DXナレッジ

コードを理解しない上司が日本をぶっ壊している件。

 
やっぱり…プログラミングは勉強しないと、というお話です。

前回「テクノロジーはよく分からないから専門家にお任せ、というスタンスではいけない。勉強を避けてはいけない。」というお話をしました。

私自身自戒の念を込め、そうだな。と思っていたのですが、なんとなく理解したつもりで、具体的になぜプログラミング勉強しないといけないのか理解していなかったため情報をあさっていたところ…見つけました。いやあ、探せば見つかるものですね。

シリコンバレーエンジニア酒井潤チャンネル - シリエン戦隊JUN TV

の中に、その答えが明確に語られている動画がありました。

ポイントを要約しつつ、プログラミングがわからない人がエンジニアを管理することの弊害について考察してみました。
  

コードがわからないと、進捗度合いしか評価できなくなる

 
アジャイル開発などテックの潮流になっているシリコンバレー。そのシリコンバレーで実際に働くエンジニア・酒井潤さんのYOUTUBEチャンネルでは、シリコンバレーエンジニアの実際についてさまざまな角度からお話してくれています。

「きっと難解な技術の話をされていてわからないんだろうな…」という偏見からこれまで拝見していなかったのですが「プログラミングはどこの部分から書くのか」という動画を見つけ、気になり見てみたところ…いま一番知りたかった情報についてお話されていました。

ちなみに酒井さんのYOUTUBE、技術にくわしくない人でもわかりやすく面白いです。ドメイン駆動設計というすこし難しいトレンドワードについてもお話されている動画がありましたが「難しい言葉を使って市場を創っている人がいるだけで、あまり気にしなくていいですよ。」というようなことをおっしゃっていて、本質的な方だと感じました。示唆に富んだお話が多く勉強になりますので、みなさまもぜひ。
 

進捗度合いしか評価できない日本、本質を評価できるアメリカ

今回参考になった動画がこちら
 

 
非常に面白い内容です。15分39秒の動画なので、通勤時間などにぜひ。

話のポイントをざっくりと要約しますと、上司や経営陣がプログラミング技術に対しての理解がないことで起きる一つの弊害について、とても明確な答えを述べている内容です。

日本は、管理する側の人たちがコード・技術を理解していない傾向があります。マッキンゼーも「欧米の経営者はテクノロジーの勉強を率先してするが、日本はしない。テクノロジーは専門家にお任せ、という人が多い。」と言っています。

管理する人たちがコードを理解していないとなにが起きるのか。コードを組む人たちは進捗度合いを稼ぐことに焦点がいくようになるため、まずは簡単な部分から手を付けるようになります。すると、難しいコア部分が後回しになります。ここが重要な違いです。

難しいコア部分が後回しになることで、大きな問題が中盤以降にたくさん出てきてしまう状態が生まれます。動画ではおっしゃっていませんでしたが、コア部分なのでおそらく全体に関わる致命的なエラーもたくさん起きてしまうのでしょう。

まとめると、日本は管理する側の人たちがコードを理解していないため、進捗度合いしか評価することができず、結果コア部分が後回しになる傾向があるということです。

対するシリコンバレーはどうか。当然コードが分かる人が上に立ち、プロジェクトを管理します。コードが分かるため、コアの部分を先にやらないと大変なことになることを理解しています。そのためまずコアに取り掛からせ、難しいことも理解しているため、進捗が悪くても調整してくれます。逆に簡単なところから手を付けると怒られるそうです。

上がコードを理解しているかいないかで、これほどまでに違いが起きるわけです。

さらに面白かったのは、評価される人も変わってくるという点です。

日本では上記のような事情から、簡単な部分を早く、たくさん作れるエンジニアが評価されてしまいます。そのため、簡単なことしかできない人が上にいってしまうという構造になります。

シリコンバレーでは360度評価を取り入れ、同僚や部下からもフラットに評価させる仕組みを整えることで、コードを理解してない人が上にいかないようにしています。同僚・部下から見れば、簡単なことを早くたくさんやる人よりも、難しいことに取り組む力がある人の方が価値が高いことは一目瞭然です。

DXにおける組織変革文脈で、評価制度の変革についても言及されていますが、評価がこれほどまでにさまざまなことに影響してくることがわかるお話でもありました。
 

現場を知らない上司がはびこる日本

 
このお話、日本ではエンジニアに限らず、あらゆる領域で起きている事象ではないでしょうか。

つまり、現場をよく理解してない上司の量産による、コア軽視・表面的なビジネスの蔓延です。

前回WEBマーケティング領域についての記事でも、そのことについて触れていました。(ご参照「WEBマーケティングの観点から見える、DXの落とし穴。」) 『ファンダメンタルズ×テクニカル マーケティング』の著者・木下さんによると、世の中のWEBマーケターのほとんどがテクニカルオペレーターになり下がっており、WEBマーケターとテクニカルオペレーターの違いは、ファンダメンタルズ・いわゆる本質的なマーケティングの不在にあるというお話です。
 

引用:『ファンダメンタルズ×テクニカル マーケティング Webマーケティングの成果を最大化する83の方法』出版:実業之日本社 著者:木下勝寿 (本文中の図を引用し、読者の解釈を助けるために情報を補足して作成)

ファンダメンタルズ部分のメインとなるのが「情報収集」「コンセプト設計」です。ここに99%の時間を費やしているのですが、実務を経験したことがない人が上に立つと、この2つに時間がかかることが理解できません「いいからメリットを並べてさっさとLP作れ」になります。「情報収集」「コンセプト設計」にかける時間は与えられず、結果表面的なクリエイティブが量産されることになります。似たようなWEB広告が蔓延しているのはこうしたメカニズムです。

日本の大手SIerに所属するPMも、エンジニア経験を十分積むことなく2~3年でベンダーの管理に回され、実質技術的なことはエンジニアたちに丸投げしているという話は有名です。

日本はまだまだ実力社会ではなく学歴社会です。学歴を積んだら現場経験はそこそこに、早めにマネジメント側に就くことが王道になっています。対するアメリカは、ちゃんと実力がある人だけが上に行く流れを徹底して作っている様子です。日本の経済成長率が低いと言われますが、そうなってしまうのは当たり前なのではないでしょうか。
 

まとめ「属人性の排除…だいじょうぶか?

 
上がコードを理解しないことが、どんな悪影響を生み出してしまうのかについて、シリコンバレーエンジニア酒井潤さんのYOUTUBE動画を題材にお話してきました。

●コードが分からない人がエンジニアを管理すると、プロジェクト進捗率しか評価できない。簡単なところばかり手を付けて進捗率を稼ぎ、むずかしいコア部分を後回しにしがち。
●シリコンバレーではコードが分からない人が上に立たないように、360度評価などを用いて徹底して仕組みづくりをしている。
●この問題はエンジニア領域に限らず、日本のあらゆる領域で起きていること。

「デジタル化による属人性の排除」もまたよく出てくるDXキーワードです。属人性の排除をもう少しかみ砕いて言うと「未経験でも、経験者と同じ仕事がなんなくできる状態」のことを指していますが、今回のお話を聞き、さらに不安になってきました。

DXの源流となっているシリコンバレーですら、コード理解が確かな人・むずかしい部分に取り組むことができる人、つまり経験を十二分に積んでいる人しか上にあげない仕組みを作っているというのに、属人性の排除を目指す日本のDXが向かう先は「経験を積まなくても活躍できる」世界です。結果、経験を積むという行為が敬遠され、違いを作り出すことができる人間がさらに減り、世の中表面的なテクニカルな仕事・同じような仕事が蔓延することになるのではないでしょうか。

VUCA時代への対応、ビジネス構造の改革による環境問題の改善、少子高齢化、デジタルディスラプターなどDXに取り組む理由はさまざま言われていますが…DXに持っていきたいからからこれら理由が後付けされている可能性も否めなくはない中、本音は人々の「ラクしたいから」というインサイトが過剰にDXを押し上げているのだとしたら危うさを感じます。

ただし、スケジュールドリブン・利益ドリブンで表面的なビジネスが横行してしまう世界の破壊は、私自身も賛同するところです。
 

 

執筆者
リビルダーズ編集部

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