DXナレッジ

デジタル化で終わる企業の共通点は「ミッション不在」。

 
ミッションがない企業はDXしなくてもいい、というお話です。

「ミッション?あんな標語なんて後でいい。まずデジタル化が先だ。」

という声が聞こえてきそうですが、実は日本企業のDXが「デジタル化」で終わってしまう傾向にあるのは「ミッション不在」が要因になっていることはご存じでしょうか。

ミッションの重要性についてはこれまでもお伝えしてきました。今回はさらにわかりやすい切り口でお話していこうと思います。

これまでミッションについて書いた記事
DXの一丁目一番地。「ミッション」がなぜ重要なのか、調べてみた。
日本はDX後進国以前に、ミッション後進国だ。( 続・ミッションの重要性について調べてみた。)

「株式」という仕組み上、四半期ごとに売上を追わなくてはいけない関係から中長期的目線が失われがちな現代。ゆえにミッション策定がおざなりになっている企業が多いですが、ミッションがない企業=DXでやることがない企業です。
 

業種に縛られると、デジタル化しかやることがなくなるDX

 
「DXとはなにか」定義はさまざまありますが、『いまこそ知りたいDX戦略 (著 石角友愛)』にどんぴしゃな定義が書いてありました。

「会社のコアをデジタル化することがDXである」

コアとは、つまり、ミッションです。

ミッションとは、つまり「その会社が、神から与えられた存在意義」のことです。その企業が人類にどんな価値を提供する存在なのか、です。

存在意義をデジタル化するとはどういうことか。例えば、自動車メーカー。

そもそもITの強みとは「業種を越えさまざまな領域に参入する力を手にすること」です。さまざまな領域に参入することで「イチ・モノ」「イチ・サービス」を提供するのではなく「イチ・価値」を提供する企業に変革することがDXの本筋と言えます。

Amazonは元々本をWEBで売ることからスタートした企業です。ですが現在ではあらゆるジャンルの商品を取り扱っています。本屋が百貨店になるのと同じです。このように業種を縦横無尽に広げることが出来たのは、AmazonがIT企業だからです。

短期的・近視眼的に現在の事業をデジタル化してしまうのではなく、視点をグッと高くし「自社が人類に提供できる価値ってなんだろう」と考え直すことが、デジタル化で終わる企業になるか、DXによってすべきことがたくさんある企業になるかの分岐点になるのです。

ですが実際は、ミッション策定からスタートせず、デジタル化を進めている企業が非常に多い。挙句、デジタル技術に合わせて自社の文脈を考えず、関連性がまったくないビジネスを手掛けてしまう傾向があります。

たとえば「サブスク」。アドビのサブスクが成功モデルとして取り上げられましたが、あれはクリエイターにとってなくてはならないツールを提供していたアドビだから成功した事例であり、サブスクをやったから成功した事例ではありません。ですが、サブスクブーム当時さまざまな企業がサブスクビジネスに乗り出し失敗しています。

DXは、まず、ミッション策定から。ミッションを策定せず、トレンド技術・ツール・ノウハウを取り入れることで「デジタル化止まり」「システムの複雑化」「負の遺産の増大」が進み、倒産する可能性が高まっていくことになります。
 
 

ミッションに忠実な海外企業たち

 
パタゴニアと聞くと、アウトドアウェアブランドであると思われる人が多いかもしれません。ですが、パタゴニアは2011年より、ビールやシーフード、スープなどウェア以外オリジナル食品を生産販売しています。

パタゴニアは自社のミッションを「故郷である地球を救うためにビジネスを営む」と設定。リサイクル素材でウェアを作り、土壌を改善する作物でビールを作り、領域を越えさまざまなビジネスを通じて人々に環境を考えてもらう企業へと変革を果たしています。つまり、パタゴニアは現代ビジネスをマネジメントする企業に生まれ変わっているのです。

>パタゴニア社の現在:「持っているものを、長く使って」破れたダウンジャケットも、お洒落なリペアでよりオリジナルな製品に

コロナワクチンで有名になったモデルナも、実は自社を製薬会社と位置づけていません。モデルナのコア・ミッションは「生物学に携わるITカンパニー」。元々は製薬会社でしたが、DXを推進し、自社が弱い領域はすべてオートメーション化。コア領域に投資を集中することで、生物に関するあらゆるメディカルプロダクトをハイクオリティかつすみやかに生産することができる企業へと進化を遂げています。
 

業種の垣根がなくなるIT

 
ソニーが自動運転車の製造販売に参入していることはご存じでしょうか。

自動車製造は、長年のノウハウと、大規模な工場・販売網の整備・研究開発基盤など巨大資本が必要な領域であり、これまで参入ハードルが高い業界でした。ですが、自動車製造経験がまったくないソニーが参入を果たすことに成功している。なぜか。

それは「自動車開発をまるごとウェブ上で行えるソフト」が開発されているためです。3Dシミュレーションによって、自動車メーカーと同等の性能や品質を備えた自動車を設計することができ、そのデータを基に自動車部品メーカーが開発。自動車製造未経験の企業でも短期間に車を開発することができる時代になっているためです。

さらに元々ソニーは「自動運転に必要なセンサー」「通信技術」「映像・音響などのエンターテイメント技術」を持っていたため、自動車さえ作れれば難なく自動運転車が作れる条件が揃っていました。
 

業種にとらわれない企業が、全体をコントロールする時代に

 
以前より「DXの理想はプラットフォーマーになること」とお話しています。そして、プラットフォーマーとは業種にとらわれサービス・モノを点で提供していく企業ではなく、サービス・モノをつないで線にすることで「価値」を提供していく企業です。

カンタンに言えば「世の中のモノ・サービスを編集していく企業」ということです。
 

引用:『アフターデジタル』日経BP 著者:藤井 保文・尾原 和啓 (本文中の図を引用し、読者の解釈を助けるために情報を補足して作成)

 
業種にとらわれるということは、上記図でいうところのサービサー・メーカーのポジションになるということです。最上流のプラットフォーマーが要求するサービス・モノを提供するだけの企業になります。

「価値」とは、サービス・モノのように具体的なモノではなく、抽象的なモノです。

たとえば、

「年功序列ではない方法で、年を重ねるほど給料が上がり続ける社会を作る」
「第一印象の良し悪しで損をしない世界を作る」
「寝不足をこの世からなくすことで、人類を開花させる」

など、サービス・モノ単体では成しえない価値の定義です。

こういったことを考えることができない企業が多いため、ミッション策定は後回し・もしくは放置するということになりがちですが、なぜ考えられないのかというとこれもまた業種に縛られているからです。

自動車メーカーだからといって「自動車を生産すること」を起点に考えはじめると、ミッション策定は困難になります。一旦従来行ってきたビジネスは外に置き「そもそもなぜ自動車を製造する会社がはじまったのか」の原点に立ち戻り、自社が人類にもたらしたい価値はなんだったのかを深堀することでミッションを策定。

そのミッションを実現するために、従来のビジネスが実は不要であれば捨てる。必要であれば使う。さらに、他社のビジネスなども巻き込んで線を創っていく。ミッションが先にあり、その実現のために必要なビジネスを再策定していくというのが通常です。

ITによって業種による垣根が低くなってしまった現在、「やったことないビジネスはやらない」はもう通用しません。自走車メーカーが食品を製造しようが、教育業界に参入しようが普通の時代がもうやってきているということです。
  

まとめ「なんでもありだが、なんでもありではない」

 
ミッションの重要性について、あらためて違う切り口でお話しました。

●従来の業種に縛られたビジネスのままではデジタル化で終わる。ミッションを設定し、業種に縛られない枠組みを手に入れないとDX推進の意味をなさない。
●ITによって、経験がない領域に参入できる時代になっている。業界を超え、価値を提供する企業になっていくことがDXの本筋。
●従来の業種に縛られたビジネスを続けるということは、下請けのポジションになっていくということ。従来のビジネスを一旦忘れ、ミッションを策定しなおすことが重要。

実は、デジタル化をはじめる前にするべきことがあることをDXレポートは教えてくれていません。このミッション策定もそうですが、既存ビジネスの見直し・不要なワークフローを削除することも重要です。なぜなら、無駄なモノの上にデジタル化を重ねていくと、無駄なものがたくさんたまっていってしまうからです。

ミッション策定や既存ビジネスの見直しができないなら、一度DXは中断すべきです。そのまま突き進めば、膨大な投資の果てに複雑怪奇な企業が出来上がるだけ。

現在「負の遺産」と言われている基幹システム・ERPもまた、かつては「組織改革の決定版」として一大ブームを巻き起こし、多くの企業に取り入れられたモノであることを忘れてはいけません。ミッション策定・既存ビジネスの見直しを通じて自社のコアを見つめ、自社のコアに不要な施策が明確に見定められる状態になってようやくDXははじまります。
 

参考:
『進化するデジタルトランスフォーメーション Beyond 2025』 発行:プレジデント社 著者:松井 昌代
『DX CX SX 挑戦するすべての企業に爆発的な成長をもたらす経営の思考法』 発行:クロスメディア・パブリッシング 著者:八子知礼

 

執筆者
リビルダーズ編集部

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