。

このアーキテクチャーの手段に近年入ってきたのが、ITです。
  

気付けばITが、社会レベルのアーキテクチャーを作っていた

これまで、人類全体の行動を規定するような社会レベルのアーキテクチャーは、国や自治体が作るものでした。

ですが「知りたいことはすぐ検索する」という行動を作ったのは、国・自治体ではなく、企業。GoogleやYahoo!です。

「欲しいものがあったら検索する」という行動を作ったのは、AmazonやECです。一昔前は、欲しい本があったら書店に行き、なかったら取り寄せで2週間待つか、ほかの書店に行くという行動コマンド一択でした。

「思ったことをつぶやく」という行動はツイッターが作りました。ツイッターの場合、さらに「一人のつぶやきが広がっていきやすいアーキテクチャー」にしています。リツイートだけでなく「いいね」もフォロワーのフィードに反映させられるようにしたり、つぶやいた相手に直接共感を伝えたり意見したりできるようにすることで感情の増幅を誘発しています。

対するニューズピックスは、ニュースに対してコメントを付けられるけど、誰かのコメントに対して意見することはできないアーキテクチャー。一人の意見を広げる目的で作られていません。ツイッターもニューズピックスも同じく「世の中に対しコメントする」という行動を作るUXですが、アーキテクチャーによって細かく行動を規定されているのです。

余談ですが、企業ミッションを重視するエンジニアは、細かい作りこみによって「世の中にどんな行動を作りたいのか」が変わってくることを理解しているエンジニアです。ミッションを重視しないエンジニアは、言われた通りモノを作り対価としての賃金をもらいます。
 

民度すらも変えはじめるITアーキテクチャー

中国の「信用スコア」も、社会を変えたアーキテクチャーです。

中国人はかつて「他人をみたら疑え」「だまされるほうが悪い」という価値観がデファクトスタンダードでした。1966~1977年まで続いた文化大革命により、既存宗教や「先祖を大切にする」伝統文化などが徹底的に破壊されてしまったためです。

ですが、正しい行いが評価され数値化される「信用スコア」の登場により、これまで信用がまったくなかった市民でも家を借りたり起業するハードルを自力で下げることができるようになったことなどから、民度が急速に改善。

この信用スコアを国全体に広げたのは、国ではなく企業。アリババです。中国12億人が使うアリペイに集まるビッグデータを活用することで、精度が高い信用スコアの実装を実現しています。

中国の起業家は「人々が信頼し合わないひどい中国を変えたい」など、社会を作り直したいという気持ちからビジネスを大きくしていく方が非常に多く、それゆえミッションドリブン経営が根付いているようです。
 

実はもう大きなヒントを持っている日本

少子高齢化による縮小均衡をどのように乗り越えていくか。2100年には人口が半分以下の5972万人にまで下がると言われており、世界に先駆けて日本がリードしている課題です。ちなみに中長期的な人口増減の推測はだいたいハズれる傾向がありますが、当面減っていくことは間違いないない事実でしょう。

よくこの課題はマイナスなこととして受け止められがちですが、40年前までは「日本はこのままでは人が増えすぎてしまうから、南米や満州に移民すべし」とニュースで報じられていたわけで、その頃の人たちからすれば今の状況は「良かった良かった」です。悲観的に捉えるのではなく「ユニークな課題」と捉えるべきです。

日本はDX後進国だ、経済的にもレベルが低い国になりはじめていると聞きますが、実際は、中国やインドなどを除き、全体的に世界の経済成長率は停滞し始めており、おそかれ早かれ他の国も縮小均衡に対応せざるを得なくなってきます。

そして、日本はすでに過去に縮小均衡を乗り越えてきた経験を3度も持つ国。「縄文時代中期」「平安時代後期~鎌倉時代」そして「江戸時代中期」です。

この「江戸時代中期」が、現在と非常に似ています。それまで田畑を開発し、子供をたくさん作ることで経済発展を遂げてきていたのが、ついに耕す土地がなくなり経済は停滞。経済が停滞すれば、食い扶持を増やせなくなるため、出産率も低下していきました。

人口は減少し、貴重な労働力として女性の仕事が増え、晩婚化。未婚も多く、また離婚も多かったことから幕府が「離縁禁止令」を出したりしていました。

独り身の男性が増えたことで生まれたのが「外食文化」です。寿司・そば・天ぷらの屋台が並び、酒屋の店先でつまみを買って酒を飲む居酒屋もこの当時産まれたビジネスモデルです。浮世絵も流行。今でいう、アニメ・漫画・同人誌文化です。

さらに、独り身の男性はモノを所有せず、なんでもレンタルしていました。服、布団、雨具、畳、そしてふんどしまであらゆるモノがシェアリングエコノミー化されていました。

また、会いに行けるアイドルも存在していました。茶屋の美人看板娘が評判になり、絵や手ぬぐい、人形などが販売されていたそうです。
 

まとめ「上流下流ではなく、全員が社会彫刻家と言える企業を目指して」

抽象度が高い話になりましたが、アーキテクチャーについてお話してきました。

●ITによって社会レベルで、人の行動を規定する仕事を企業がやる「企業社会彫刻家」時代がやってきた。
●ITプロダクトの細やかなUIの積み上げが、あたらしいUXをデザインしていく。
●日本はできることも課題も絞られている。だからこそ、ユニークなアーキテクチャーを生むことができるチャンスがある。

今回のアーキテクチャーはいわゆる上流の概念レイヤーでのお話でしたが、途中ツイッター・ニューズピックスの例で触れたように、UIをどうしていくか、そのUIを実現するためにどういう構造でどのように開発していくかという粒度の積み重ねが、アーキテクチャーの機微を決定づけていきます。

上流下流という言葉がありますが、上流で決めたことを下流がただ作るという流れではなく、上流の想いを細かくくみ取り、その想いを実現するために上流が気づいていないアイディアを下流から伝え反映していく双方向コミュニケーションが重要です。

ユーザーとの接点、その1点がUXを決め、社会を作っていきます。上流も、下流が持つ粒度の細かい視点をリスペクトすることで、上流も下流も「自分は社会を彫刻している」と思える企業体を作っていってほしいです。
 

参考:アフターデジタル2 UXと自由 日経BP 著者:藤井 保文

 

執筆者
リビルダーズ編集部

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