なぜ、DXがデジタル化で終わってしまうのか。
その原因は「ミッションの不在」にあるかもしれません。実際、まだまだ明確にミッションを定めている企業は少ないです。
ですがこれは、そもそもミッションがなぜ重要なのか、根本的に教えてくれる情報がないからかもしれません。(「Whyが重要である」という抽象度の高い情報はたくさんあります)
DXはまず最初に、ミッションの設定から取り組むべき!
その理由について、いろいろ調べてみました。
そもそも、ミッション流行の背景
ミッションとは「企業の存在理由」です。
つまり「その企業は、社会にどんな益をもたらす存在なのか」。たとえば「ガンという病気をこの世からなくす」など、創業者が企業を作った理由・想いです。
創業者がいない企業はありません。どんな企業にもミッションはあるはず。ではなぜいま、このミッションの重要性が叫ばれはじめているのか、その背景についてお話します。
株式が、ミッションをこわした
まず「株式会社」についてお話しする必要があります。
それは、大きなミッションを実現するためにヒト・モノ・カネを集めるための仕組みとして作られたものでした。株式会社のはじまりは1600年、イギリス東インド会社。「欧米からインドまで航海し香辛料を仕入れてくる」というミッションを果たすため、乗組員 (ヒト)・船 (モノ)・出資者 (カネ) を調達する目的で設立されました。
ですが現在、「株式会社」はミッション二の次・利益第一です。四半期ごとに業績状況を株主に報告し利益を配当する、現在の株式会社のあり方ではどうしても短期的な利益を優先せざるを得なくなるためです。
結果、ミッション実現など長期的な目標、いわゆる「公益」はないがしろに。短期的な利益を追及するがゆえに起きているのが環境破壊問題などです。
近年、この状況を見直すムーブメントがアメリカを中心に起きはじめ、その象徴となっているのが「B-Corp」という「営利よりも、社会の公益を優先する企業」群です。(B-Corpは、Public Benefit Corpporation のの略称)
B-Corp誕生とともに「株主の利益を犠牲にしてでも社会的利益を追求することを保護する法案」も制定され、すでにニューヨーク・カリフォルニアなど32州で可決。パタゴニアやユニリーバなどグローバル企業をはじめ、B-Corp認証を採用する企業が増え続けています。
PCが、株式をこわした
なぜ「株式会社」のあり方が問われはじめたのか。きっかけになったのは、PCです。
20世紀、企業は「株式」の導入によりかつてないほどに巨大化し、どのように統率を取るべきかという課題に直面します。
当時唯一存在していた、統率がとれた巨大組織の参考モデルは「軍隊」でした。企業は、軍隊を参考に、トップの指示命令を効率よく実行に移していくピラミッド型の階層構造を模倣していきます。
こうして官僚制の巨大組織構造が出来上がっていったのですが、それに対する抵抗として生まれたのが1960年代のカウンターカルチャーであり、インターネットであり、PCです。
PCを使うことで巨大化しすぎた組織を分解する方法が検討され、分解した機能をもとに生まれ始めたのが中小様々な大きさのベンチャー企業です。
実は、起業する動きがはじまったのはここ10年ほどですが、アメリカではすでにGoogleに就職する人は2流・1流は起業するという価値観が定着しています。このあたりを切り取っても、日本の価値観は遅れを取っている印象です。
海の向こうではもう、営利優先の株式会社から、公益・ミッション企業の時代に移り変わりはじめているのです。
DXにおけるミッションの必要性
では、DXにおいてなぜミッションが重要なのかについてお話していきます。
まず、営利企業はグローバル受けしない
「市場をグローバルに広げる」こともDXに取り組む一つの理由ですが、お話してきた通り、海外は、公益・ミッション経営にシフトチェンジしはじめています。
誰が見ても営利目的でしかない企業は世界から関心を持たれづらいため、DXする意味は半減します。
世界の、「ミッションに対する関心度」が高まっていることが分かるのが「森田畳店」の事例です。東京の荒川区にある1933年創業個人経営の畳屋さんですが、ホームページ一つで一気に世界から注目されるようになり、いまでは2日に1回海外から発注を受けるほどの人気店です。映画007やパリコレから発注依頼を受けたことでも有名です。
森田畳店のホームページは、お世辞にもデザインが洗練されているとは言い難い内容です。ですが、想いの丈・情報がびっしりとつづられたテキストに本物を感じたと、パリコレ発注担当者は語っています。
森田畳店の売りは畳に対する想い。技術はもちろんですが、畳の良さを世の中に広げていきたいという想い=ミッションです。営利よりも公益・ミッションを重視していることがよくわかるホームページになっています。
事業を整理する理由になる
グローバル企業と戦うには「多角的経営」が足かせになります。
自分たちが競争すべき領域を定め、そこにリソースを集中させていかなければ世界とは戦えない。そのために、自分たちがやる意味が薄い事業はカットしていかなければいけません。
その選定基準として必要になってくるのもミッションです。ミッションとズレている事業は思い切ってカット。ミッションと合致する事業を残していきます。
最優先で残さなければいけないのは、ミッションに共感して働いている人たちです。ミッション共感者は、会社の奴隷ではありません。ミッション実現のために自分で自分の行動を決定する力が高い傾向があり、変化が激しいDX時代において重要な競争力の源泉になります。
では、ミッションとズレている事業に共感している人たちはどうすればいいか。その事業に共感し買収した企業で花開くことになります。
たとえば以前、コニカミノルタがカメラ事業をソニーグループに売却しましたが、ソニーグループとカメラ事業はミッションが合致していたため、ソニー傘下で順調に育ち、結果ミラーレス一眼カメラが業界トップシェアに変貌しています。
ミッションを選定基準とすることで、こうした幸せな事業整理も可能となります。
攻めのITの羅針盤になっていく
DXは「攻めのIT」を次々繰り出していくフェーズに入ってからが本番です。
プロダクトやサービスを作りこまずリリースし、顧客のフィードバックを受け改善していく。このサイクルを早く回すことが、攻めのITの基本となります。
一点注意しなければならないのは、攻めのITで育てていく事業は「顧客と一緒に創っていく事業」であるという点です。つまり「アンコントローラブル」であるということです。顧客ニーズの何を受け入れ、何は受け入れないという線引きがないと、企業が事業に引きずり回されてしまいます。
この線引きも、ミッションです。ミッションを線引きに持たない会社は「儲かるからやる・儲からないからやらない」というジャッジになってしまいます。すると世界の流れからだんだん孤立していってしまうことになります。
DXを推進していきやすくなる
DXは「経営者のコミット」が重要です。
ですが、日々の経営活動に忙殺されている経営者だけにコミットを要求するのは現実的にきびしいのも実情です。経営者以外にも、DXを推進する担当が必要です。
この担当者が、社員の目に「社長に言われてやってるだけの人」と映ってしまえば、社員の協力を得ることはできません。
多くの社員にとって、DXはネガティブなことです。DXが進むことで自分の担当業務がなくなる可能性もありますし、余計な仕事を増やしたくもありません。また、推進担当者の仕事を手伝うことで、手柄をあげさせる義理もありません。
DX推進担当に適しているのは、ミッションへの強い共感を持ち、ミッション実現のためにみんなに協力を仰げる人です。「社長に言われてやってるだけの人」ではなくなるため、少なくとも、ミッションに共感する社員たちは動いてくれる可能性が高くなります。
データを集めづらくなる
自社の利益のためだけにデータを使う企業に、データは集まりません。
ユーザーがデータを渡してもいいと思える企業は、そのデータを社会をより良くするために利用してくれる企業です。それはつまり、明確なミッションを掲げている企業。
中国で一番ユーザーのデータを持っている企業はアリババ社ですが、アリババ社によって中国国民の生活水準が向上しているとみんなが認めているからデータが集まっているわけです。
日本にはまだ、データを集めて活用するフェーズに達している企業は少ないためイメージしづらいかもしれませんが、DXにおけるミッションの重要性で最もクリティカルなのはこの話かもしれません。
その他ミッションの重要性
課題設DX以外にも、ミッションが及ぼす影響は大きいです。
労働人口の半分から指示される
世の中の労働人口の半数以上はすでに、ミレニアル世代と呼ばれる1980年代前半~2000年前後に産まれた世代です。
ミレニアル世代が仕事に求めるのは、金銭だけでなく、働く意義や社会を変えていくこと。先にお話したB-Corpで働きたいというミレニアル世代は非常に多いようです。
裏を返せば、ミッションがない企業は、今後労働力を失う可能性があるということです。
投資家から価値が高い企業だと思われる
投資家が企業価値を見極める物差しとして、ミッションに注目する傾向が広がっています。
世界最大の資産運用企業であるブラックロックも「ミッションは利益を達成するために必要な活力である」と述べています。
他社とコラボレーションしやすくなる
企業単独でデジタルディスラプターと戦うことは不可能です。
他社と連携し、集団で戦っていく必要性はDXレポートにも記載されています。ですが、ミッションがない企業は、自社の利益にしか興味がない企業と同等ですから連携はきびしい存在とみなされるでしょう。
当事者意識が高い人が集まってくる
ミッションに共感して入社した、というケースが年々増えています。ミレニアル世代が増えてきている証拠かもしれません。
ミッションに共感している人は、ミッション達成のために自分で考え動ける傾向が高くなります。少なくとも、お金以外に働く意義を求めている時点で当事者意識が高いと言えます。
また、ミッションとは会社の存在意義。ここに共感している時点で、視座が社長と近くなります。飾りではなく、本当に社長の想いから産まれたミッションならば、企業を革命軍に覚醒させる力があります。
DXは、ミッション創りから
ミッションが本格的に重要視されはじめたのは、ここ10年くらい。
それ以前に設立された日本企業の多くは、欧米企業の模倣ビジネスを軸に成長してきた企業であり、ミッションを持っていないケースがほとんど。理念があったとしても、利益拡大を「雇用拡大」という言葉に言い換えているだけであったり、ミッションとは別物だったりします。
ですが長年生き残っている企業には必ず、創業者の想いがあります。日清食品グループは「誰もやっていない新しいことをやりたい」という創業者の想いからスタートしています。その想いがミッションとして受け継がれていることは、最近の日清食品のTVCM・商品開発にも見て取れます。
創業者がどんな想いで会社を創ったのか、胸の奥の感情を言葉にする。つまり、ミッションは市場調査などして創作するものではなく、見つけるものです。
最後に、ミッションワードを作る際のポイントをお伝えしておきます。
大きい言葉で終わらせない
CMのキャッチコピーをお手本にしたような、キレイなミッションワードは要注意です。
CMのキャッチコピーは、不特定多数の目に触れ、売上を最大化させることを目的とした言葉です。そのため、誰が見てもある程度共感できる、抽象度が高い大きな言葉になります。そのため、CMをお手本にしたミッションワードは「いいこと言ってるんだけど、ホントはピンと来ない…」という言葉になりがちです。
ミッションワードに適してるのは、具体的で小さい、若干のマニアックさを感じさせる言葉です。
自分の言葉で語るとき、人はいい声で話す。
インナーブランディングを手掛ける株式会社サインコサインのフィロソフィーワードですが、創業者の胸の奥の奥にあった感情を、小説の書き出しのようにそのまま表現しているような言葉です。
もちろん企業規模によるとは思いますが、小学校の標語のような当たり障りのない言葉になってしまえば機能しないので避けるべきです。無理にキャッチコピーのように一言で言い表そうとせず、文章でも良かったりします。
自社の利益目的になっているモノはダメ
ミッションは、企業の存在理由・社会的公益の宣言なので、利益目的で逆算して作っている言葉はダメです。それならばいっそ、ただただ、経営者の、打算のない魂の叫びのほうが良い。
すべてを、なくしていく。
IT業界の多重下請け構造をなくしていくことを命題に掲げる、情報戦略テクノロジーのフィロソフィーワードは代表の心の声をそのまま表現しています。
世の中に対する挑戦がないモノはダメ
女のからだを自由にする。
シャネルのミッションワードです。20世紀前半まで女性はコルセットを付け、床を引きずるスカートを着用し窮屈な思いをしていました。そんな、男性の趣味を強要させられていた女性たちを解放するために産まれたのがシャネルというブランド。このようなミッション企業が社会の常識を変えてきて今があります。
全社員が納得する言葉、ではなく、あくまで創業者の想いを言葉にする。その想いに共感する人が集まり、当事者意識が高い集団が出来上がる。ぜひDXは、企業の存在理由に想いを馳せるところからスタートしてみてください。
執筆者
リビルダーズ編集部