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DXは「やらなければいけない」のか?

 
「やらなければいけない」DX。

この「なければいけない」という強い強制感はどこから生まれているのでしょう。

どうやらその一旦を担っているのは「環境問題」のようです。

SDGsなどと言われていますが、いわゆる資本主義のビジネス構造が無駄なモノ・サービスの量産につながり、環境破壊につながっていることが問題視されています。DXは、このビジネス構造を変革する手段の一つとして挙げられています。

ですが、どの程度環境問題が深刻なのか、みなさんご存じでしょうか。

人新世の「資本論」 発行:集英社新書 著者:斎藤幸平

こちらの本にその深刻度合いが赤裸々に書かれていました。

こちらの本を皮切りに、本当にDXは必要なのか、環境問題をテーマに考察してみました。
 

SDGsは大衆のアヘン【本の概要】

 
本書の趣旨を一言で述べると「環境破壊は新技術の発展などで止めることはできない。経済成長をやめること以外選択肢はない。」です。

産業革命以降、石炭や石油などの化石燃料を大量に使用することで劇的に増加し続ける二酸化炭素排出量。2016年には、現在よりも平均気温が2~3度高く、海面も6m以上高かった400万年前と同水準の二酸化炭素量に達しました。

こうした問題から眼をそらさず、正面から取り組む潮流の一つがSDGsです。地球温暖化防止活動を軸とした「持続可能な社会の実現」を目指した目標が2015年9月に国連総会で採択。17の世界目標・169の達成基準・232の指標が設けられました。

しかし本書では、SDGsで定められた目標では地球環境は改善されない。SDGsはアリバイ作りのようなもので、目下の危機から目を背けさせる効果しかないとし、いかに環境問題改善がまったなしの状態であるのかを伝えています。

気候変動の経済学を専門分野としノーベル経済学賞を授賞したウィリアム・ノードハウスは「気候変動を心配しすぎるよりも成長を続けたほうがいい。より高度な技術を用いて気候変動に対処できるようになる。」と主張し、批判を集めています。

ノードハウスが提唱した施策による二酸化炭素削減率では、2100年までに平均気温が3.5度上がることになり、アフリカ・アジアの途上国に壊滅的な被害を与えることになります。

つまりニードハウスの主張は、それまでに新技術が開発されていることを織り込んでいるのですが、技術に出来ることは問題の先送りであり、先送りしている間に以前の状態に戻れなくなる地点「ポイント・オブ・ノーリターン」を迎えてしまうということです。
 

現実的でない脱資本主義の代替案がDX?

 
資本主義は「貧しい国から搾取して富を得る仕組み」とも言えます。

グローバル化によって被害を受ける地域のことを「グローバル・サウス」と呼び、利益を得る地域を「グローバル・ノース」と呼びます。

たとえば、服の原料である綿花はまさにグローバル・サウスの一つである、インドの貧しい農民たちが作っています。

綿花によって収益を得ているのだから全員ハッピーになっていいのではと思われるかもしれませんが、実情は異なります。

需要増大に対応するために、遺伝子組み換え綿花を導入する必要があり、その種や化学肥料を毎年農民たちに購入させているのですが、ひとたび干ばつや熱波で不作になると農民は借金を背負うことになり、自殺に追い込まれてしまいます。温暖化が進めばこうした状況はさらに深刻化するでしょう。このように、服、食品、あらゆるものはグローバル・サウスから搾取することで獲得している富だということです。

そして、この搾取の過程で大量に発生するのが二酸化炭素です。化学肥料は製造過程で多くの二酸化炭素が発生します。さらに、森林を伐採し農地化することで二酸化炭素を吸収する力がどんどん弱まってしまう。ゆえに温暖化が進むというループが出来上がります。

この状態を解決する手段として期待されるあたらしい技術ですが、その技術もまた、二酸化炭素排出量を増大させます。

電気自動車は原料の採掘に石油が必要になり、二酸化炭素が排出されます。それでも世の中の車がすべて電気自動車になれば車からの二酸化炭素排出量は減少するので、進めたほうがいいはずですが、すべて電気自動車になったところで削減される排出量はわずか1%。製造過程で発生する二酸化炭素のほうが多く、結局総排出量は増えてしまいます。

IoTも、脱物質化した経済システムを創る手段として注目されていますが、電気自動車と同じく製造・稼働時に膨大なエネルギーと資源が消費され、二酸化炭素が排出されます。

結局、あたらしい技術は問題の先送りにしかならず、残すは脱成長・脱資本主義以外やりようがない、とは言え今さら脱資本主義はあまりに現実的ではないため、ビジネス構造そのものを変革しようというのがDXの文脈のようです。
 

環境問題はウソ・心配いらないという反論もあり

 
本書、環境問題の全容が詳細に把握できる本なので、ぜひ一度読んでみていただければと思いますが、実はこの環境破壊の話には反論も多く存在します。

環境問題の象徴的人物としてよく挙げられるスウェーデン高校生環境活動家のグレタ・トゥンベリさんという方、ご存じでしょうか。国連気候行動サミットで「大絶滅を前にしているというのに、あなたたちおとなはお金のこと、経済発展がいつまでも続くというおとぎ話ばかり。私はあなたたちを絶対に許さない。」と演説し、若者たちから熱狂的に支持され、アメリカのタイム誌で2019年・今年の顔に選ばれた人です。

そのグレタさんを「国連から多額のお金をもらっているインチキな人」と一刀両断、環境問題で心配されているようなことは起きないと主張する大学教授・武田邦彦さんは「生物が反映するためにはむしろ二酸化炭素が必要で、いまは二酸化炭素が少なくなっている」「石油はなくならない」「温度が高くなると言ってるが、平安時代はいまよりもっと温度が高かった」「リサイクルは機能してない・さらにそれでビジネスする人が増えてるだけ」と、ファクトをもとに真向否定しています。著書を読んでみるとなるほど、環境問題を振りかざすことでビジネスにつなげようとする裏の動きの存在を感じられる内容です。
 

読み取るべきは、正しい情報よりも潮流

 
おそらくどの情報・どの説にも、一定のファクトと正しさが含まれているのだと思います。どんな主張であれ、それを裏付けるファクトというのは存在します。あらゆる主張に説得力を持たせるプロフェッショナルとしてコンサルタントという職業も存在します。

もちろん、本当にしっかり比較検討すれば何が正しいか証明することもできるかもしれません。しかし何が正しくて正しくないかよりも重要なのは、世界の人々はいま何を支持しているのかを知ることです。

環境問題の改善については良くも悪くも多くの若者が支持しており、先に挙げたグレタさんを支持するミレニアム世代の団体が世界中に広がっていたりします。そんな中、日本は二酸化炭素の排出量が世界で5番目に多く、また、二酸化炭素に対する取り組みも遅れているという事実があります。数十年後、ミレニアル世代が権力を持ち始めたとき、日本は干されてしまう可能性は否めません。
 

引用:日本エネルギー経済研究所計量分析ユニット編『EDMC/エネルギー・経済統計要覧 (2020年版)』

 
そういった意味ではやらなければいけないことになってしまっているのがDXという見方もできます。そして極論を言えば、環境問題の話はDXを進めたいがゆえのひとつの根拠材料になっている可能性もあります。

コロナが大きな問題になりましたが、年間死亡者はインフルエンザのほうが多い中、なぜあれほどコロナだけが連日報じられたのか。リモートワークやITの普及に使われた側面はゼロではないはずです。

つまり、人々が支持したいものが先にあり、その支持したいものを裏付ける論拠をメディアが報じ世間の常識になっていくということです。DXも人々が支持したいものの一つ。誰がやりたいと思っているのかを考えていくと、またあたらしいDX論が見えてくるのではないでしょうか。
 

まとめ「DXとは一人ひとりが考えを巡らせる社会の再構築」

 
環境問題に焦点を当て、なぜDXはやらなければいけないのか考察しました。

●SDGsを達成したとしても地球環境は改善されないほど、悪化が進んでいる。
●あたらしい技術も問題の先送りにしかならない。脱資本主義が叫ばれる中、現実的な解として登場しているのがDX。
●という説もあれば、環境問題なんてウソだという主張もある。結局、世の中はいま何を支持しているのかを読み取ることが重要。

今回のお話、結論はありません。

ですが、結論を出すことが難しいことを、一人ひとりが情報を拾い自律的に考えていくことこそがDXが目指すビジネス構造の一つなのではないでしょうか。

資本主義のビジネス構造は、資本を持つものが考え、その考えを多くの人間に分業で実行させる仕組みです。ですがDXの1つの柱であるアジャイル開発は、ユーザーと接点を持つ人間が自律的に考え、ビジネスを遂行していく仕組みです。

上から降りてくる指令を待つのではなく、自分で情報を拾い考えることが求められるということです。「DXって環境問題が発端になってるらしいよ」で終わらせず、本当に環境問題ってそんなにひどいのか?ということを自分で探ろうとしないうちは、自律的に考える人にはなりえません。

日本のDXが推進しないのは、経営者が失敗を恐れるからだ、という話がありますが、もしかしたら経営者は、環境問題などを笠に着てDX推進しようとしている、世の中の裏の流れを静観しているのかも知れません。

そうした経営者たちと渡り合っていくという意味でも、世の中でよく言われている情報だけを鵜呑みにせず、より本質的な情報を探り学んでいくことが必要であり、そういった姿勢こそがDX人材に最も必要な資質なのではないでしょうか。
 

参考:
『進化するデジタルトランスフォーメーション Beyond 2025』 発行:プレジデント社 著者:松井 昌代
『人新世の「資本論」』発行:集英社新書 著者:斎藤幸平
『今、心配されている環境問題は、実は心配いらないという本当の話』 発行:山と渓谷社 著者:武田邦彦
 

 

執筆者
リビルダーズ編集部

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