DXナレッジ

学歴偏重企業は、DX不要説。

 

ウチは本当にDX、必要なんだろうか?

膨大な予算が必要な割にリターンが明確に見えてこないDX。これでは取り組むべきか否かのジャッジすらつかない、というのが正直なところではないでしょうか。

一点、ジャッジの参考として
「学歴・ロジカルシンキング偏重主義の企業は、DXは不要かも」
というお話をさせて下さい。

 

DXは、感性・センスがカギを握る

DXの本質は「攻めのIT」にあります。
レガシー基幹システム刷新は下記でいうところの第一段階「モード1」です。

モード1「守りのIT」
SOR (Systems of Record) 既存業務の効率化
 
モード2「攻めのIT」
SOE (Systems of Engagement) テクノロジーによる事業創出

「モード1」「モード2」は、IT分野の世界的な調査企業 ガートナー社が「ITシステムとひとくくりにせず、2つに分けて考えましょう」と推奨している呼称です。DXレポート2にも少し出てきています。

モード1の特長は「既存業務を観察することで企画できる」こと。
たとえば、オンプレミス上で実行されていたものをクラウドに変換していくこと、などです。

対するモード2の特長は「市場をゼロから創り出すビジネスを企画する」こと。
モード1のように「すでにあるものを改善する」ようなわかりやすさがありません。

現在、DX伴走パートナーとして、コンサルティング企業にオファーが集中していると聞きます。おそらくそれは、このモード2のシステム構想を見越してのことなのだろうなと推察されます。

ですがそこに問題があることを、マイクロソフト・グーグルでプロダクトマネージャー・エンジニアリングマネージャーを歴任されてきた及川卓也さんが言及しています。

しかし、コンサルタントに依頼したら市場を調査してくれて、画期的な新規事業を提案してくれるーーそれでいいなら、日本は「失われた30年」と言われるような状況には陥っていないでしょう。市場やユーザーを調査して事業計画を立てること自体が悪いわけではありません。問題は、すでに顕在化しているニーズを調べ上げ、それに応えるような新規事業を作ろうという考え方にあります。

「ソフトウェア・ファースト」出版:日経BP社 著者:及川卓也

顕在化しているニーズに応える事業を立ち上げてもイノベーションは起きない、とはよく言われることです。

顕在化ニーズを基にせず成功した例として、よく出てくるのがソニーのウォークマン。

市場調査を行わず、創業者 井深大さんの「飛行機で好きな音楽を聴けるようにしたい」という個人的欲求を叶えるために、たった4ヶ月で作られたものです。リリース直後は、あまりの奇抜さにメディアや販売店の反応が薄かったのですが、徐々にクチコミを中心に話題が広がり、世界的な大ヒットにつながりました。

iPhoneも、直感・センスで意思決定するジョブズによって生まれたモノです。著作家で経営コンサルタントとしてご活躍中の山口周さんもおっしゃっています。

山口さんは、iPhone発売当時、携帯電話開発のプロジェクトに参画されていたそうです。日本のメーカーは、市場調査の結果「二つ折りでボタン大きめの携帯が売れる」という判断の元、各社そろって二つ折り・ボタン大きめの携帯をリリース。結果、iPhoneがあっという間に市場を席巻していくのを見て、頭のいい人たちが教科書通りマーケティングをやって勝てる時代は終わったと痛感したそうです。

「グループインタビューではあたらしいプロダクトは作れない。人はモノを見せてもらうまで、自分はなにが欲しかったのかわからないモノだ。」とジョブスも言っています。

モード2「攻めのIT」で作るデジタルビジネスがイノベーティブなモノになるためには、理性・ロジカル主義で「他社と同じ平凡なモノを作ってしまう」兆候から、感性・センス主義で「圧倒的にちがう唯一無二のモノを作る」兆候へと転換を図る必要があります。

ですがこの転換が、日本に立ちふさがる大きな壁になる可能性が高いです。

 

感性・センスを殺す学歴主義

日本は「高学歴が就く高給職業がパワーを持ち過ぎてしまった国」と山口周さんはおっしゃっています。コンサルタント、弁護士、医者、企業の役職者やマネジメントクラスなどですね。

高級職業の特徴は「理性・ロジカル側」であること。企業内で理性と感性が闘うと、感性が負けてしまうのは説明不要で誰しもイメージできることだと思います。理性側に、データ・ロジック・分析結果を付きつけられてしまえば、感性側はぐうの音も出ず論破されてしまうからです。そのため、高学歴の人たちは自然と理性・ロジカル側の仕事につきます。

山口さんは「偏差値の高い人たちが手っ取り早く高給を取ろうと思って真っ先に考えるのが、理性やサイエンスを軸にした領域」と強めにおっしゃっています。

高学歴の人たちが、長い時間修行を積まなければならない感性・センスの領域の人たちを「職人」と呼び、ビジネスとはちがう世界の住人のように見なす傾向があるのも「手っ取り早く高給が取れない仕事だから」なのかも知れません。

余談ですが、ジョブズが感性・センス側の人間だったのは、禅の影響が大きいと言われています。実は、ジョブズをはじめとするシリコンバレーのエンジニア達は、禅の「合理的な理解よりも、体感的な習熟による理解」を重視する思想に感銘を受けた人たちです。

彼らもやはり、企業のシステム開発にたずさわるようになった当初、ビジネスの合理性と合わず炎上・高稼働に苦しみます。その状況を改善するために提唱されたのが、体感的な習熟による理解を中心として開発を進める「アジャイルソフトウェア開発宣言」です。

アジャイル開発の浸透に四苦八苦している状況を見ても、日本企業は理性・ロジカル主義が幅を利かせていることが見て取れます。

 

実はもう古いロジカルシンキング

ロジカルシンキングという戦略コンサルが作ったフレームワークは、日本に入って来た時にはすでに欧米では古い手法になりつつありました。ですが、日本はいまだにロジカルシンキングがビジネスの中心です。

海外では感性・センスもまたビジネスの重要な要素として取り込まれ、MBAではなく、MFAと呼ばれる美術学修士という学位を取得しようとする人が増えているそうです。

イノベーションと言えば「インサイト」という言葉、聞いたことがあると思います。実はインサイトという考え方は、世界では30年前から言われているものです。

インサイトという言葉は、イギリスの広告業界で1960年代から言われはじめた概念です。その後、1980年代にアメリカに入り、欧米を経て、30年遅れてようやく日本に入ってきた。海外ではずっと以前から、インサイト戦略をビジネスの核としています。

一方、日本はまだインサイトの重要性が浸透しておらず、いまだにロジカルシンキングが幅を利かせている浦島太郎状態です。

ロジカル・理性主義が幅を利かせ、感性・センス主義の爆発力を殺し続けているという滑稽な状況を変えなければ、日本のDXはデジタル化で終わり。なんのイノベーションにもつながらない可能性が高いということです。

 

日本はそもそもイノベーションの感性が低い?!

理性・ロジカルが悪いのではなく、そもそも日本人には感性・センスでイノベーティブな発想ができる人がいないだけではないか、と思われるかもしれません。それはまったくの見当違いです。

山口周さんの『世界で最もイノベーティブな組織の作り方 (光文社新書)』には、日本の個人の創造性は世界的に見てもトップレベルであると書かれています。

・ノーベル賞受賞者数 2001年以降 アメリカに次ぐ世界2位
・黒澤明「羅生門」がヴェネチア国際映画祭の50周年記念祭でグランプリ・オブ・グランプリ
・小津安二郎「東京物語」が世界358人の映画監督が選んだ最も優れた映画に選出
・中国20歳以上の男女に聞いた好きなアニメキャラランキング トップ10中、6が日本のアニメキャラ

本書にはその他、文学、建築など幅広い分野において、日本人の感性・センスのすごさが分かる事例がこれでもかと記載されています。

おもしろいのは、日本人は自分たちのすごさに気づけない傾向があること。

羅生門は、その内容の難解さから映画製作会社から駄作と見なされていたところ、海外の選考委員によって運よく掘り出されたそうです。また、浮世絵は、日本からの輸入品の緩衝材としてくしゃくしゃに丸められて箱に入っていたのを海外の人が見つけ、あれよあれよという間に欧米の一流美術館に何十万点と飾られる美術品になっています。

日本人は、自身では大したことがないと思っていたことを、海外の人に発見され賞賛されるというパターンがよくあります。組織も、社員一人一人の中に眠っている感性・センスを知らず知らず殺してしまっている可能性は十分にありそうです。

 

重要なのは、理性と感性の共存

理性・ロジカルを否定するような話をしてきましたが、否定したいのは、理性・ロジカルを偏重しすぎることであり、感性・センスを軽視する傾向です。理性・ロジカルと感性・センスが同列にならなければ、イノベーションを生み出すことはできないでしょう。

イノベーションというと、よく例に上がってくるのが「AKB」の話。「会うことができなかったアイドル」という存在を、「会いにいけるアイドル」にしたという常識をひっくり返すイノベーティブです。

「会いに行けるアイドル」は秋元康さんの、アイドルソングの売上が落ちてるのはアイドルに直接会えないからだ、という直感からはじまったと言われています。

ですが、このアイディア、秋元さんではなく普通の人が言ったことだったら実行に移されたでしょうか?普通の人が言ったことだったらおそらく、理性・ロジック派から「いや歌唱力が落ちてるからでしょう」「衣装が地味だからでしょう」と言われ、既存の延長線上の改善策をまず優先して取り組めと諭され終わるはずです。

また、ユーザー調査で「会いに行けるアイドル」というアイディアを導き出すことはできたでしょうか?ユーザーに「会えないからアイドルソングを購入しないんですか?」とヒアリングをかけて「いや、会ったことないから分らない」という反応が大多数になるでしょう。結果、わからないものに投資はできないと理性・ロジック派に却下されて終わります。

感性・センスファーストで施策を考え、理性・ロジックで検算する。あまりにも失敗する可能性が高いという場合以外チャレンジしてみる。という流れを基本としなければイノベーションなんて一切起こらず、結局DXは「デジタル化だけ実現できて終わり」になってしまうのではないでしょうか。

 

どちらにせよDXは、学歴偏重・理性・ロジカル主義の見直しから

日本企業の学歴偏重はずっと変わらず続いています。そのことによって、感性・センスを潰している・下に見る傾向については、誰しもが感じていることなのではないでしょうか。事実、クリエイター・職人と呼ばれる人たちの給与水準は下がる一方です。

この状況が続く限り、理性・ロジックで導くことが出来る「がんばってみんなと同じことをする企業」から脱却することはむずかしいでしょう。膨大な予算をかけ、デジタイゼーション→デジタライゼーションと変革を進めることが出来たとしても、その後のデジタルトランスフォーメーションで勝てない企業になってしまう可能性があります。

逆に、感性・センスを売りに急成長しているベンチャー企業を見かけるようになってきました。彼らがイノベーティブな発想により成長したところで買収するという手もあるかもしれません。ですが、買収した後また、理性・ロジック VS 感性・センスの戦いが起き、結局、理性・ロジック派によって強みを潰されていってしまうのではないでしょうか。

理性・ロジック主義から脱却するための一案として、大学中退者を積極雇用するという手はあるかもしれません。ジョブズ、柳井正さん、秋元康さんなど、イノベーティブな人は大学を中退している傾向があります。つまり、学歴偏重から降りた人たちです。ですが、中退=こらえ性がない人と判断してしまいがちなのもまた、学歴偏重企業です。

根本の根本が変わらなければ、DXはなんの見返りも得られない高額投資で終わるのかもしれません。

 

■参考
『ソフトウェア・ファースト ( 日経BP / 及川卓也)』
『世界で最もイノベーティブな組織の作り方 (光文社新書 / 山口周)』

執筆者
リビルダーズ編集部

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