とにかくわかりづらいDX。
書店にも関連本がズラッと並んでいますが…
・どの本も同じこと言っている (ように見える)
・著者の営業本だった (どこからどこまでが役に立つ情報なのか見えない)
・専門用語が多すぎてわかりづらい (本質からずれてる気がする)
…などなど、どの本に時間投資すべきか判断がつかず途方に暮れてしまいます。(一冊読み終えるのに1日~数日はかかりますからね…)
本記事では「本質的な目線で選んだ、本当に有効なDXおすすめ本」を精査。本質ズレしないDX推進をサポートできる優秀な本をセレクトしました。
ネット上の情報がDX推進のさまたげになる理由
『日本でDXに成功したのはわずか16%』
マッキンゼー・アンド・カンパニージャパンが公表した衝撃的な数字ですが、なぜDXの成功率はこんなにも低いのでしょうか。(『マッキンゼー緊急提言 デジタル革命の本質:日本のリーダーへのメッセージ』参照 )
DX推進の阻害要因として最も多く挙げられているのが下記2点です。
・管理職のITリテラシー不足で理解が得られない
・現場メンバーを説得できない
意外にも「デジタル人材不足」が最上位の理由ではありません。この2点は「DXが理解できていないことによって起こること」です。
つまり「経済産業省のDXレポートだけでは十分なDX理解は進まない」ということであり、強い言い方をすれば、DXレポートには人を動かすほどの情報は載っていないということでもあります。(理解できる企業だけ対応できればいい、と考えている可能性もありますが)
「DXはデジタル化ではなく、企業変革だ」とも言われます。必要なのはAIの導入やデータサイエンティストの採用ではなく「DXを推進することができる説得力」です。そして説得力を上げるために必要なのが、DXとはなんなのか・なぜ必要なのかの本質的な理解。
ですが、ネット上に落ちている情報の多くが「ウケのいいトレンドキーワード関連情報」「AIを売り込みたい企業の宣伝情報」などであり、本質的な情報は載っていません。それゆえ「栄養価が少ない情報」ということで、ネット上の情報はファストメディアと呼ばれています。
そして、多くの企業の上層部は、時間がないがゆえにファストメディアが情報源となりがちです。結果「他社でやっているからウチも」と安易にITツール導入を決めてしまい現場が混乱し説得が難しくなる、というループに陥っています。
前置き長くなりましたが、本質的な情報を摂取するにはスローメディアの主役である「本」が重要です。出版社と筆者がじっくりと思考を重ね練りこんだ文章を腰を据えてじっくり読み込み向き合うことによって、借り物ではなく自分の言葉でDXを語れるようになり、DXを推進する本物の説得力が生まれます。
本記事では、そんな本質的なDX理解を育んでくれる本を厳選してご紹介します。
【2024年7月時点】おすすめDX書籍 BEST11選
2024年6月までに読み込んだ約50冊のDX関連書籍の中から「これは本質!」と感じた本を厳選しています。コピペ情報一切なし・ドッグイヤーだらけになった本のみです。
「この順番で読めばよかった」と思う順番でご紹介していきますが、もちろん、好きな順番でも良いと思います。
随時更新していきますので、ぜひブックマークよろしくお願いします。
DXを知り始める前に読んでおきたい1冊
「ダメなDX情報」に振り回されないための基盤となる3冊。「なぜDXに取り組まなければならないのか」の前提の前提を知ることができます。「少子高齢化に適応するため」といったよくある言説が、いかに芯を食っていないかわかってきます。
①日経BP 『タイムマシン経営論』【初版:2020年10月12日】
眉唾もののDX情報をフィルタリングする眼を養う一冊
DX本ではありませんが、世の中がいかにフェイク情報に踊らされているかが分かる一冊です。DX関連情報に触れる前にこの本を読んでおくことで、本質的で役立つ情報はどれなのか精査できるようになります。
いまから20年前にも「組織改革」が叫ばれていたこと。結果、DXで問題視されている「レガシー基幹システム」の導入が進んだ経緯など、過去何度もITトレンドに振り回されてきた歴史を知ることで、DX推進の説得力を高めることができます。
おすすめポイントを一言で言うと
DX関連の情報に触れる前に、この本を一冊読んでおくことで本質ズレが防げます。(少子高齢化、デジタルディスラプターといった”借り物の” 説得常套句がいかに本質からズレているかも分かるようになります)
【著者】楠木 建・杉浦 泰
【出版】日経BP社
【定価】2,200円 (税別)
DXをわかりやすく語れるようになるための5冊
「借り物の言葉ではなく、DXを自分の言葉でわかりやすく伝えられるようになる」ための5冊です。
■ 事前準備として ■
これらの本を読む前に「経済産業省 DXレポート」は、一読しておくことをおすすめします。冒頭で「DXレポートに人を動かす力はない」と言いましたが、DXレポートはDXに関連する基礎情報がすべて詰まっている教科書です。
また、DXレポートを読むことで「わかったようなわからないような部分」が生まれ、それらを解消するために以下の本を読むことで面白みが増します。
>DXレポート vol.1 ダウンロード
>DXレポート vol.2 ダウンロード
>DXレポート vol.2.1 ダウンロード
②日経BP社 『マッキンゼーが解き明かす 生き残るためのDX』【初版:2021年8月20日】
DXレポートがさらにわかりやすく頭に入ってくる
DXレポートは「教科書」であり、それゆえに理解できる度合いは人それぞれになると思います。DXレポートで「なんとなく全容は分かった」状態から「個別具体に分かってきた」状態に持っていってくれるのがこちらの本です。基幹システムと攻めのITの関係性や考え方なども、この本を一読することで具体的に分かってきます。
マッキンゼーは組織改革をビジネスとする組織なので、ビジネスにつながるように書いている個所も多く参考にすべき情報を見分ける必要はありますが、よりDX理解が深まる一冊です。
おすすめポイントを一言で言うと
DXレポートがさらに一段具体的に理解できるようになります。
【著者】黒川通彦 (編集), 平山智晴 (編集), 松本拓也 (編集), 片山博順 (編集)
【出版】日経BP社
【定価】2200円 (税別)
>『マッキンゼーが解き明かす 生き残るためのDX』購入はこちら
③日経BP社 『ソフトウェア・ファースト』【初版:2019年10月25日】
「ハードではなくソフトを第一とするビジネス構造に変革すること」がDX
DXレポートに書かれている「ビジネス構造の変革」という、わかるようでわからないあの言葉を「ソフトウェアファーストになること」と簡潔に言い現わしている一冊です。DXレポートに書かれていたことの背景や意味を、よりリアルに理解することができます。
筆者は、MicrosoftやGoogleでプロジェクトマネージャー・エンジニアリングマネージャーだった「エンジニア寄り」の方ですが、エンジニアではない人が読んでも非常にわかりやすいエンジニア本であり、信用できる一冊です。
おすすめポイントを一言で言うと
「DX理解に一本の軸が通る」一冊。あれもDX、これもDXという混乱が整理されます。
【著者】及川卓也
【出版】日経BP
【定価】1900円 (税別)
④日経BP社 『アフターデジタル』1・2【初版:2019年3月25日】
DXとはなにを目指すことなのか「さらに具体的に」分かるシリーズ作
「DXとはソフトウェアファーストになること」であることは分かり、さらに「では、ソフトウェアファーストとは具体的にどういうことなんだろう」とさらに突き詰めた結果、最も満足度が高かった一冊。DXが目指す理想像を、日本で最もわかりやすく伝えています。
海外のDX事例を例に挙げながら「従来のビジネスは”点”のビジネスであり、DXが目指すのは”線”のビジネスである」という説明は非常にわかりやすいです。DXレポートに書かれている「プラットフォーム」「デジタルケイパビリティ」などの言葉も、この2冊で明確に語れるようになります。UXという言葉の意味もわかるようになります。
おすすめポイントを一言で言うと
専門用語をまったく使わずにDXを説明することができるようになります。
【著者】藤井保文
【出版】日経BP
【定価】各2200円 (税別)
>『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』購入はこちら
>『アフターデジタル2 UXと自由』購入はこちら
⑤クロスメディア・パブリッシング 『DX CX SX』【初版:2022年4月1日】
「デジタル化」がわかる一冊
ここまでご紹介した本でDXが目指すその先は明確になるのですが、DXに至るまでのデジタル化 (デジタイゼーションとデジタライゼーション) が見えてきません。そこをわかりやすく、日本の実例をもとに教えてくれるのがこちらの本です。
日本のDX事例の多くはまだまだデジタル化事例です。ですが、デジタル化だけでも相当できることがあることが理解できます。また「データを集めてビジネスにつなげていく」とはどういうことなのか、イメージが明確になります。
おすすめポイントを一言で言うと
日本のDX事例の多くはデジタル化事例であることと、デジタル化とDXの違いが明確になります。
【著者】八子知礼
【出版】クロスメディア・パブリッシング
【定価】各1580円 (税別)
>『DX CX SX 挑戦するすべての企業に爆発的な成長をもたらす経営の思考法』購入はこちら
⑥ディスカバー 『いまこそ知りたいDX戦略』【初版:2021年4月25日】
DXにおける「AIの役割」がわかる一冊
⑤で、デジタル化について知ることができるのですが、デジタル化の重要なファクターとして登場する「AI」にフォーカスを当てている本です。(ここまで読むと、AIはデジタル化の手段の一つであり、AI導入=DXではないことも理解できるようになります。)
DX推進において、AI導入は鬼門です。PoCと呼ばれる試験運用段階で、経営者の理解が得られず打ち切りになりDX推進自体ストップになってしまう傾向があるためです。デジタル化の一手段とは言え、AIに対する十分な理解はDX推進に欠かせない要素です。
おすすめポイントを一言で言うと
AIを知り、付き合い方を理解することで、DX成功率を格段に高めることができます。(AIを導入しないという判断も含め)
【著者】石角友愛
【出版】ディスカバー・トゥエンティワン
【定価】1700円 (税別)
>『いまこそ知りたいDX戦略 自社のコアを再定義し、デジタル化する』購入はこちら
DXをしっかり推進していくための5冊
DXをどのように進めていけばいいのかが明確になる本のご紹介です。傍らに置き、何度も見返しながらDXを進めていくのに適した本です。
⑦日経BP社 『実況!ビジネスチ養成講座 プログラミング / システム』【初版:2022年3月4日】
さてDX推進はじめるぞ!のその前に
テクノロジーについての理解、たとえばプログラミングって結局なにをしているのか・色々な横文字が出てくるけどどういう話なのかの理解がなければまた、DXは進みません。この本一冊で、それらテクノロジーに関する全体理解を明確にすることができます。
DX関連書の中でも、かなり平易な言葉で書かれており、ITアレルギーの方でも楽しく理解できる内容になっています。
おすすめポイントを一言で言うと
プログラミングとはなんぞやからテクノロジーの現在まで、わかりやすく理解できます。
【著者】岡嶋裕史
【出版】日経BP社
【定価】1800円 (税別)
>『実況!ビジネスチ養成講座 プログラミング / システム』購入はこちら
⑧日経BP 『本当に使えるDXプロジェクトの教科書』【初版:2020年3月30日】
DX推進、実際の進め方が明確になる一冊
DXプロジェクトをどのように進めるべきか、この一冊にしっかりまとまっています。システム関連のプロジェクト経験がなくてもわかるレベルの言葉に落とし込んで書かれており、「壮大すぎてどうすればいいかわからないDX」に光明が差します。
この本のポイントは「AIやアジャイル開発を導入することを前提としていない」点です。「DX=AI・アジャイル開発導入が基本」という情報が多い中、必要なら導入するという客観的な視点に立ってまとまっており、さまざま見聞きしてきた情報がきれいに整理されます。
おすすめポイントを一言で言うと
推進にあたり、つねに傍らに置き、読み込むことになる一冊。
【著者】下田幸祐、飯田哲也
【出版】日経BP
【定価】2500円 (税別)
>『企画立案からシステム開発まで 本当に使えるDXプロジェクトの教科書』購入はこちら
⑨日経BP 『総務部 DX課 岬ましろ』【初版:2021年10月6日】
DXを進めていくシーンがありありとイメージできる一冊
昔流行った「もしドラ」と同じく小説形式で、洋菓子メーカーのDX推進担当を任された主人公のストーリーを追いながら、DX推進のポイントを紹介していく内容です。
DXの約8割が、デジタル技術の導入ではなく、企業変革・関係者の説得であることから、どのように、どのような順番でコミュニケーションを重ねていくのかをイメージできているかどうかでDXの成否が決まります。主人公がどのように考え、どのような言葉で関係者を引っ張っていくのか非常に参考になります。
おすすめポイントを一言で言うと
DXに人を巻き込むコミュニケーションの方法が学べます。
【著者】須藤憲司
【出版】日経BP
【定価】1600円 (税別)
⑩SHOEISHA 『ここはウォーターフォール市、アジャイル町』【初版:2020年10月14日】
アジャイル組織への変革のむずかしさが、ありありと理解できる一冊
こちらも「もしドラ」と同じく、アジャイル組織への変革を図る主人公のストーリー仕立てのアジャイル導入指南書。アジャイル開発について書かれている本はたくさんありますが、エンジニア向けのモノが多いせいか内容が細かすぎて専門的過ぎて、エンジニアではない人にとっては読了がむずかしく、対してこの本は非常にわかりやすくアジャイル開発を理解できます。
上記でご紹介した「DX課 ましろ」もそうですが、結局は論理よりも、どのようにあたらしい文化を浸透させていくかの方が多大な労力がかかり、ストーリー仕立ての本はその立ち回り方を理解させてくれる点が優れています。
おすすめポイントを一言で言うと
自社にアジャイル開発を浸透させていけるかどうか、明確にジャッジできるようになります。
【著者】沢渡あまね、新井剛
【出版】翔泳社
【定価】2280円 (税別)
>『ここはウォーターフォール市、アジャイル町 ストーリーで学ぶアジャイルな組織のつくり方』購入はこちら
⑪東洋経済新聞社 『プロの課題設定力』【初版:2009年8月13日】
DXが進まない隠れた要因は、推進者の課題設定力不足かもしれない
社長は「DXを推進せよ」と丸投げ、担当者が提案を出すと却下。この繰り返しで疲弊していくDX推進担当も多いと思います。この状況を、多くは「日本の社長は失敗を恐れすぎ」という論調で終わらせてしまいますが、実は担当の課題設定力に問題があるかもしれません。
本書はプロジェクト推進が上手いPMから紹介された本。他の人が提案し却下されたものを彼が巻き取り「同じ結論なのに、プレゼンのやり方を変えただけで提案を通して」いくのですが、ここに書かれていることを実直に実践しているそうです。DXの本、ではありませんが、重要な考え方が載っている一冊です。
おすすめポイントを一言で言うと
この1ピースが欠如していることでDX推進が頓挫する。
【著者】清水久三子
【出版】東洋経済新聞社
【定価】1500円 (税別)
まとめ「自分の言葉でDXを語れるようになると、DX推進は進む」
「DXに取り組まなければいけない背景を知る」「DXとはなにかを知る」「DXはどう進めればいいのかを知る」という3部構成でおすすめ書籍をご紹介しました。特に本記事では「DXの本ではない本」「小説形式のライトな本」もあえてご紹介しています。
「DXの本ではない本」にも視野を広げなければ、世の中に流通しているDX関連の情報の受け売りでDXを推進していくことになります。「小説形式のライトな本」も読まなければ、腑に落ちるところまでの理解は得られません。意志がこもらず、社内メンバーを巻き込んでいくことは難しくなります。
これは読んでみたい、と思えるものとあわせて、これは別にいいかなと思えるものも読んでみてください。DXとつながる意外な発見がたくさん詰まっています。
DXはビジネスモデルの再構築です。ぜひ、テクニカルな情報だけを仕入れ短期で済まそうとせず、社内文化の変革もセットで遂行できるよう深い内容にまで足を踏み入れてみてください。
執筆者
リビルダーズ編集部