DXナレッジ

まず、どのポジションを狙うべきか考えることもDX。

 

「プラットフォーマーになれない企業は淘汰される」

DXについて調べれば調べるほどそんな強迫観念にかられますが、果たしてそうなのでしょうか。

DX後の世界観を明確に描いた『アフターデジタル』によると、これからのビジネスは「最上流がプラットフォーマー、次にサービサー、最後にメーカー」という序列になると言われています。
 

引用:『アフターデジタル』日経BP 著者:藤井 保文・尾原 和啓 (本文中の図を引用し、読者の解釈を助けるために情報を補足して作成)

 
・プラットフォーマーが、ユーザー体験をデザインし、ユーザーの自己実現に伴走する
・サービサーが、プラットフォーマーが提供するユーザー体験の一部を担う
・メーカーが、サービサーから依頼を受けたプロダクトを作る

ユーザー体験を提供する企業が最上流となり、これまで最上流にいたメーカーが一気に最下流になることで「顧客主義への回帰」を図る。これこそ、DXが第4次産業革命と言われるゆえんです。( 前回記事「DX後の世界、覗いてきた。(プラットフォームってそういうことか) )

では、すべての企業がプラットフォーマーを目指すべきなのか。もろもろ情報を整理してみました。

自社はプラットフォーマーを目指すべきなのか。どのポジションを選ぶべきなのか。まずはそこからDXについて考えるための参考になれば幸いです。
  

たしかに強いプラットフォーマー

世界の時価総額ランキング上位を占めるプラットフォーマー。

1位 アップル
3位 マイクロソフト
4位 アルファベット(Googleとグループ会社のコングロマリット)
5位 アマゾン
6位 テスラ
8位 メタ・プラットフォームズ
(2022年5月現在)

と誰もが知るプラットフォーマーが不動の地位を築き、それ以外の上位企業も相当数がプラットフォーマーです。

ちなみに、アップル・マイクロソフト・テスラは「メーカー兼プラットフォーマー」です。各社のプロダクトで使用されるアプリケーションやクラウドサービスなど様々なコンテンツがビジネスの主戦場になっているからです。

世界では、プラットフォーマーがユーザー体験を作り、そのユーザー体験に必要なアプリやプロダクトをサービサーやメーカーなどの協力企業が提供しているという構図です。いまやプラットフォーマーが人類全体の世界観を作り始めていると言っても過言ではありません。
 

プロダクトの質が競争原理ではなくなるコマースの顕在化」

メーカー主導だった時代「どの企業よりも良いモノを作ること」が企業の競争原理でした。

ですが、この先プラットフォーマーが提供するユーザー体験の中にプロダクトが埋め込まれていく時代になっていくにつれ、プロダクトの質だけで勝負ができなくなってきます。

テスラの、コーヒー提供サービスはご存じでしょうか。無人のテスラ車が、コーヒーを届けてくれるというサービスです。

>無人のテスラ自動運転車がコーヒーを届けてくれる、ドバイのデリバリーサービス
http://www.kotaro269.com/articles/64048.html

このコーヒー配達サービス、そこそこおいしければ売れます。購入者はテスラのファンであり、そのテスラが出しているコーヒーだからという理由でサービスを利用するためです。味や香りを比較検討して売れる、というものではありません。

プロダクトの品質ではなく、プラットフォーマーの世界観がプロダクトの売れ行きを左右する。この現象をコマースの顕在化と言います。

この現象はインフルエンサー界隈でも起きています。「モテクリエイター」のゆうこすさんが、OEMの会社と試行錯誤を重ね作ったオリジナルコスメはリリース初日で1万点一気に売れたりしますが、これもゆうこすさんのファンであることが売れ要素です。

もちろん、質がいいプロダクトは今後も選ばれ売れていくはずです。ですが、ユーザーが求めていない質の良さに固執するメーカーは今後生き残りが難しくなるでしょう。
 

メーカー脱却をりはじめた大手メーカー

サントリーDXTOP 室元さんも、明確に「メーカーの存在意義が脅かされる時代が来た」と危機感を抱き、プラットフォーマーへの転換を図ろうとしています。

私自身が強くその危機感を抱いたのは、5年ほど前に上海に視察に行ったときでした。その当時、中国の都市部では自転車シェアリングが急成長し、自転車を買う消費者は大きく減少。その結果、自転車メーカーは「シェアリングサービスに自転車を供給するだけの存在」になり、地位が大きく下がっていたのです。「メーカーの存在意義が脅かされる時代が来た」「日本でも、飲料・食料業界でも同じことが起こるかもしれない」と非常に強い危機感を抱きました。

サントリーホームページ DX TOP INTERVIEW「ダイナミックな変革に挑める 未開の荒野がここにはある」https://www.suntory.co.jp/recruit/dx/topinterview/

サントリーがはじめているのは、BtoBの健康経営支援サービス「SUNTORY+」。社員の健康行動の習慣化をサポートするアプリケーションを無償提供し、そのイチアイテムとしてサントリーの自動販売機を社内に設置。結果、企業の医療費も軽減されるという試みです。

この、健康行動の習慣化というユーザー体験に「特茶」「胡麻麦茶」などを乗せることで、清涼飲料水から健康サポート食品へとポジショニングが変わる点なども含めてクオリティが高いDX施策です。
 

すべての企業がプラットフォーマーを目指すことで起きる倒産バブル

これから強いのはプラットフォーマーです。ですが、すべての企業がプラットフォーマーを目指すことができるのでしょうか。プラットフォーマーになるために必要な条件があることがSUTORY+の事例から読み取れます。
 

①もともと顧客視点を持てていたこと

DXの要点は「顧客視点ビジネスへの回帰」です。これまでも多くの企業は「顧客満足」を掲げ活動してきましたが、従来レベルではない「更なる顧客視点の獲得」が必要です。

下のSUNTORY+のUIをご覧ください。サイトでアニメーションが見れますが、顧客視点が細部に活き渡っています。
 

引用:SUNTORY+ホームページ (UIをスクリーンショットで加工して編集) https://www.suntory.co.jp/softdrink/suntoryplus/

 
健康行動を習慣化させるための「超ハードルが低い行動タスク」が設定されており、この行動タスクは筑波大学の名誉教授と共に共同開発するという徹底ぶり。

さらに、毎日アプリを使ってもらえるよう健康豆知識を日々提供。誰でも知っているようなことではなく「へー!」となるような豆知識を提供しています。

アプリUIのこの2点だけ見てもサントリーの顧客視点レベルの高さが伝わってきますが、実はこれが一朝一夕ではマネできないポイントです。

たとえば、ユーザーが「へー!」となる豆知識コンテンツを作るには、どんな情報が「へー!」となるか、どんな風に伝えたら「へー!」となるかなどの勘所が必要になってきます。SUNTORY DX TOP 室元さんも下記のようにおっしゃっています。

サントリーにはこれまで築いてきた強いアセットがあります。宣伝クリエイティブ力、デザインの力、強力な営業力、飲食店のネットワークなど、一朝一夕には作れない「リアルのアセット」です。さらには「お客様を喜ばせたい!」という創業以来のDNAがあります。

サントリーホームページ DX TOP INTERVIEW「ダイナミックな変革に挑める 未開の荒野がここにはある」https://www.suntory.co.jp/recruit/dx/topinterview/

ユーザー体験を作るアプリを開発する、というところまではどの会社でもできます。ですがそこに乗せるコンテンツであったり、世界観の構築であったりは、深い人間理解力が重要であり、どの企業でもすぐにできることではありません。
 

②「ムーブメントを作る予算」が潤沢にあること

上記アプリも相当コストをかけて開発していることが分かると思いますが、セットで自動販売機を設置したり、一気に営業をかけたり、地道な活動にも膨大なコストをかけています。

少しずつプラットフォームを作り上げていくことも可能だとは思いますが、その間、資金を潤沢に持つ企業にマネされたら終わりです。

ちなみにサントリーは、全国の飲食店に営業をかけ「ハイボールがおいしく作れるサーバー」を設置していくことで世の中にハイボールを流通させています。その実行力もすごいですが、つまりは世の中にムーブメントを作ることに予算をかけられる企業だということです。
 

③「やってみなはれ」精神がもともとあったこと

DX推進が進まない最大の理由の一つが「失敗を恐れる経営陣」であると言われています。

サントリーは創業当時から「やってみなはれ」という合言葉の元、挑戦文化が根付いており、世の中にさまざまなムーブメントを起こしてきた実績を持つ企業です。

この3点は、サントリーに限らず、世界のプラットフォーマーに共通するポイントです。「DXとはプラットフォーマーになることだ」とすべての企業が走り出せば、道半ばで倒産する企業は増えるはずです。
 

プラットフォーマーじゃなくても生き残れる

自社はプラットフォーマーを目指すべきなのか。サービサー、メーカーとして生き残る道はないのか。というところにまず立ち返ることが重要なのではないでしょうか。

もちろん、サービサーだから、メーカーだからといって、変革が不要というわけではありません。どうすれば生き残れるか、戦略を組み立てなおす必要があります。
 

引用:『アフターデジタル』日経BP 著者:藤井 保文・尾原 和啓 (本文中の図を引用し、読者の解釈を助けるために情報を補足して作成)

 
中国初のオンライン専門保険会社「衆安保険」は、サービサーである保険会社に、ユニークな保険商品を次々開発し、提供する「サービサーにサービスを提供するプラットフォーマー」というポジショニングです。

たとえば「飛行機遅延保険」。飛行機に乗る直前に購入し、1時間遅延したらいくら、2時間遅延したらいくら、とお金を受け取れる保険です。「高温保険」は、37度以上になる日の合計日数が超えると保険金が出る仕組みです。

ギャンブルのようにも見えるユニークな保険商品を次々と開発していきますが、自社で販売せず、サービサーである保険会社に提供し、保険会社がその保険商品をプラットフォーマーであるアリババなどに提供し、ユーザーに販売していくというポジションを取っています。

深センは、メーカーポジションですが、車で1時間以内のエリアにあらゆる部品・あらゆるモノづくりプレイヤーを集め「企画~生産~輸出までを超高速で行える場所」として不動の地位を確立しています。ユーザーのニーズが次々と変化する時代、超高速でモノ作りを担うことができる深センは必要不可欠な存在。世界の工場と呼ばれています。

サービサーであっても、メーカーであっても、時代の変化に応じた戦略をしっかりと組みなおすことで、プラットフォーマーにとって無くてはならない存在になっていくことができます。
 

サービサー・メーカーはプラットフォーマーを選ぶ力を

重要なのは、プラットフォーマーが絶対。プラットフォーマーの言うことを聞け。という関係性を作らないことです。

どのプラットフォーマーにサービスを提供していくかは、サービサー・メーカーに選択権があります。プラットフォーマーもまたサービサー・メーカーに選ばれ続ける存在になる努力が必要になってきます。

従来のビジネスはなにが問題だったのか。十分な顧客視点を持たないメーカーがある種独善的にプロダクトを作り、そのプロダクトを広告によるラッピングで「顧客視点で作りました」という風に見せるという構図がさまざまな歪みを引き起こしていました。

ユーザーが欲しくもないものを無理やり売り切りビジネスで大量製造・大量販売し、大量の売れ残りが出ては大量に廃棄処分が必要になる。納得がいかないビジネスで売上に追われ、上流と下流は常に対立。「いいからやれ」と強い圧力をかける力を持つ企業が上に立つ。

DXとは、そんな古い商習慣の歪みからの脱却であり、ビジネスの全体構造を顧客視点ファーストにしていくことです。歪みがすべて無くなるとは思えませんが、少なくとも、下流企業を「いいからやれ」と押さえつけず、フラットに選び選ばれの関係を築くことを望む企業がプラットフォーマーになるはずですし、なるべきです。

そのためにも、サービサー・メーカーポジションを選んだとしても、プラットフォーマーから選ばれる存在になれるよう企業力を高めていくこと。それさえ出来れば、IT化を進めなかったとしても、DXと呼べるのではないのではないでしょうか。
 

まとめ「上流下流という考え方もトランスフォームすべき」

すべての企業がプラットフォーマーを目指すことがDXではない、というお話でした。

●プラットフォーマーは強い。各サービス・プロダクトも、プラットフォーマーが創る世界観の一部になっていく。(コマースの顕在化)
●ただし、どんな企業もプラットフォーマーになれるわけではない。まずは俯瞰して、自社がどのポジションを目指すべきか考えるべき。
●DX後の世界は、上流下流という位置関係はありながらも、フラットな関係性を築ける世界になっていくはず。その時に備え、フラットに立ち振る舞える力を蓄えることに専念すべき。

デジタルによってどれだけトランスフォームできたとしても、考え方が旧ビジネスのままであればそれはトランスフォーム失敗です。

「上流だから偉い・下流は言われた通り作るだけの作業者たち」という考え方はビジネス全体だけでなく、プレイヤーたちの間にも浸透しきっています。こうした考え方が変わっていかなければDXは失敗といえます。

上流はえらい・下流はえらくない、というマッチョな考え方でDXの方向性を考えるのではなく、一歩引いて自社が活きる道を考えられるクレバーな企業が生き残る世界であってほしいと思います。
 

参考:アフターデジタル2 UXと自由 日経BP 著者:藤井 保文

 

執筆者
リビルダーズ編集部

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