今はどんどん変化するVUCAの時代。
…と言われていますが、いまいちピンと来ない人も多いはず。私もその一人でした。
この変化の速さ具合が具体的に分かる題材があります。
TikTok です。
ショートムービー・マーケティング TkTokが変えた打ち手の新常識
著者 若井 英亮 出版 株式会社KADOKAWA
Twitter、Instagram、YouTubeはもはや古い。
これからはTikTokとすら言われていますが、実際具体的にかみ砕いてみていくと、TikTokが一過性のトレンドなどではなく時代の要請を受け登場した新しい技術であることがわかります。
いま、次々生まれる新技術に対応する企業力が求められています。
SNSの主役交代 TikTokの脅威
TikTokと言えば、女子高生がダンスしているイメージを思い浮かべる方が多いと思います。
中高生の遊びのためのツールイメージ。
ですが、実情は異なり現在、ユーザーの半数以上は25歳以上。40代以上のユーザーも増えており、平均年齢も34.15歳。企業利用も増え始めています。
平均利用時間は主要SNSの中でトップ。Facebook以外のアプリで初めて30億ダウンロードを突破。1億人ユーザーに達するまでの期間はFacebook・Instagramのおよそ半分。あっという間に、世界で最も見られる動画プラットフォームとして君臨する存在となりました。
「ショートムービー」と「レコメンドフィード」
TikTokは、15秒~3分間の「ショートムービー」を配信するプラットフォームです。ショートムービーの走りとも言われています。
また、他SNSと決定的に違うのは「レコメンドフィード」です。
他SNSは、フォローしている人たちの投稿を見ることができるシステムです。
ですがTikTokは、AIによってパーソナライズされた投稿を見るシステムです。自分で選択した情報を見るのではなく、AIによって与えられた情報を受動的に見るというところが大きな特徴です。
これまでのSNSは、自身の投稿を拡散させるためにフォロワーを集める必要がありました。
ですがTikTokはフォロワーがいなくても、AIによってその情報を求めているユーザーに配信され反応が良ければさらに拡散されていく、という仕組み。フォロワーがいなくてもバズを生むことができる仕組みだということです。
驚異的なのは、AIによる受動受信という仕組みで世界で最もみられる動画プラットフォームに成長した点。つまりこれは、AIが選んだものがちゃんとユーザーにヒットしているということであり、AIの精度が非常に高いということです。
TikTokの産みの親、ByteDance社は9年前から、検索・フォローを中心とした能動的な情報収集メディアであるInstagramやYouTubeを横目に、受動的なAIレコメンドフィードに投資していました。
TikTokに見る時代の変化
TikTokの台頭はByteDance社によって仕込まれたモノですが、時代の変化がTikTokを押し上げたとも言えます。
YouTubeではさばききれなかった情報の洪水
誰もが情報発信できる時代になり、世界の情報発信量は年々桁違いに増加。一説では、一つの情報が、世界中の砂粒を集めたうちの一粒ぐらいのレベルになっているとも言われています。
情報量は増え続ける。一方で、人間の情報消費量は変わりません。
効率よく情報収集できる方法が必要となり、短時間で大量の情報量を消化できるショートムービーに注目が集まるようになりました。
YouTubeも動画プラットフォームですが、YouTubeはショートムービーというジャンルを開拓する存在にはなりえませんでした。
YouTuberにとって収益のカギは「いかに広告を仕込めるか」にあります。視聴者が不快に思わない尺で広告を入れていくことを考えると、10分以上の動画が必要になってきます。
そのためYouTubeは、必然的にある程度の尺の動画コンテンツが並ぶプラットフォームにならざるを得ません。
ですがTikTokは広告などの収益体系がありません。TikTokerたちのインセンティブは純粋に「見られること」。むしろ尺が短い動画のほうが拡散され、見られやすくなります。
TikTokの登場によりショートムービーというジャンルが花開き、現在ではYouTubeはShorts、InstagramはReelsというショートムービー機能を搭載し、TikTokに追随しています。
「認知」を担う代表的なツールに
TikTokが台頭してきた背景に、2022年4月より強化された個人情報保護法改正があります。
これまで6ヵ月以内に消去される個人データは「保有個人データ」とみなされませんでした。ですが2022年施行の個人情報保護法では保存期間による定義がなくなり、個人データを取得するためには、個人の同意が必要になったのです。
個人データの取得がむずかしくなれば、インターネット広告の精度が崩れます。
これまでのように適切なターゲットに広告を届けることができていた頃は「いかに購入してもらうか」を重視していればモノが売れました。
ですが、ターゲティング精度が下がり「いかに認知させるか」から力を入れなければモノが売れなくなってしまった。
TwitterもYouTubeもフォロワーにしか情報が届かないため「認知」を補完するツールにはなりえません。TVCMなどのマス媒体は相変わらずお金がかかります。TikTokだけがお金をかけず認知を補完するツールとして存在していたのです。
企業が作ったコンテンツが無力化しはじめている
付随して、コンテンツに異変が生まれ始めています。
これはTikTokに限った話ではないのですが、企業が作ったコンテンツよりも、一般の人が作った「荒い」コンテンツのほうが主導権を握り始めているのです。
順を追って説明します。
まず、テレビを持たない若年層が増えています。持っていても録画して好きな時に見る、CMはスキップするという視聴スタイルです。
さらに、彼らは検索してWEBサイトを見るということすらしません。Twitter・Instagramで検索して情報を得ています。
つまり、彼らは一般の人の「生の声」から情報を得ることがデフォルト化しているのです。彼らにとって、テレビ・Googleで見つけられる情報は企業が作りこんだ「加工情報」。「生の声」に比べると信頼度が低い情報と化しているのです。
この「生の声」によるコンテンツをUGC (User Generated Contents) と呼びます。対して、企業が作りこんだコンテンツはPGC (Professional Generated Contents) と呼び「生っぽさ」が最も低いコンテンツと評価されてしまう時代になりつつあります。
まとめ「この変化についていける企業になれているか」
時代の変化、同時に現れる新しい技術・ツールによってマーケティングや文化がどんどん変わっていくことを、TikTokを通じお話してきました。
●TikTokにより、ショートムービー・AIレコメンドフィードによる受動的な情報獲得の方法が確立され、SNSの主役に躍り出ようとしている。
●容易に個人データを取得できなくなり、WEBマーケティングの精度が落ちた。特に認知獲得が課題となる中で、TikTokが認知獲得を補完する強力な存在に。
●企業が作りこんだ情報の受けが悪くなってきている。この流れはTikTokをはじめとするSNSの一般普及の影響によるもの。
DXの定義に「時代の変化に対応できる企業になること」とあります。まさにTikTok一つとってもこれだけの時代の変化が起きています。
おそらくこれから先ずっと、変化し続けるでしょう。
もはや社内で一部の人だけがWEBマーケティングができる、ということではこの変化の波を乗り越えていくことは不可能なのではないでしょうか。抜本的な社内体制改革はたしかに必要になっています。
次々現れるトレンド事象を見て「やー本質的じゃないな」と二の足踏んでいる内に、世の中あっという間に変化し倒産してしまう、ということが本当に起きる時代であることがお分かりいただけたのではないでしょうか。
■参考:
ショートムービー・マーケティング TkTokが変えた打ち手の新常識 著者 若井 英亮 出版 株式会社KADOKAWA
執筆者
リビルダーズ編集部