DXナレッジ

「デジタル化」と「DX」の違いについて、とことん、くわしく、わかりやすく解説。

「デジタル化はDXを実現するための手段であり、目的ではない」というよくある説明を、かみ砕いて解説します。
 

「デジタル化」と「DX」のちがい

「デジタル化」と「DX」はまったく別物ですが、混同されがちです。理由は、そもそもDXとはなんなのかが分かりづらく、あいまいな情報が多く出回ってしまっているためです。本記事では、出来る限りくわしく、またわかりやすい平易な言葉で説明してみました。
  

「デジタル化」は、既存のビジネスをデジタル化すること

デジタル化とは「既存ビジネスの業務プロセスをデジタルに変換すること」です。
主な目的は「生産性向上」。デジタル化することで各業務にかかる工数の削減を目指します。
  

①ツール導入によるデジタル化
Gmai、Slack、Zoomなどツールを導入することによって「既存ビジネスの業務プロセスをデジタルに変換すること」もデジタル化です。

情報伝達手段のデジタル化
 ex) 手紙、FAX、オフライン会議 → メール、チャット、オンライン会議

事務作業のデジタル化
 ex) 紙の契約書 → 電子契約書によるオンライン完結

業務のデジタル化
 ex) 営業業務 → EC、ウェビナー

各業務にかかる工数を大幅に削減することができます。
 

②ゼロからシステム構築するデジタル化
センサー、IoT、アプリなどを活用しシステムを構築することによって「既存ビジネスの業務プロセスをデータ化し、デジタルに変換すること」もデジタル化です。
会社ごとに取り組む内容は変わってきますが、例えば

製造工程をデジタル化
 センサー・AIを活用して不良品を見分けるシステムを構築
 → 検査員が不要になることによる、人件費削減

通行人情報をデジタル化
 屋外カメラ・AIを活用してお店の前の通行人数をカウントするシステムを構築
 → 通行人数と売上の相関関係を把握することによる、材料発注量の適量化

このような取り組みが「DX事例」として紹介されていることがありますが、既存ビジネスのデジタル変換なので、正しくは「デジタル化事例」です。
 

「DX」は、これまで世の中になかったビジネスを産み出すこと

DXとは「デジタルを活用することではじめて実現できる、これまで世の中になかったビジネスを産み出すこと」です。
対してデジタル化とは「既存ビジネスのデジタル化」なので、DXとデジタル化はまったく別の言葉になります。

TOYOTA
 これまで→自動車メーカー
 DX→人々の「移動」をもっとカンタンにするビジネス
 (自動車製造だけでなく、アプリ開発や街づくりなどまで手掛け「人々の移動」を進化させるビジネス)

SUNTORY
 これまで→飲料品を製造販売するビジネス
 DX→ビジネスマンに健康習慣を根付かせるビジネス
 (飲料品製造だけでなく、アプリ開発やクライアント企業の福利厚生サービス開発などまで手掛け「ビジネスマンの健康状態を底上げ」するビジネス)

コマツ
 これまで→パワーショベル・ブルドーザーなどの建機メーカー
 DX→建設現場で働く人々の安全性と生産性を飛躍的に高めるビジネス
 (建機製造だけでなく、IoTやドローンを活用した建設現場の3Dデータ化までを手掛け「建設現場の仕事」を進化させるビジネス)

「新規ビジネスを作ること」と言うこともできますが、それが「企業視点での新規ビジネス」の場合、DXとは呼べません。そもそもDXは「ユーザー視点への回帰」が命題の取り組みだからです。

よく「DXとは競合優位性を確立すること」という情報を見かけますが、競合ばかりを意識して、ユーザー視点が抜け落ちてしまえばDXではなくなります。ユーザーが「こういうサービスが欲しかったんだ」と言ってくれる、これまで世の中になかったビジネスの創造こそがDXです。

詳しくは下記「「DXとは」をもう少し詳しく」でお話します。
 

先端技術を使っている=DXではない

ポイントは、RPAやAIなど先端技術による業務自動化もデジタル化であるという点です。技術がなんであれ「既存ビジネスのデジタル化」であれば、DXではなくデジタル化です。

コマツの例を使い、もう少し掘り下げてお話します。
DX事例としてよく取り上げられる建機メーカーコマツですが、コマツの取り組みすべてをDXだと捉えてしまうと「なにがデジタル化でなにがDXなのか」分かりづらくなります。

以下、コマツの取り組みを [ デジタル化 ] と [ DX ]で分類します。

[ デジタル化 ]
自社の建機40万台に搭載したIoTから得られるデータを活用して、
・常時管理を可能にした。
・盗難や暴走などトラブル発生時には、遠隔操作でエンジンカットできるようにした。
・建機の老朽度合いをデータで把握、修理・交換タイミングがわかるようにした。

[ DX ]
自社の建機40万台に搭載したIoTから得られるデータを活用して、
・サポートセンターからの遠隔ガイドによって、建機の運転免許取り立ての新人でも経験者と同等の仕事ができるようなオペレーションサービスを開始した。
・建築現場を3Dデータ化することによって、現場監督がカンタンに現場全体の状況をリアルタイムで把握できるプラットフォームサービスを開始した。

[ デジタル化 ] が自社の既存ビジネスの効率化、[ DX ] はあたらしいビジネスの構築であることがお分かりいただけるでしょうか。

[ デジタル化 ] の事例は、新しい技術を導入しているインパクトや、短期的成果につながりやすく分かりやすいため「改革」と捉えられてしまいがちですが、既存のビジネスの効率化止まりのモノはDXではありません。
   

「デジタル化」は、「DX」の第一歩

ただし、デジタル化なくしてDXは成り立ちません。上記コマツの例で言えば

① [ デジタル化 ] 建機にセンサーを付けた
② [ デジタル化 ] センサーによって建機の動きが遠隔で把握できるようになった
③ [ DX ] 遠隔データを利用して「サポートセンターが遠隔ガイドするサービスを開始」したことで、免許取り立ての新人でも十分な仕事ができるようにした

デジタル化とDXは別物とお話ししましたが、デジタル化はDXの第一歩であり一部です。

また、デジタル化によって既存ビジネスの生産性が向上しなければ、本格的にDXに取り組むことはできません。日々の短期的な成果をおざなりにしてDXに取り組めば、企業は倒産してしまうからです。
 

「DXとは」をもう少し詳しく

「デジタル化」と「DX」、それぞれゴールとスケールが違うことがイメージできたかと思います。ここからさらにイメージが明確になるよう「DXが指す変革のスケール感」についてお話していきます。
 

DXの理想は「点のビジネスから、線のビジネス」への変革

DXとは「これまで世の中になかったビジネスを創っていくこと」とお話しました。
もう少し具体的に言うと、
DXとは「ユーザーの目的達成に伴走するビジネスを創っていくこと」です。

引用:UXグロースモデル アフターデジタルを生き抜く実践方法論 日経BP 著者:藤井 保文・小城 崇・佐藤 駿 (本文中の図を引用し、読者の解釈を助けるために情報を補足して作成)

 
従来のビジネスは「ユーザーの目的達成に役立つモノ・サービスを提供し、目的達成が実現できるかどうかはユーザー次第」という「点のビジネス」でした。

DXが目指すのは「ユーザーの目的達成を実現させるために、モノ・サービスだけでなく、アプリや対面コミュニケーションなどあらゆる手段を組み合わせて貢献」していく「線のビジネス」です。「ユーザー体験の創造」という言い方もされます。

TOYOTAのDX
 「自動車」「アプリ」「街づくり」といった点をつないで、誰しもがこれまで以上にカンタンに、スピーディーにどこでも行けるユーザー体験を作る線のビジネス
 
SUNTORYのDX
 「飲料品」「アプリ」「自動販売機」といった点をつないで、ビジネスマンがどんどん健康になっていく世界を作る線のビジネス
 
コマツのDX
 「建機」「センサー」「3Dデータ管理ツール」といった点をつないで、建築にかかわるすべての人の仕事の生産性を高める線のビジネス (こちらの動画を見るとわかりやすいです。https://youtu.be/tEMO4Xt-gBw )

DXとは「点のビジネス」から脱却し「線のビジネス」に変革すること。「線のビジネス」に変革することで、ユーザーの目的に伴走する企業になるということです。
 

ただしすべての企業が、線のビジネスに変革できるわけではない

「線のビジネス」を提供していく企業を「プラットフォーマー」と呼びます。

プラットフォーマーと言えばGAFAが代表例として挙げられますが、いま世界の時価総額ランキング上位はほぼプラットフォーマーで埋め尽くされています。

プラットフォーマーが強い理由は「ユーザーと直接接点を持ち、ユーザーの行動データが最も集まる存在だから」。かみ砕くと「ユーザーのニーズを最も理解している存在だから」です。

下記図をご覧ください。
 

引用:UXグロースモデル アフターデジタルを生き抜く実践方法論 日経BP 著者:藤井 保文・小城 崇・佐藤 駿 (本文中の図を引用し、読者の解釈を助けるために情報を補足して作成)

 
今後、ビジネス構造はユーザーニーズを最も理解しているプラットフォーマーが最上流ポジション、その下にプラットフォーマーが必要としているサービスやモノを提供していく企業が連なると予想されています。すでに世界ではこの構造変化が起きているからです。

TOYOTA・SUNTORY・コマツがイチメーカーを脱却し、プラットフォーマーへの転換を図っているのは、このビジネス構造変化に対応するためです。ですが、すべての企業がプラットフォーマーになることは難しいです。アプリ開発やその他領域に多くの予算が必要になるからです。

「DXは100年に一度の大変革」と言われることから、プラットフォーマーを目指すことがDXであるかのように聞こえますが、そうではありません。プラットフォーマーはあくまでDXが目指す「理想像」です。

プラットフォーマーが必要とするサービスを提供する「サービサー」、モノを提供する「メーカー」を目指すこともまたDXです。

コマツは「建築にかかわるすべての人の仕事の生産性を高める線のビジネス」を展開するプラットフォーマーですが、線を作るための点であるサービスやモノは他社が開発・製造しています。

ドローンや3Dシミュレーションシステムを作るメーカーや、新人に遠隔ガイドするカスタマーセンターなどのサービサーがいることで、線のビジネスが実現できているわけです。

DXとは、この新しいビジネス構造に適応する企業になっていくことでもあります。つまり、プラットフォーマーになっていくことだけがDXなのではなく、サービサー、メーカーになっていくことも含んでいるということです。

すべての企業がプラットフォーマーを目指すというのは非現実的ですし、そこを安易に目指すことで倒産のリスクが高まります。まずは自社が目指すべきポジションを策定することからはじめるべきです。
 

いずれにしても、デジタル化は必須

プラットフォーマーを最上流とするビジネス構造に適応するサービサー、メーカーになっていくために最低限必要なことが、デジタル化による「スピード」と「柔軟性」の獲得です。

ユーザーの目的達成に伴走するプラットフォームビジネスは、ユーザーからの頻繁なフィードバックやニーズ変化に応えていくビジネスです。スピードと柔軟な対応力を持つ企業でなければ、このビジネス構造の中で生き残っていくことはできません。

ちなみに、下記記事では「DXは3段階ある」とし、デジタル化はDXの第1段階であるとしています。
国立情報学研究所 オープンサイエンス基盤研究センター「デジタル化とDXの違い」

この記事の意見になぞらえると、
 

DX第1段階 物理世界のワークフローがオンラインに移行
デジタル化

DX第2段階 デジタルの特性で可能となる新たな機能が追加
サービサー・メーカー

DX第3段階 物理世界には存在しないサービスやワークフローがオンラインで実現
プラットフォーマー

と言えます。いずれにしても、デジタル化は取り組んでおくべき重要課題ということです。
 

デジタル化のメリット

デジタル化の主な目的は「生産性の向上」と言いましたが、もうすこし具体的に解説していきます。

①業務の効率化
デジタル化することで、工数を削減することができます。
・書類をデジタル化することで印鑑や署名が不要になり、手続きがオンライン上で完結
・RPAを使うなどして作業を自動化することで、スピードアップ・ミス削減
人の工数を削減することができ、人は人にしかできない業務に集中できます。

②働き方の自由化
出社せずともリモートで働くことができ、場所・時間問わず働けるようになります。
労働人口が減少していく日本では、優秀な人材ほど複数社から仕事を依頼されるケースが増えていきます。「副業不可・出社前提」の企業からは、優秀な人材が遠ざかっていく可能性も出てきています。

③業務継続力の向上
業務データをGoogleドライブなど外部保存しておくことで、トラブルが発生しても業務継続が可能になります。今回のコロナなど予期せぬトラブルが次々と発生する現代において必要不可欠なメリットです。

このようにデジタル化は既存ビジネスの進化に大きく貢献します。そのため「改革」が達成された感覚になり、この段階でストップしている企業が多いのが実情です。
 

デジタル化には2種類ある

実は、デジタル化には「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」の2段階があります。

引用:経済産業省「DXレポート2 中間とりまとめ (概要)」 P.25より抜粋

 
①デジタイゼーションとは
アナログ・物理的なモノをデジタル化することです。
たとえば、紙の書類に載っている情報をシステムに入力しデータ化することで、デジタルデータとして扱えるようになります。

②デジタライゼーションとは
デジタイゼーションしたものを成果に結びつけることです。
書類の情報をデジタルデータとして扱えるようにしたその先、そのデジタルデータを、自社でどのように使うかを考え、成果につなげていくことがデジタライゼーションです。

デジタイゼーションし、デジタライゼーションを図ることで、既存ビジネスのデジタル化を完成させ生産性を向上させていきます。

DXは、デジタル化を積み重ねた先にあるということは、ここまでお話してきた通りです。
 

まとめ「言葉の意味を見誤るだけで、DXは失敗する

RPA、AI、ビッグデータ、クラウド、ICT、IoT、API、5G

あたらしい言葉が生まれるたびに「時代に取り残されている」と危機意識があおられてしまいますが、言葉に踊らされず、自社に必要なことだけを見極めて取り入れていくべきです。

そもそも、DXという大本の言葉も疑いをもって見極めるべき。「デジタル化は手段であって目的ではない」とよく言われていますが、DXもまた競争優位性を獲得するための手段であることが忘れ去られているような印象です。

また、DXが絶対命題のように聞こえるよう、情報操作されている印象すらあります。

DXという言葉を提唱したスウェーデンのエリック・ストルターマン教授によると、DXとは「デジタルによって人々の生活に変革が起こること」でした。

ですが、経済産業省・デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)によると、DXとは

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

企業変革を指す言葉に置き換えられています。

企業変革は非常に重要なテーマではありますが、1980年代後半には「SIS (戦略情報システムの略)」ブーム、1990年代後半には「ERP (基幹システム)」ブームとして姿を変え登場しては、大きな爪痕を残してきた歴史を持ちます。

世の中全体が取り組んでいるから、ではなく、自社の戦略上必要だから、と思えるところまで解釈を深めた上で取り組んでください。
 

参考:UXグロースモデル アフターデジタルを生き抜く実践方法論 日経BP 著者:藤井 保文・小城 崇・佐藤 駿

 

執筆者
リビルダーズ編集部

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