医療のデジタル化が進まない。開業医らの電子カルテ利用率は4割と経済協力開発機構(OECD)加盟国で最低水準だ。診療報酬の加算をインセンティブとして政策誘導する仕組みには限界があり、逆効果となる懸念もある。革新的創薬が続き、医療の高額化が進む。民間なら当たり前の業務効率化も「アメ」なしで促せないのなら、国民皆保険が危うくなる。
引用:日本経済新聞「患者二の次?医療DX二の足 アメで誘導、普及に逆行も」
開業医らの電子カルテ利用率は4割、経済協力開発機構(OECD)加盟国で最低水準
OECDの2021年での資料によると、政府支出に占める公的医療費の割合がOECD加盟国など44カ国で2番目に高いにもかかわらず、開業医クリニックでの電子カルテ導入割合は42%と加盟38カ国で4番目に低い結果となっています。
現状、医療機関は患者から月1回の健康保険証の提示をしてもらい、有効期限を確認する必要があります。このプロセスは窓口業務としてかなり負担になっているようです。
現在、健康保険証関連の業務効率化について、様々な取り組みがなされていますが、関連制度に関して問題点も出てきています。
「マイナ保険証」普及に向けて診療報酬改定も、逆効果に
マイナンバーを健康保険証として利用することができる「マイナ保険証」の普及推進のため、今年4月に診療報酬改定で「電子的保健医療情報活用加算」(※1)が新設されました。これにより、月に1度、医療機関なら初診時70円(再診時40円)、薬局なら薬の調剤で30円が診療報酬に加算されます。
この改定は医療機関側に、患者1人当たりの単価が上昇するというメリットと、マイナ保険証の資格確認システム導入・運用のコストがかかるというデメリットをもたらしました。
一方で、患者側には明確なメリットは無く、医療費が増えるというデメリットだけが存在するという、なんともアンバランスで不可解な状況が発生しています。
慶応大学の土居丈朗教授によると「デジタル化は大事だが、診療報酬への加算はあべこべな印象がある。窓口負担が増えると、患者は使いたがらなくなってしまう」と普及策が逆効果になるリスクを指摘しており、「報酬加算の『アメ』ではなく、対応しないと報酬が減る『ムチ』のような仕組みを導入すべきだ」と訴えています。
(※1) 診断及び治療等の質の向上を図る観点から、オンライン資格確認システムを使って患者の薬剤情報や特定健診情報等を取得し、その情報を活用して診療等を実施することに対する評価です。
引用元:FPサービス株式会社「医師向け医院開業用語」
【執筆者コメント】
今回は、医療DX・自治体DXが行われている例を紹介いたしました。
マイナ保険証について、現時点では効率化の手段としてIT技術を用いているという点で、DX(デジタルトランスフォーメーション)よりデジタライゼーションのほうが近いと言えます。しかし、将来的にはマイナンバーと、個人の生活習慣・購買情報などを掛け合わせAIやビッグデータ分析を活用し、病気を未然に防ぐことも可能になれば、もはやDXの域と言えるでしょう。
また、このようなDXの達成のためには、ITリテラシーを持った人材が不可欠であり、さらには周辺の制度整備がバランス良くなされている必要があります。今後、マイナ保険証を中心とした人材配置と制度設計を適切に行えるかどうかが、この医療DX成功のカギとなりそうです。
出典1:東京保険医協会「電子的保険医療情報活用加算に見る『アメとムチ』」
出典2:ぎょうせいオンライン「電子カルテの第一人者が語る!マイナンバーカードと健康保険証の連携への期待」
執筆者/
リビルダーズ編集部 城間礼音