DX、理解したいけど、DXレポートはむずかしいしとにかく長い…特に、ITに明るいわけではない方にとってDXレポート読み込みはもはや試練です。(「DXレポート2」は56P、「DXレポート2.1」は24P。読み込みに1時間以上はかかります。)
そんな方はまず、DXレポート2のダウンロードページ下にひっそり格納されている「対話に向けた検討ポイント集」という資料がオススメです。こちらの資料、ITにくわしくない方にもDXが理解できるように作られた紙芝居形式のファイルで、DXレポート2にも
“経営層・事業部門・IT部門、各部門がDXという言葉を用いた場合に思い描くビジョン、コンセプトが様々な状況にあるため、具体的なアクションにつながらないという問題が見られる。その対応策として、それぞれの”わからない”を”わかる”にするための意識向上施策としてポイント集を整理した”
引用:DXレポート2 | 経済産業省
と紹介されています。たしかに、DX推進の一番のネックは、DXに対する理解・イメージがバラバラな点にあるのかも知れません。
もっと大々的に紹介してくださいよ経済産業省さん
ITに明るくない方向きという紹介されている通り、こちらの資料は1ページごとにイラスト・図解がなされていて、言葉だけよりもずっと理解が進む印象。
上記は本レポート第一章の序盤のイラストですが
「現行ビジネスとデジタルビジネスの世界は同一線上に存在しているモノではないんだ。」
「現行ビジネスから人がいなくなり、デジタルの世界に移行しているから、企業もそこに移行しないとビジネスが成り行かなくなるんだ。」
いうことがイメージでパッと伝わってきます。言葉だけの説明では、ここまで鮮やかなイメージを持つことは難しいと思います。
DXの一番の失敗要因は「経営層と現場の理解の不一致」と言われていますが、理解の一致の橋渡しにこちらの資料、非常に有効そうです。以下、各章ごとのポイントと補足を解説していきます。
「第一章 デジタルトランスフォーメーションとは」のポイント・補足
こちらは「DXって結局なんで必要なの?!」の理解を促進させるファイルです。ビジネスそのものを変革させていくDXだからこそ、全員の目的理解の一致は必須です。
DXとは「デジタルエンタープライズになるまでのプロセスのこと」を指しますが、その「デジタルエンタープライズ」とは一体なんなのかについて説明しているのが第一章です。
デジタルエンタープライズとは、一言で言えば「ITを使わないとできないビジネス」を展開している企業。これまでITは、業務効率化のためのツールでした。例えば「勘定奉行」などの経理ツールです。こうした効率化ツールを使っているだけの企業ではなく、ITを使いこなさないと出来ないビジネスを展開しているAmazonやNetFlixのような企業をデジタルエンタープライズと呼びます。
デジタルエンタープライズが強いのは、市場に出回るデータを取り込み、1to1マーケティングが実践できることです。
NetFlixは1to1マーケティングが大きな競合優位性になっています。利用者一人一人の視聴データに合わせて「この作品はあなたにピッタリですよ」というレコメンドを提案。利用すればするほど、1人1人の好みにフィットするサービスに成長していくため、利用者は離れることが出来なくなります。こうした企業がどんどん成長していくことで「デジタルディスラプター」と呼ばれる市場破壊者になります。
実際、レンタルビデオ業界の覇者だったTSUTAYAも、ノーマークだったNetFlixにあっという間に市場を奪われてしまいました。海外ではNetFlixのようなデジタルディスラプターの種となるようなデジタルエンタープライズが日々続々と産まれています。従来通りのビジネスを遂行しているだけでは浸食されるのを待つだけ。DXに取り組まなければ、あっという間に倒産してしまいます。
また、NetFlixであっても、似たような競合が現れれば、あたらしいサービス機能を追加したり、まったく別のサービスを開発しなければ生き残れません。その際、既存システムが古い状態だと、機能追加も新サービス開発もできなくなります。これが『2025年の崖』というもので、実は日本の会社の約8割が既存システムが変化に対応できない古い状態のままです。
このように図・イラスト・表を使って、DXとは何か、何が目的なのかがカンタンにまとめられているのが第一章です。
「第二章 デジタルエンタープライズとデータ活用」のポイント・補足
こちらは「どうすればデジタルエンタープライズに変革していけるの?」を明確に説明しているファイルです。特にDXの説明でよく出てくる「データを活用する」というワードのイメージが理解できるようになります。
まず「データを活用したビジネス」とはどういうことなのか。そもそも二十数年以上前は、データと言えば「アンケート調査」。収集方法もアナログで、費用もかかる状態でした。
ですが現在、スマホ・PCが普及し切り、ほとんどの人がアプリ・SNS・ECなどなんらかのデジタルサービスを利用しており、取得できる利用者データが膨大に増えています。これらデータを材料として課題解決を迅速に行っていきましょう、というのがデータを活用したビジネスです。
活用できるデータが大河のごとく流れており、それを利用する企業としない企業が闘えば勝つのはどちらか、火を見るよりも明らかです。ちなみに、このデータを使ったビジネスというモノをもっと具体的にイメージできる記事を見つけたのでご紹介しておきます。
参照記事
睡眠時間、授乳回数、排泄回数...17万人のビッグデータで知る「赤ちゃんのこと」
https://lidea.today/articles/003175
これまで厚生労働省で、10年に1度、数千人の赤ちゃんの健康状態を調査する「乳幼児身体発育調査」というものを行っていたそうなのですが「赤ちゃんの授乳時間や寝た時間などを記録する育児アプリ」をリリースしたところリアルタイムで17万人の赤ちゃんのデータが取れるようになったという内容の記事です。ライターのヨッピーさんが、そのデータを元に赤ちゃんの「手のかかる度合い」を点数表示させ、それによって行政から補助が出るようなシステムが出てきたらいいのに、と話しています。この話はまさにデータを活用したビジネスのわかりやすい例だと思います。
また、他社のサービスが取得したデータなども公開されており、それらを取り込むことで「旅行サイトでAツアーを予約した人の1割がスーツケースBを購入している。ツアーにレンタルサービスを付けてみよう」など判断することも出来ます。
よいこと尽くめのデータビジネスですが、DXレポートでも口酸っぱく警鐘を鳴らしているのが「既存事業ですでに集めることに成功しているデータを元にどんなビジネスをしようか考えてしまうこと」。既存データありきではなく、世の中にあふれているデータを使ってできるあたらしいビジネスを想像することからはじめるべきと記載がありました。DXは既存ビジネスの延長線上にない、というのはこういう話でもあるのです。
その他、データの扱い方・データを起点としPoCによる試行錯誤をベースにビジネスチャンスを捉えていくことなどが書かれています。
「第三章 デジタルエンタープライズに向けたITシステム企画」のポイント・補足
この章では「どうやってDXを進めていけば、スムーズにデジタルエンタープライズになれるのか」について解説されています。
既存ビジネスの延長線上にないあたらしいビジネスをどう作っていくのかについて説明されていますが「一気に変えるのではなく、段階を経て変えて」いけば良いことがイメージできます。下記図では、まず販売のチャネルを、従来の営業販売と、サブスクリプション販売と、ネット販売に拡大させています。
さらに下記図、従来の営業販売を無くし、ネット販売を拡大させています。「実店舗はショーケースの役割へ」とありますが、実際まさに紳士服のAOKIがこのような状況で、店舗が倉庫代わりにもなっています。
たしかに「もうデジタル側に人が移行しているのだから、既存チャネルは捨て、デジタルチャネルにすべて切り替えよう!」と言っても実行はむずかしいでしょう。徐々に、段階を経ながらデジタルへの移行を進めていけばいいことがイメージできます。
また、この章でよりイメージが明確になるのが「技術的負債解消の流れ」。既存システムをすべてまるごと作り変えるのではないということがイメージできるのが下記図です。変化に対応する部分・そうではない部分を切り分け、対応する部分を作り変えていくということのようです。
切り出す部分を整理するために、まず、既存システムの課題を調査し、
分析し、
そして、廃棄していく。
上記、ITに詳しい人からすれば当たり前な話しなのかもしれません。ですが、詳しくない人からすれば、技術的負債・レガシーシステムを刷新せよ!と言われると、すべてを刷新しなければならない途方もない巨大プロジェクトのように感じられてしまうものです。すると「そのうち対応するか」となってしまうのは人の常ではないでしょうか。
DX推進の第一歩はまず「やっていけそう」と思えるかどうか。そのために図式化することの有効性をあらためて感じる本章でした。
まとめ
この「対話に向けたポイント集」全3章は、主に非IT領域の方々向けに作られたコンテンツですが、IT領域の方々の理解・イメージもより明確になる力があるレポートだったのではないかと感じます。言葉だけで物事を伝えていくことの危うさも感じました。
とてもわかりやすいこのレポートです。是非、DX推進に関わっていない方々とのコミュニケーションに活かしてみて下さい。
参考
経済産業省「デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会の中間報告書『DXレポート2(中間取りまとめ)』を取りまとめました」
(「対話に向けた検討ポイント集 第1~3章」は上記ページの「4.デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会 ワーキンググループ1 報告書」に格納されています)
執筆者
リビルダーズ編集部