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デジタライゼーションとDXのちがいって?

 
「どこまでやったらDXと言えるの?」

…これまでDXの理想はプラットフォーマーになることだとお話ししてきました。ですが突然「DXとはGAFAである!GAFAを目指せ!」と言われても、あまり現実味がなく途方に暮れてしまいますよね。

もっと現実味のある、デジタライゼーションとDXの間ぐらいのDXについて調べてみました。

『DX CX SX 挑戦するすべての企業に爆発的な成長をもたらす経営の思考法』 発行:クロスメディア・パブリッシング 著者:八子知礼

より具体的で、現実味のあるDX理解が進む著書です。

今回は「日本のDXは遅れてる!」と言いますが、さまざまな事例が掲載されており、日本もなかなかDX進んでいるんだなということが分かる名著です。
  

デジタライゼーション ≒ デジタルツイン【本の概要】

 
デジタイゼーション → デジタライゼーション → DX

経済産業省のDXレポート2にも書かれているDXの進め方ですが「デジタライゼーション」が若干分かりづらさを残しているがゆえに、DXとの違いもぼんやりしています。

本書では「デジタルツイン」というキーワードを使い、デジタライゼーションを明確に説明してくれています。

デジタルツインとは「現実空間のさまざまな事象・状態・環境をデータでとらえ、そのデータをもとにデジタル空間上に同一条件の環境を構築すること」です。
 

引用:『DX CX SX 挑戦するすべての企業に爆発的な成長をもたらす経営の思考法』 発行:クロスメディア・パブリッシング 著者:八子知礼 (本文中の図を引用し、読者の解釈を助けるために情報を補足して作成)

 
デジタル空間に「仮想現実」をつくることでシミュレーションを可能とし、変化への対応・業務の改善・トラブルへの対応策検証などができるようになります。

たとえば農業。

農場にセンサーなどを取り付けることで、作物の育成状況・気象情報・環境情報をデータで取得し、AIで分析。作物の育成状況と気象情報の因果関係などを割り出すことができ、適切な育成方法がわかるようになります。それによって、経験が浅い農業従事者でも、ベテランと同じように作物を育てることができるようになります。

デジタル空間でシミュレーションし、現実空間に落とし込んでいくことで効率化を図る。この状態をつくることをデジタルツインと呼びます。

そしてデジタルツインは、デジタイゼーションによって「デジタル空間で試して、現実空間に落とし込んでいく」というビジネスモデル変革を起こすことを指します。

グーグルも現在自動運転開発に乗り出していますが、現実空間での実験走行距離は3200万キロメートルであるのに対し、デジタル空間では1700億キロメートルと…5000倍以上デジタルでシミュレーションを重ねています。

宇宙事業も同様、宇宙空間でシミュレーションすることが出来ないため、デジタル空間でのシミュレーションがメイン。

本書ではこのデジタルツイン・デジタライゼーションのノウハウを外販することが「新規ビジネスモデル」の構築であるとし、その段階をDXとしています。DXは「既存ビジネスの延長線ではない、新規ビジネスモデルの構築」なので、たしかにその定義は当てはまります。

もちろん、デジタライゼーションにも様々な考え方が存在すると思いますが、デジタルツインという考え方は一つの非常にわかりやすいフレームワークです。
 
 

デジタライゼーションでもここまで変わる

 
まだ明確にイメージできていないと思います。もう少し具体的に、デジタライゼーション事例を見ていきます。
 

①1週間以上かかっていた工程を1日に縮めたミスミ

製造機械の部品販売を手掛ける、製造業向け専門商社のミスミ。1963年創業の老舗ですが、見事デジタイゼーション・DXを果たしています。

1点1点、イチから特別受注・設計する業務であることから、提供まで時間がかかっていました。

この課題を2つのデジタライゼーションで解決しています。
 

a) WEBカタログ化
注文を受けるパターンはある程度決まっているため、基本パターンをWEBカタログ化。(デジタイゼーション)  そこから選択し、微調整は指示するというオペレーションに切り替えることで提供時間と自社工数を大幅短縮。部品の半分はこの方式でカバーすることができました。(デジタライゼーション)

b) 特注部品専用システムの開発
残り半分の部品はイチから設計が必要な前例のない部品。この部品提供も効率化するために、顧客から入稿された部品の3Dデータを実際製造できるか判定し、見積もりを創るAIを搭載したシステムを開発しました。AIが、このままでは製造できないと判定した場合「ねじ穴の位置を外周より3ミリ放してください」とアドバイスする機能もついています。(この事例はデジタイゼーションとデジタライゼーション両方同時に実現しています)

これらデジタライゼーションによって、顧客への提供時間を大幅短縮。以前は製造可能かどうかのチェックに3日、製造不可で設計変更必要なら3日…とさまざまな要因が重なり1週間以上はかかっていたところ、1日で完結できるようになりました。

引用:『DX CX SX 挑戦するすべての企業に爆発的な成長をもたらす経営の思考法』 発行:クロスメディア・パブリッシング 著者:八子知礼 (本文中の図を引用し、読者の解釈を助けるために情報を補足して作成)

本書ではDX1.0をデジタイゼーション、DX1.5をデジタライゼーションとし、その先にDX2.0以上 本格的なDXフェーズに入っていくという風に説明しています。

ミスミがこのシステムを外販することで「部品販売のプラットフォーマー」となり、DX (DX2.0) を成し遂げたと言えるようになります。

このシステムを創るに至るまでの経緯・ノウハウなどを書籍にまとめて売るという方法もありますが、それでは業務内容は部品販売企業のままになるのでDXとは言えず、デジタライゼーション止まりということになります。

ちなみにDXは「メーカー最上流構造からの脱却」も取り組む意義の一つ。そのため、日本においても製造企業のDX化が先行して進んでおり、旭鉄工やコマツなど事例も多く生まれ始めています。
 

②売上を5倍にした老舗食堂ゑびや「EBILAB」

 
製造業以外、飲食業界のDX事例として注目されているのが、伊勢神宮の参拝道にお店を構える創業百年の老舗食堂ゑびやです。

ゑびやは2012年時点では年間売上約1億円でしたが、デジタライゼーションによって売上5倍化に成功。来客予測数も95.7%的中させ、食材廃棄ロスを72.8%削減、スタッフがアイドルタイム (持て余してしまう時間のこと) を1/4に削減するなど、デジタライゼーションの代表的な成功事例です。

はじめは、エクセルでの数値集計やPOSレジの導入からはじめ、徐々にデジタライゼーションを進めていきました。店舗の外にIoTカメラを設置し通行人の人数と属性をし、POSレジのデータ・天候・カレンダーなどの情報と組み合わせたデータをAIで分析。次の日の天候やイベントなどを入力することで、かなり正確に来店客数を予測することができるようになり、上記のような成果につなげています。ちなみに、ゑびやのスタッフ年間あたりの売上は1073万円。23歳で月給30万円強で残業なしという高待遇も実現したそうです。

ゑびやはこのシステムを外販する企業「EBILAB」を設立。国立研究開発法人NEDOに登用され、三菱地所の丸の内エリアでの実証実験に使われるなど、多くの企業に導入されているそうです。
 

どの企業もデジタル化はマストになっていく理由

 
ミスミ、ゑびやと国内DX事例をご紹介しました。

お気づきになられたと思いますが、どちらの事例も業務を自動化する上でAIを導入していますが、AIを導入しただけではDXではなくデジタライゼーションです。本書では、デジタライゼーションで構築したシステムとノウハウを外販することでDXに至ると一つの例として紹介していますが、つまり既存事業の効率化など既存事業の延長線上の改善はDXではないということです。

さて、本記事では「すべての企業がDXを進めなくてもいい」と主張してきましたが、デジタライゼーションの前段階、デジタル化はマストで進めておかないとこれから生き残りは厳しくなるかも、というお話をさせてください。

FANUCという工作機械の製造企業の例です。
FANUCは、FIELDシステムという製造業向けIoTプラットフォームを運営している企業で、このシステムを導入することでFANUCのIoT工作機械から吸い上げたデータをAIで解析することができ、故障予知などのシミュレーションが可能になります。

ポイントは、FANUCに工作機械の部品を納入している下請け企業に対し、FANUCから徐々にデータの提示・相互連携を求める動きが自然発生していく点です。

FANUCとしては、FIELDシステムのシミュレーション精度を上げるためにさらにデータが必要になり、部品の出荷数量・納品タイミング・壊れる割合など細かいデータを下請け企業に求めるようになります。

この時、デジタル化が遅れていてデータが出せない下請け企業は取引からはずされてしまう可能性が出てきます。データを出せない=生産工程を数値で管理してない会社という烙印をおされ、製品の品質が担保されてないとみなされてしまいます。

一つの上流企業がデジタイゼーションを行えば、おのずと下請け企業も最低限デジタイゼーションは対応していかなければならない。シビアな状況が迫っていますが、逆にデータをしっかり貯めていることが武器となり、逆に売り込む武器にするなど反撃も可能になります。
 

まとめ「デジタル化も立派なDX」

 
デジタライゼーションとは何かについて、成功事例を交えお話ししてきました。

●デジタライゼーションとは「デジタルツイン」。デジタルでシミュレーションを重ね、リアルに落とし込んでいくビジネスモデルの構築。
●デジタライゼーションでも十分に成果を向上させている事例が数多くある。
●上流がデジタライゼーションを進めていれば、下流もデジタイゼーションはマストになっていく。

「DXとデジタル化はちがう」とよく言われますが、本書では「デジタイゼーションはDX1.0、デジタライゼーションはDX1.5、DXはDX2.0」と定義し、デジタル化もまた立派なDXの一つとして扱っています。

たしかにデジタル化だけでも、これまで数字で管理していなかったことをできるようにすることで、気づかなかった損失・成功ポイントを見出すことができ、大きな成功につながることもあります。

デジタル化止まりと自暴自棄にならず、前向きに取り組んでいくこともまた、DX推進の重要なポイントかもしれません。
  

参考:
『DX CX SX 挑戦するすべての企業に爆発的な成長をもたらす経営の思考法』 発行:クロスメディア・パブリッシング 著者:八子知礼

 

執筆者
リビルダーズ編集部

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