DXナレッジ

WEB3から見える、DXのその先。

 
WEB3が話題になっています。(いい意味でもわるい意味でも)

DXとは一見関係のない話なのかと思っていましたが、よくよく調べてみると、DXが向かうその先の世界の話でした。

ビジネスは経済的な合理性のもと進化していきますが、それとは別に、人間は根源的な欲求としてフロンティア・未開の地を求めます。そのフロンティアとしていま熱い注目を集めているのが「宇宙」、そして「Web3」です。

DXとは、企業が、世の中の変化にすばやく反応するアジリティ(機敏性) を獲得することでもあります。世の中の変化の大きな流れをつかむという意味でも有効なWeb3について、ポイントを整理・まとめてみました。
 

Web3とは、プラットフォーマーの独占からの脱却

DXが目指す理想はプラットフォーマーである、という記事を以前書きました。
(元記事「DX後の世界、覗いてきた。( プラットフォームってそういうことか )」)

プラットフォーマーとは時価総額ランキングを独占するGAFAM、中国のアリババなどを指します。Google、Twitter、Facebook、Amazonなどユーザーが日常的に使うプロダクトを持つ企業です。

日本にはプラットフォーマーがいないためイメージが付きにくいのですが、DX以降の世界は、ユーザーの起点であり動向データを握っているプラットフォーマーが最上流に立ち、メーカーやサービスを提供する企業がプラットフォーマーの下につくという構造変化が起きると言われています。ウェビナーでは、ウォーターフォールからアジャイルに開発手法を切り替えたことによる気づき。また、DXとアジャイルの相性の良さについてお話されていました。

ですが、Web3はさらにその先「プラットフォーマーから脱却した世界の実現」がテーマです。

もともとインターネットは誰の所有物でもない、公共のモノとしての存在を目指していました。ですが、気が付けばプラットフォーマーに独占されている状態になっていたというのが現代です。

GAFAMがプラットフォーマーとして君臨することに、大きな害を感じている人は少ないかもしれません。ですが、気づかぬうちに「支配されはじめている」実情があります。

Forniteというスマホアプリゲームをリリースするエピック・ゲームズ社が、Apple社に訴訟を起こした事件、ご存知でしょうか。Forniteの販売窓口はApple社のAppStoreになるのですが、売上の30%を手数料で持っていかれるため、エピック・ゲームズ社は初回購入後、Appleを経由せずに課金できるシステムを開発。すると、AppStoreからアプリを削除されてしまい、エピック・ゲームズ社がApple社を提訴したという事件です。同様のことがGoogleとの間でも起き、エピック・ゲームズ社はGoogle社も提訴しています。

以前書いた記事に出てくるiFixit社も同じく、プラットフォーマーの独占に対する抵抗から生まれた企業です。iPhoneが壊れても自分で修理する術・情報が公開されておらず、Apple社に修理を依頼するしかない状態が常態化していることに疑問をいだいたiFixit社は「修理する権利」を法律化する運動をはじめます。ですがApple社からは「カンタンに修理できるようにするくらいなら、完全にスタンダードを変更する」と法律化にはげしい抵抗を受けています。

このような特定の企業による独占は、ビジネス上どうしても「起こるべくして起こる」事象でした。プラットフォーマーにせよ、国にせよ、銀行にせよ、取引を管理する存在が必要だったからです。

ですが、特定の存在が間に入り管理する必要が「ブロックチェーン」という技術の誕生によってなくなる可能性が生まれ始めています。カンタンに言うと、管理する存在がいなくても、安心・安全を担保した取引が可能になる技術です。

ブロックチェーンの起源は2008年10月。サトシ・ナカモトが公開した「Bitcoin:A Peer-to-Peer election Cash System」という論文からはじまっています。そこには「必要なことは信頼の代わりに暗号的な証明に基づく電子決済システムであり、信頼できる第三者を必要とせず、意思のある二者が直接取引できるようにすることである。」書かれています。

このアイディアを元にブロックチェーン技術が誕生。現在ではこの技術を応用したDeFi ( Decentralized Finance / 分散型金融 )と呼ばれる、中央管理者である金融機関が不要・24時間365日メンテナンスフリー・手数料不要のサービスも産まれています。

このような技術・サービスがどんどん生まれ始め、特定企業が管理し市場を独占する「中央集権化」を解体する可能性が見え始めており、中央集権がない世界におけるあたらしいビジネス構造の総称がWeb3と呼ばれているのです。
 

引用:Web3とDAO 誰もが主役になれる「新しい経済」 著者:亀井 聡彦、鈴木 雄大、赤澤 直樹 出版:かんき出版

 
これまでがWeb2.0、Webを通じて個が発信力を強め、個がビジネスを作ることが出来るようになった時代でした。Web2.0においてユーザーが信頼するモノはプラットフォームでした。

Web3は管理者不要の取引技術が発展し、プラットフォーマーの管理が不要になった世界。信頼を担保するのは特定企業ではなく、ブロックチェーン上にプログラミングされたルール「スマートコントラクト」です。

スマートコントラクトとは簡単に言うと「仕組み」です。自動販売機は ①お金を入れる ②欲しい商品のボタンを押す ③商品が出てくる という、人を介さなくても飲み物が買える「仕組み」を作っています。そのような、無人で目的が達成される仕組みがブロックチェーン上にどんどん開発されていくことで、中央集権化からの脱却を図ろうとしているということです。
 

DAOという、理想的なミッション組織の誕生

中央集権化からの脱却が可能になることで産まれはじめているのが、DAO (Decentralized Autonomous Organization) というグループ・コミュニティです。

DAOはミッションを中心に集まり、グループに貢献するとDAO独自のトークン (暗号通貨やNFTと呼ばれるデジタル資産を総称する言葉) がもらえるグループ・コミュニティです。トークンは換金も出来るため、金銭的価値もちゃんとあります。

一見、オンラインサロンと同じように見えますが、オンラインサロンは主催者がおり、中央集権。売上はすべて主催者のモノになりますし、ルールは主催者が決めます。

DAOには主催者はいません。ミッションと、そのDAOが設定するスマートコントラクトがグループのルールです。もちろんDAO立上げ当初は立ち上げ人がいるのですが、徐々にその人がトップではなく、全員がオーナーとしてどうしたらミッションを達成できるのか相談し合い、協力し合いながら動いていくことになります。

DAOはつまり「社長がいない組織です。ミッション経営企業は増えていますが、企業ですとどうしても利益追求は付きまといます。スピード・効率を重視し、利益が出ない活動はやらないということになります。またどうしても派閥・既得権益領域が生まれるため、企業で純粋にミッションを追及するには限界があります。

DAOにはそうした制約がありません。一人一人がオーナー・社長であり、1人が複数のDAOに参加しても、いつ抜けても、いつ入ってもOKです。企業ではこのように柔軟な人の受け入れ方は出来ません。

企業では真似することが出来ないミッションファーストな組織が、Web3文脈ですでに生まれ始めているのです。
 

Web3時代、企業はどうなっていくべきなのか

ある意味DXが理想とする組織の形がDAOとして生まれ始めているとしたら、企業はどこを目指すべきなのでしょうか。

さきほどお伝えしたように、DXが向かうべき理想はプラットフォーマーだとされていました。ですがこれは、先ほどの定義でいうところのWeb2.0の世界の中での話。

ただのトレンドとして受け流せば良いのでしょうか。いえ、そもそもインターネット誕生の根本目的は「大きくなり過ぎた企業組織の分解と、人間性の解法」にあります。インターネットはその目的の実現を目指し進化を続けており、その結果がWeb3という形で目の前に迫ってきています。

そして、おそらくWeb3で言われていることが世の中の主流になりはじめた頃、Web4が登場し始める。つまり、VUCAの時代と言われるように、この先どんどん変化していくことだけが唯一変わらない真実です。

そんなDX時代、企業が向かうべき方向はなにか。

1つは「デジタル化で止めておく」というのがあると思います。トップダウンではなく、トップとボトムが連携するフラットな組織に変革していくということもDXの命題としてよく言われていることです。ですがトップダウンとフラットな組織はそもそも役割が違います。フラットな組織はイノベーション向きで 0→1 を得意とします。トップダウン組織はスケール向きで 1→100 を得意とします。両方を混ぜれば、双方の得意なことを消し合った中途半端な組織が出来上がる可能性があります。

フラットな組織はDAOのようなグループに任せて、トップダウン企業はトップダウンのままデジタル化だけを粛々と進めておくというのは、方向性の1つとしてありそうです。

もう1つは「DAOに参加するチームを企業内に作る。企業がDAOを主催し管理者になって利益を得るのではなく、世の中のDAOに参加するチームを社内に持つ。スケールが必要な場合、企業のリソースを使いトークンを稼ぐことで収益を得ていくという方向性です。つまりDAOとエコシステムを作っていく、ということです。

このようなアイディアを考えるにしても、やはり市場の変化を常にウォッチしていくことは重要です。企業の、市場の変化に高速で対応していけるアジリティ(機敏性) の獲得がDXの命題の一つであるとするならば、DXとは一見関係なさそうに見えるWEBトレンドは追い続けることは、もはやウォントではなくマストと言えるのではないでしょうか。
 

まとめ「本質とミーハーの間を行き来する

Web3とは何か。またWeb3とDXの関係性について考察してみました。

●Web3とはプラットフォーマーの独占からの脱却。中央集権化から脱却したビジネス構造の構築を指す。
●Web3の一つの象徴として、DAOという、オーナー不在のミッション実現のためのグループ・コミュニティが立ち上がり始めている。ブロックチェーンなどの技術によって可能になった「社長のいない企業」の誕生。
●こうしたウェブトレンドの変化は常にチェックする必要がある。DXで向かうべき先もWeb2.0の時はプラットフォーマーだったが、もはやそれも怪しくなっている。

いちばんやさしいWeb3の教本」という書籍が炎上しました。ユーザーからの技術的な情報が間違えているという多数のツッコミが入り話題化。回収されてしまいました。

また中央集権化の脱却は結局無理と冷笑する流れもあり、今はまだこのWeb3、遠巻きに見ている人が多いのではないかなと思います。

ですが良くないのは「どうせ流行らないから」「本質的じゃないから」と、知ること・勉強することもしないことです。すべてのトレンドには、まやかし・浅はかな思慮と、人間の欲求の流れという本質が含まれています。

トレンドも一応理解しつつ、本質はどこかを探す姿勢が重要です。

いちばんやさしいWeb3の教本も、批判的なコメントを載せている多くのユーザーは「読まずに批判するのはよくないので、買って読んでみたが」という方がほとんどで、他人の批判に無勉強で乗っかる人が少ないことが印象的でした。

VUCAの時代「勉強してないことは不用意に語らない。語るなら勉強してから。」が、DX人材の基本的なお作法と言えるかもしれません。
 
 
参照:
Web3とDAO 誰もが主役になれる「新しい経済」 著者:亀井 聡彦、鈴木 雄大、赤澤 直樹 出版:かんき出版
WIRED 2022 vol.44 『WEB3』

 

執筆者
リビルダーズ編集部

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